230.苦手意識
マキナはイザベラに対して苦手意識を持っている。それは過去にイザベラにこれでもかとボコボコにされた挙句、顔を合わせたらパシリにされるからだ。
じゃあオレには苦手意識を持っている相手がいないかと言うと、一人いる。全然会った事がないけど、初対面というか第一印象で苦手だと思ってしまった相手がいるのだ。
それが誰かと言うと、今オレの目の前にいる女性だ。
「でね、そこでケイジがルシファーになったの」
「ふーん」
今はルシファーの姿をせず、白髪状態のオレ。母艦の会議室にいる今なら、別にルシファーの姿になってもいいんだけど。そんなオレを見ては訝しげな表情を浮かべているその人は、ミカエラの親友のレイチェル。で今何をしていたかというと、ミカエラが彼女に、オレがルシファーになった経緯を説明していたのだ。
彼女と初めて会ったのは、アメリカが大規模襲撃された時。救出したオレがミカエラと感動の再会をしている最中に怒鳴ってきて、怖いと思ったのが第一印象。その後もその印象を払拭出来ていない。今もオレを睨んでいるし。
何故3人でいるのかと言うと、ガブリエル大統領とレイチェルの父親が隣の部屋で打ち合わせをしているのだ。レイチェルとミカエラが会いたがっていたので、急遽母艦で打ち合わせになったらしい。
オレは巻き込まれたというか、前に会った時にオレがルシファーだという事がバレたので口止めしていたのだ。それを半年以上忘れており、ほったらかしにしたらプンプンに怒っていた。で、オレを叩きのめしに来たという訳だ。多分。
「ねえ、オレいる意味ある?」
「ミカエラがいるのに他の女に手を出すクズは黙ってて」
「はい・・・」
ルシファーになってからこんな扱いを受けるのは初めてだ。相変わらずおっかない。
それとミカエラ以外にも想い人がいる事もバレてしまい、肩身が狭い。バレたのはこの部屋に着く前まで一緒にいたイザベラにキスされたのを目撃されたからだ。オレに非は・・・あるか。
「ちょっとレイチェル。ケイジに冷たく当たらないで」
「アンタが優しくするから浮気なんかするクズになるんだって」
「ケイジは浮気なんてしてないわ」
「・・・いや、してたでしょ」
確かにオレには勿体ないぐらい素敵な子達に恵まれている。形は様々だけど、それを人は愛と呼ぶんだぜってな。・・・そんな事言ったら確実に殺される。この子はルシファーすら殺せそうな雰囲気出してるし。
「してない! イザベラだって他の子だって皆ケイジの恋人なんだから」
「・・・ちょっと待って。他にもいる訳?」
ギロリと鋭い眼光で睨まれる。オレは視線を外してとぼけたフリをするが、胸倉を掴まれて無理矢理視線を合わせてきた。
「どういう事かちゃんと説明しなさい」
「ちょっとレイチェル!」
「ミカエラは黙ってて」
あまりの剣幕にミカエラが怯む。友達思いなのは素晴らしい事だとは思うけど、ちょっと過激かと。・・・そんなんじゃ彼氏できないぞ、なんて言ったら殺される。いや、案外彼氏にはベタ甘というかダメ男が好きという癖があるかもしれない。・・・どうだっていいや。
「で、言い訳を聞こうじゃない」
「えっと・・・ミカエラ含めて十人と交際している」
「じゅ、十人!?」
2,3人だけだと思っていたのか、実際は一つ上の桁。それに驚いたレイチェルは体から力が抜け、オレの胸倉を掴んでいた手がゆっくりと外れた。
「前にパーティに参加したメンバー全員とだな」
半年以上前に開催されたレイチェルも参加していた立食パーティ。そこでバレたというか、ミカエラと腕を組んでいたから推測されてオレに辿り着かれた。
「あ、アンタ流石にそれはやり過ぎでしょ! ミカエラもどうしてこんなヤツと一緒にいるの!?」
「ケイジって強いし格好いいし可愛いし優しくて素敵でしょ?」
「ミカエラ・・・」
「ケイジ・・・」
グイッ――レイチェルの事を置いてキスしようとしたが、間に割り込まれて邪魔される。
「だから! こんな二股通り越して十股しているヤツとなんで一緒にいるの!?」
「愛してるからよ」
「オレも愛してるよ、ミカエラ」
「ケイジ・・・」
グイッ――何回邪魔すんねん。
「すぐ二人の世界に入ろうとすんじゃない! アンタ! ミカエラの事本気で愛しているなら他の子と別れられんの!?」
「無理に決まってんだろ」
「はんっ。アンタのミカエラへの想いなんてその程度なのね」
「みんなの事も愛してるからな」
「・・・アンタ、もうミカエラに近付かないで」
レイチェルがミカエラを抱き締め、オレが近付けない様に守る。友達思いの彼女だが、一つ勘違いしている事がある。
「そもそもレイチェルさん――」
「気安く名前を呼ばないで」
・・・この人のファミリーネームなんだっけ? 立食パーティの時に聞いた事があるはず・・・。確か――
「スチュアートさん、あなたは一つ勘違いをしている」
「私が何を勘違いしてるって?」
「確かにオレには10人の恋人がいる。ハーレムって言われてもおかしくはない」
「だから何?」
「オレのハーレムでもあるけど、同時にミカエラのハーレムでもある」
「・・・は?」
そう、ミカエラは男も女もイケる二刀流だ。しょっちゅう誰かをベッドに連れ込んではクタクタにさせている。ルカなんて一度被害に遭ってからトラウマになっているレベルだ。再生の能力を持っていないルカにはミカエラの攻めはちょっと激し過ぎる。
ルカを苛めたいと言った時は、オレの監視下ならいいと一応許可を出したけど、あれは酷かった・・・。というか可哀想だった。ルカ助けを求めながら泣いてたし。あれはゾクゾクしたな・・・。
好きな人、まあオレの目の前で他の子にグチャグチャにされるという快感とか背徳感とか、色々混ざり合って感情がグチャグチャになったのだろう。身も心もかき乱されたルカは涙を流しながらしばらく放心状態になっていた。俗に言うレ○○目を初めて見たのがその時。
そして別の子も、被害に遭っていないのは一人もいない。正妻枠として認識されているミカエラには誰も逆らえないだけなんだけど。イザベラは必死に抵抗しているけど、ミカエラのサイコキネシスに生身で勝つのは不可能だ。勝てるのはオレとクーナさんぐらいだろう。
「本当なの? ミカエラ」
オレのカミングアウトでレイチェルはゆっくりとミカエラの顔を見るが、目を背けられる。流石に親友に同性もイケるクチだとバラすのはマズかったか。フォローしようかと思ってみたが、頬を赤く染めたミカエラがボソッと呟いた。
「女の子同士も案外悪くないよ・・・?」
「ひっ!?」
慌ててミカエラから離れるレイチェル。退いた先にいるオレを盾にしてミカエラから距離を取る。
「ちょっと! 私もそんな目で見てたの!?」
「もう、レイチェルをそんな目で見てる訳ないじゃない」
「私に魅力が無いって訳!?」
何故か逆ギレするレイチェル。コイツ意外と面倒臭いヤツだな・・・。
「めんどくせぇ女・・・」
おっと口に出てしまった。
「なんか言った?」
「イヤナニモ・・・」
なんて一幕があったが、ミカエラの親友であるレイチェルに交際の継続は認められた。更に揉めたらミカエラにやられると悟ったのだろう。
これ以上被害者が出なくて良かった。まあ、オレとしては女の子同士の絡み合いを見るのは嫌いじゃないけど。むしろ好きだ。
――というよりこの子、オレがルシファーだって事確認しに来たんじゃなかったっけ・・・?




