223.3匹の触手
数か月が経過したが、あれ以来みんながオレの傍を離れようとしなくなってしまった。嬉しい反面、動きづらい・・・。
地球への襲撃も何度かあったものの、今までに比べたらその規模はかなり控えめだ。クイーンを討伐したおかげだと思いたい一方で、大規模な襲撃の準備をしている最中なのかもしれないと考えてしまう。
さすがに地球全土を同時に襲撃される事になれば対応できない国も出てくるだろう。オレが地球の周りを飛び回りながらアイン・ソフ・オウルを撃てば・・・対応出来るか。多分何とかなる。
なんて考えていたらオメガの気配を感じた。遅れて警報が鳴り響く。
「さてと、今回はどこかな?」
『今回の襲撃予想ポイントは・・・東京だ』
「おふ・・・」
連合脱退したばかりの日本がターゲットになってしまうとは・・・。助けには・・・政治的観点からも行けないだろうな・・・。
案の定、ガブリエル大統領からも待機が命じられた。まあ、そうなるわな。
「ケイジ殿の家族が危ないかもしれないのに助けに行かないでありますか!?」
とアンジェが憤る。
「いや、オレの家東京じゃないから大丈夫」
「あ、そうでありますか」
とアンジェが鎮まる。
「それにしても本当に見捨てるつもりなのか?」
クーナさんが本気なのか問うけど、助けに行けない理由はもちろんある。
「連合を抜けた以上、助けには行けない。もし助けたら連合を脱退しても助けてくれるって思われるし、連合に所属して資金提供をしてくれている他国に示しがつかなくなる」
「そうか・・・。地球人はややこしいな」
納得していないであろうクーナさん。仲間、というより同胞を見捨てるという行動に怒りを示す彼女を抱き締めては頭を撫でて落ち着かせる。
――他の国も同時に襲われてくれたらそっちを優先したっていう大義名分が生まれるんだけどな・・・。
『クラーケンがポッドを追加で射出した。そっちの着弾地点は韓国、ソウルだ』
ナイスクラーケン。不謹慎かもしれないけど、これで大義名分はこちらにある。日本を見捨てても炎上する事はないだろう。忌まわしいネット社会に住まう暇人共の標的にならずに済む。
「よし、ソウルに行こう」
食べた事ないからトッポギ食べたい、なんて考えながら、騎士団と機械兵のデウスエクス部隊はソウルへと向かう事となった。一般兵は日本にいつでも出撃できる様に待機。
なんだかんだ言って友好国だからガブリエル大統領も見捨てるような真似はしないだろう。多分・・・。
良心が痛まなくもない・・・いや、全く痛まないか。とにかく先にソウルへと移動。新型は確認されず、近隣住民の避難もすぐに開始したので、厳しい戦いになる事はないだろう。
「ルカ、指揮は任せた。オレはクラーケンやってから住民の救助に回るから」
「分かりました!」
指揮はルカに任せ、オレはクラーケン倒してから逃げ遅れた住民の救助を優先。年寄りや子供を見捨てる訳にはいかないし。韓国の襲撃は二度目なので、騎士団と一緒にデウスエクス部隊の顔も売っておきたい。ガブリエル大統領でも選挙活動している訳じゃないけど、支持率アップを目指して。
ソウル市庁舎付近にあるソウル広場。『徳寿宮』と呼ばれる建物の目の前にある大きな道路と広場が今回の戦場。特に意味は無いけど、一度だけ家族と旅行で行った北海道の焼肉が食べたくなる。まあ、オレはすぐに離脱するんだけど。
現場はルカ達に任せてオレは翼を一対展開してからその場で飛翔し、宇宙へと旅立つ。テレポートするよりこっちの方が見映えが良い。表舞台に立ってからは世間体を気にする必要がある。面倒だけど仕方ない。
そのままクラーケンに向かって真っすぐ飛び、セフィロトを抜く。今まで特に理由もないまま三対も翼を出していたが、クラーケン程度であれば一対でなんとかなる。
「光よ」
なんてカッコつけた台詞と共に、斬撃を飛ばしてクラーケンを一刀両断。その巨躯は光の粒子となって消滅する。
「慣れたもんだな」
もはや苦戦する要素を探す方が難しい。一仕事と言うにはあまりにも呆気ない。すぐに地球に戻ろうと思ったが、念の為周囲に何かないか確認すると、オメガとは違う気配を察知する。太陽系の外、別の銀河の中に生命体を感知した。
――あそこってアンドロメダって言うんだっけ?
アンドロメダ銀河に生命体がいるなんて聞いた事がない。コマンダーが確認済みだから間違いないはず。だというのに気配を感じるって事は――
「アビスか」
前に一度仕留めた事があるが、ユグドラシルが『アビス』と呼んでいた存在。それが地球から遠く離れた別の銀河を散歩、もとい偵察している様だ。オメガの相手で手いっぱいの中、あんなのも相手にするのは非常に面倒だ。地球の存在がバレる前に仕留めておくとしよう。
ルカを待たせる事になってしまうが、今回の戦いは楽勝のはず。特に問題が起こる事はないだろう。
気配の正体の近くにテレポートすると、黒いイソギンチャクとタコを足した触手の毛玉みたいなヤツが3匹、宇宙空間を漂っていた。サイズはおよそ直径1メートルの球体ぐらい。どことなくオメガに似ている様な気もしないが、根本から違う様な気もする。
ユグドラシルも殺せと言っていたし、今も出てこないという事は仕留めても問題ないだろう。接近し、1匹を一刀両断。気が付いた2匹が振り返るが、その内1匹を瞬殺。残った1匹を観察しようとしたが、体の中心にある青い輝きを放つ核が黄色に変化したかと思えば、最終的に赤になる。
「信号かよ」
青は問題なし、黄は警戒、赤は戦闘状態と言ったところか。案の定、核が赤くなった最後の1体はオレに向かって突進してくるが、避けて擦れ違い様に核を斬り裂いて絶命させる。
・・・弱い。弱いんだけど、違和感がある。多分だけど、この生物は一つ一つの細胞が知性を持っており、それの塊、つまり集合体なんだ。意識のある細胞が集まって体を形成しているのだろう。全身が筋肉で脳ミソ、それでいて他の個体と感覚を共有している感じかな。
数百匹、もしくは数千匹以上集まると合体して巨大な1つの生物になるんだと思う。キングになって王冠が生える訳ではないが、数が多ければ多い程強靭で巨大な肉体を持つと考えると、繁殖力次第ではオメガを上回る脅威になるだろう。
と、そんな憶測よりもみんなの元に戻らないと。
色んな銀河を偵察している理由は分からないけど、いつか地球はアビスとも戦う事になるだろう。それまでにオメガを絶滅させなければ――




