225.蹂躙
全隊員が広く展開し、トウテツを1匹残らず始末する中、生存者を発見する。自衛隊が建物の中でバリケードを組んで抵抗している様子。最弱のオメガとはいえ、一般人が武装しても勝てない相手だ。褒めてもいいぐらいだろう。
「イザベラさん、メイシャさん、建物内の安全確保をお願いします」
ルカに生存者の事を伝えると、2人を指名する。イザベラとメイシャなら問題ないだろう。2人も文句を言う事なく、商業施設の中に入り、生存者の救出に向かう。トウテツの数匹、泥酔していたとしても怪我なんてしないだろう。
商業施設の3階にいるトウテツをあっという間に始末し、6人の自衛隊、自衛官か。それと数人の民間人を連れて建物から出てくる。その表情から疲弊しているのが見て取れる。この数十分は生きた心地がしなかったのだろう。銃が効かない化け物を相手にしていたのだ。仕方ない。オレも新型オメガに全く歯が立たなかった時とかに共感出来る部分がある。
「うおぁ!?」
だが、助けたにも関わらず、クララのペットであるバステトのシロに驚いた自衛官の一人が銃をこちらに向け、そして同時に引き金を引く。
ダンッ――
轟く銃声。その弾丸はあろう事かシロではなく、ミカエラの方へと向かって飛んでいく。咄嗟に翼をミカエラの前に突き出し、弾丸を防ぐ。
ガキンッ――と翼に当たった弾丸は弾かれ、宙を舞ってはそのまま落下して地面を転がる。反応出来たのはルカとメイシャだけだったが、2人共位置が遠いせいで間に合わなかっただろう。もしオレがいなかったら、確実にミカエラに当たっていた。
そしてオレ達が救援だと気が付いた自衛官は「あ・・・」と息を漏らして銃を下げる。
「た、大変申し訳ありませんでした・・・」
すぐに謝罪するが、もしミカエラに当たっていたらと思うと怒りが込み上げてくる。この世から消し去りたいぐらいの殺意も湧いてくるが、別の建物から一般人がスマホで撮影されているから手は下せない。
冷静を保ちつつ、オレは発砲した自衛官の前に立つ。オレと目が合ったが、気まずそうにすぐに視線を外してしまう男の自衛官。
「お前の様な臆病者に武器を持つ資格はない」
「じ、自分は――」
「黙れ」
言い訳をしようとした自衛官に手を向け、サイコキネシスを発動する。肩から掛けている自動小銃とホルスターに入っている拳銃を圧縮し、バキバキと音を立てながら球体へと変形させる。
目の前で起こっているものが信じられないといった様子で目を丸くしている。サイコキネシスを見るのは初めてなのだろう。戦場に出ていない人間が知る由もないか。
「後ろで大人しく守られていろ」
武器を持たせたままだと後ろから撃たれる可能性があるし、黙って大人しくしてもらうしかない。さすがにこんなヤツにまで気を回すのは疲れる。
俯き、トボトボと仲間の元へ戻っていくその背中を一瞥する事もせず、オレ達は進軍を続けた。いつもなら民間人の避難が済んでいるおかげで、周囲のオメガは全てこちらに向かってくるが、今回みたいな場合はバラけるわ建物に侵入するわで時間が掛かってしまう。
そして駆除におよそ2時間近く掛かってしまったが、こちら側の犠牲者はゼロで済んだ。ルカが頑張ってくれたおかげだ。民間人の犠牲者が何人になったかは、知ろうと思えば分かるけど、別に興味ない。
もしかしたらオレの友達が東京の大学に進学して、この場にいる可能性もあるが、今日は平日。大学4年で単位を取り終わっていなければ遊びに出歩いているはずがない。同級生ならみんな20歳、大学2年にあたる歳だ。遊び歩いている可能性は低いだろう。多分・・・オレ中卒だから大学の制度なんて知らんし。
久々の日本だったが、滞在時間は2時間で観光も食事もなし。寂しくはあるけど、もう戻らないと。オレの心情を察したミカエラが手を繋いでくれる。その温かさがあるだけで十分だ。そうしてオレ達は帰還した。
後日、日本の総理大臣と防衛大臣が辞任したのは言うまでもない。連合に再加入した日本は、肩身が狭い思いをしつつも、新しい総理大臣と防衛大臣の2人プラス秘書が会議に参加してペコペコしてい姿は滑稽だった。オレに取り入ろうとゴマをすっていたが、完全に無視。今更遅い。
ニュースで知ったが、今回の日本人の犠牲者は2762人。意外と少ない事に驚いた。トウテツの数が3千だったからその数倍は犠牲者がいると思っていたけど、ファーストコンタクトを経験して危機感を持っている連中がそこそこいた様だ。すぐに避難したのだろう。
となると犠牲になったのはアホだけだと考えたら、罪悪感を抱く必要もない。元々興味もないけど。
ネットの書き込みでは連合と軍が日本の救援を後回しにしたのを叩くものもあったが、連合脱退に反対の声をあげなかった連中が何を言っているのか。同じ日本人としてあまりのバカさ加減に頭を抱えたくなる。・・・あ、オレもうアメリカ人だった。
今回はオレの家族に被害がある訳ではないので、コマンダーもガブリエル大統領も制裁を加えられずに落ち込んでいた。この2人は人の不幸を全力で喜べるサイコパスだから気を付けないと。
ちなみにオレの家族は今回の襲撃で被害には遭っていない。沙紀はまだ高校生だし、上京していない。まだ地元でいつものメンツとバカやっている事だろう。
後方支援部隊の三品二等兵も毎月帰っているみたいだし。沙紀とも会っているのだろうか? 伝言でも頼んでおけば良かったな・・・。と日本に来てプチホームシックになってしまうオレだった。
ただ、帰るのは残りのクイーンを討伐してからになりそうだ。後1年は帰れないだろう。




