224.帰国
アビス討伐後、ソウルに戻るとそちらも既に作戦が終了していた。まあ、斥候型の1万程度、今のルカ達なら20分も掛からないだろう。広場に転がるトウテツの死骸を横目に、みんなの元に戻る。
「終わったみたいだな」
「お兄さん。こちらは民間人の犠牲を出す事なく作戦終了しました」
100点の結果を出したルカ。危機感を持っている民間人が避難指示をちゃんと聞いたおかげもあるだろうが、間違いなくこの結果を出したのはルカ達のおかげだ。
「よくやった」
マキナもオレがあげたハルバードを肩に掛けて、余裕そうな雰囲気を出している。逆に物足りないと思っているぐらいだろう。日本に行けば地獄絵図が待っているはずだ。そこで発散してもらうしかない。
このまま日本に向かっていいかガブリエル大統領に確認する。
「ガブリエル大統領。日本に向かっても?」
『許可する。かなりの被害が出て焦っているみたいだ。連合に戻らせて欲しいとビデオ通話越しに総理が土下座していたよ』
ハハハハと豪快に笑うガブリエル大統領。あの人拷問している最中にも笑えるサイコパスだ。きっと。
オレが思っているよりも危機的な状況に陥っている様だから、すぐに向かうとしよう。
「じゃあ全員、疲れてるとは思うけどこのまま日本に移動するぞ」
「お、久々の日本だな。団長さんよ、牛丼食っていこうぜ」
「いやいや、オメガに襲われてんのに営業してる訳ないだろ。それとオレはもう団長じゃない」
いつまで経っても団長と呼ぶマキナ。まあ、今更別の呼び方をされるのもアレだし、いいんだけどさ。ルカの事を騎士団長と認めていない訳ではないし、別にやめさせる必要はないだろう。学校で学級委員長になったヤツが3年間委員長と呼ばれるのと同じだと割り切っている。ちなみにオレは委員長になった事はない。・・・どうでもいいか。
輸送船に乗り、そのまま東京の上空まで転送して移動。後部ハッチを開けて様子を確認すると案の定地獄絵図が広がっていた。自衛隊が出撃しているが、地球製の武器ではトウテツすらまともに倒せない。無残にも殺されてしまい、無人の装甲車や戦車が転がっている。防衛大臣辺りが会議に参加していれば、こんな事態にはならなかっただろう。
『ひでぇな・・・。お、ハチ公血塗れじゃねぇか』
同じ様に状況を確認していたマキナ。彼の言う通りハチ公の像が血で真っ赤に染まっていた。あの像の後ろに隠れていた人が見付かって喰い殺されたのだろう。ハチ公かわいそう・・・。
「ん? あそこってオレが入隊する前ストバじゃなかったと思うんだけど・・・」
コーヒー飲まないし、ストバになったのはショックだ。それにしてもこの4年で店がガラッと変わってしまっている。まあ、ほとんどは誰しもが知っている大手に変わっているだけだけど。
店は変わってしまったが、その光景を目にして懐かしい、そんな気持ちが胸の奥から溢れてくるが、辺りの血溜まりのせいで涙が出てくる事はない。数百人は死んでいるだろう。ネットでファーストコンタクトの惨状を見た時と似ている。
襲撃から30分も掛かっていないと思うけど、随分犠牲者が出たもんだ。自衛隊も早い対応をしていたとはいえ、銃が効かない相手に勝てる訳がない。戦車に関しては出撃しただけで、主砲を使った痕跡はない。一般人を巻き込む可能性があるから使えなかったのだろう。もし使っていれば数匹はトウテツを倒せていたと思うけど。
『こりゃ古野屋やってねぇだろうな』
「やってたらビビるけどな」
どんだけ牛丼食いたいんだよ。オレも食いたいけどさ。流石にこの有り様でそんな事は言っていられない。
「ケイジ・・・。気にしちゃダメよ」
後ろからミカエラに抱き締められ、同時に慰めてくる。多分、オレが落ち込んでいる様に見えたのだろう。人が襲われているからではなくて牛丼が食えないからだというのは死んでも言えない。
「ありがとう、ミカエラ」
時には、優しい嘘が必要なのだ。この非常な世界では・・・。非常なのはオレとマキナの食欲ではない。決して。
「よし、じゃあ隠れている民間人もいるだろうし、助けに行こうか。ルカ、生き残っている自衛隊の誤射に巻き込まれない様に気を付けてな」
「はい!」
戦場において、最も気を付けなければいけないのは有能な敵ではなく、無能な味方だと、どこかの偉い人が言っていた気がする。やる気がある無能だっけ? 詳しい事は忘れたが、とにかく異能型のミカエラやクララは普通の銃弾でも十分に危険だ。気を付けないと・・・。
――誤射するヤツがいたらただじゃおかないけどな。
一般兵も召集し、全員で地上に降りてトウテツを仕留める為に散開する。オレ一人でなんとか出来るけど、ここはみんなの顔を立てないといけないから手柄を奪う訳にはいかない。
渋谷の丸Qビルの前を中心に、輪となって広がっていく。建物の中にもトウテツはいるが、それはコマンダーのステルスドローンが捉えている。漏らしはいない様なので、もしいたらオレが動けばいい。
そうして、オレは久々に日本の道路を歩くのだった。




