222.呪い
しんみりした空気の中、眠りにつくかと思ったが、イザベラが再びグラスにウイスキーを注ぐ。どうやらまだまだ呑むつもりの様だ。
「さて、アタシの話は終わりだ。次は坊やの番さ」
「オレの番?」
――一体何を話せと言うのだろうか?
分からずに首を傾げると、イザベラは再びオレの肩に頭を乗せてはグラスに口を付ける。
「何でもいいさ。坊やの悩みでも、家族の事でも」
「悩み・・・」
家族の事は特段話す事はない。仲が悪いとかじゃなくて、あまりにも普通過ぎて話す事がないのだ。いや、オレの普通の話をイザベラが求めているのかもしれないけど、オレも3年以上会えていないし、家族の話をしたらホームシックになってしまいそうだ。
だから悩みについて言おうと思ったが、今オレが抱いている悩みは誰にも解決する事が出来ず、口にしてしまえば彼女達が責任を感じてしまう内容だ。安易に言うべきではない、そう思って口を閉ざす。だが――
「なんだい? アタシには言わせておいて自分は言わないつもりかい?」
「そういうつもりじゃ・・・いや、そうだな・・・他のみんなには言わないって約束できるか?」
ホントは誰かに聞いてほしかった。みんなにはなるべくカッコ悪いところは見せたくないし、辛い思いも悲しい思いもさせたくない。だから言わないつもりだったけど、イザベラは年上だからどうしても甘えてしまいたくなる。
「・・・いいさ。言ってごらん」
彼女もオレの話が深刻だと思ったのか、真剣に聞いてくれる。だから、全て吐き出してしまった。
「この体は不老不死、老いる事も死ぬ事もない。永遠の命を持っている」
「羨ましいじゃないか。いつまでも若いってんだから」
「良い訳ないだろ・・・こんなの、呪いだ・・・」
祝福でもなんでもない。永遠の命っていうのはただの呪いだ。
「呪いなんて・・・何をそんなに悲観する必要があるのさ?」
「・・・100年後にはクーナさん以外みんな死ぬ。1000年後にはクーナさんも死ぬ。その後、オレは永遠に一人だ・・・」
――そんなの耐えられる訳がない・・・。
オレ一人が不老不死になっても意味がないのだ。みんなと一緒でなければ・・・いずれオレは一人になってしまう。みんなは子孫を守れって言うかもしれない。けど、それを永遠に続けなければいけないのだろうか?
みんなの未来を考えるのは楽しいさ。大きい家を買って、今までみたいに一緒にいられたらなんて。・・・でも、その後の未来を考えるのは恐怖でしかない。
――一人になってしまった後、オレはどうすればいいのだろうか?
「誰かに言っても解決出来る話じゃないのは分かってる。でも、誰かに聞いて欲しかった・・・。ごめん、こんな話聞いても重荷を背負わせるだけなのに・・・」
「・・・いいさ。坊やが弱音を吐くのは珍しいからね。解決は確かに出来ない。けど、アタシが死ぬまでに坊やと過ごす時間は大切にするって約束するさ」
そう言って頭を撫でてくる。彼女達が受け入れてくれないとか、信頼していないという訳ではないけど、言わない方が良いと思っていた。だけど、こうもあっさりと受け入れてくれるとは・・・。もっと早く言っておけば良かったと今更になって後悔する。
「ありがとうイザベラ。オレもイザベラを幸せにするって約束するよ」
「別にいいさ。アタシはもう十分幸せだから」
「イザベラ・・・愛してる」
「アタシもさ」
口は悪いし、酒癖もひどいけど、ホントに理想的な女性だ。こんな人に出会えて、オレは幸せ者だ。
今この瞬間を、彼女達と過ごせる時間を大切にしないと。
「グスッ」
ちょっとアルコール臭いキスをしていると、ふと背後からすすり泣きが聞こえる。
振り返ってベッドを見てみると、泣いているアンジェの姿が。他にもミカエラにケイシー、メイシャとメアリー、そしてクララとルカも涙を流していた。気を抜いていたとはいえ、彼女達が目を覚ましている事にすら気が付かないなんて・・・。
ちなみにクーナさんとアニーは起きていない。あの2人が起きるなんてよっぽどだからな。
「ケイジ殿がそんなに悩んでいるなんて知らなかったでありますぅ!」
涙と一緒に鼻水も垂れ流すその姿は千年の恋も冷める勢いでぶちゃいくだ。でも、それがオレの為だと思うと嬉しくもある。ぶちゃいくだけど・・・。
「気付かなくてごめんなさいでありますぅ」
その後も何度も謝罪する彼女を慰めていると、みんながオレに抱き着いて離れなくなってしまった。がっしりと掴まれてしまい、逃げる余地のない包囲網が築かれる。救いを求めてイザベラに視線を向けるが、返ってきた言葉は――「諦めな」だった。ひどい・・・。
泣きじゃくるアンジェにもらい泣きしてしまい、ワンワン泣くみんなを、オレは一晩中慰めるのだった。相変わらずアニーとクーナさんは起きないし、イザベラはソファーでウイスキーのボトルを抱いたまま眠っている。
――さっきまで大人の時間って感じでしんみりしてたんだけどな・・・。




