221.約束
結局オメガの襲撃はそれからも続いた。クイーンがまだいるのだから当たり前だ。犠牲者を一人も出す事なく勝利を収め、圧勝を続けて半年以上の月日が流れた。
オレは20歳になり、成人した。この体に成人もクソもないけど。誰がおっぱい星人だ。ガハハ。後から知ったけど日本の成人が18歳になっていたらしい。オレがいない間に色々と変わっている事が多そうだ。
イザベラは30台突入と大台に乗り、かなり気にしている様子。クーナさんの前でそんな事言ったら確実に引っ叩かれるので、口にはしていないけど。
こじんまりとバースデーパーティをして盛り上がり、みんな疲れて眠ってしまった。ちなみに最初に寝落ちしたのはアンジェ。年甲斐もなくはしゃぐからそうなる。
オレも眠ろうとしたが、イザベラが隠し持っていた酒を呑もうと一人でコソコソとしている事に気付く。
「そんなところに隠してたのか」
「坊やかい」
コマンダーと協力でもしていたのか、何もない壁を押すと、スライドして中に空間が現れる。中は冷蔵庫程冷たくはない冷暗所といったところか。
「いつの間にこんなの造ってたんだ?」
「結構前からさ。気付かなかっただろ?」
ニシシと悪い笑みを浮かべるイザベラ。こういう時だけ見せる笑顔。悪ガキみたいなところも可愛らしくて愛おしい。
「ったく。みんなが寝静まった後にコッソリ呑んでたんだな? それにしてもいつの間にこんなに・・・」
冷暗所の中にはウイスキーらしきボトルがギッシリと入っている。ほとんど銘柄が異なり、そしてほとんどが開封済み。どうやら気分次第で何を呑むのか分けている様だ。
「坊やも呑むかい?」
「・・・そうだな。折角20歳になったんだ」
「お? まさか坊やがそんな乗り気になるなんて、珍しい事もあるもんだ」
「前に約束したろ?」
「約束?」
「あ、さては覚えてないな?」
前に寿司を食べた時に泥酔したイザベラがウザ絡みしてきたので、酒を呑めるようになった時は、一緒に呑もうと約束したのだ。
「お、覚えてるさ! あれだろ? あの時の、えっと・・・」
誤魔化すのが下手過ぎて怒る気にもなれない。まあ、怒るつもりなんてないけどさ。あの時は酔っていたから覚えていなくても仕方ない。
「前に、オレが呑める様になったら初めて呑むのはイザベラとって約束」
「そ、そうだったね! 勿論覚えてるさ」
「嘘つけ」
ソファーに腰を降ろすと、イザベラがグラスにウイスキーを注ぐ。
「氷がないからロックじゃなくてストレートになるけどいいかい?」
「ロックとストレートの違いも良く分からないオレに聞かれてもな・・・。前に無理矢理飲まされたビール程不味くない事を期待しておくよ」
「はっ。こっちは苦くないから大丈夫さ。ほら」
グラスを持ってこっちに差し出す。それを受け取ると、イザベラがもう片手に持っていたグラスを差し出す。
「坊やが初めて大人になる日に」
「言い方・・・。乾杯」
チン、とグラスをぶつけると美しい音色が響く。茶色く透き通った液体を口に運ぶと、今まで嗅いだ事の無い匂いが喉を通り抜けると、口と鼻を通って外へと出ていく。ビールみたいな苦みもなく、味も香りも透き通った感じがする。
「ああ、悪くない」
「ビールよりウイスキーにハマるなんて、坊やも立派な酒飲みになりそうだね」
立派な酒飲みってなんだよ・・・。アルコールの清涼感も悪くない。ウイスキーならガブガブ飲めそうだ。ただ甘味が無いからチョコレートが食べたくなると思いつつ、2口でそれを飲み干すと、イザベラに笑われた。
「ウイスキーはもっと少しずつ呑むもんさ。ジュースじゃないんだから」
「おっと、それは失礼」
確かに高そうなビンに1リットル程度しか入ってなさそうなんだ。コーラみたいに一気飲みしたらすぐに無くなってしまうだろう。酔わないこの体だとペース配分を考える事なく呑んでしまう。
その後も2人でウイスキーをチビチビと呑んでは、アンジェが隠し持っていたチョコレートを拝借すると、イザベラが微笑んだ。
「ウイスキーにチョコレートなんて、坊やはもう立派な酒飲みだね」
だから立派な酒飲みってなんだ・・・。ウイスキーを飲んでいると甘い物が食べたくなってしまうのだ。ここは本能に忠実にいるべきだろう。夜中にチョコレートなんて太るかもだけど、生憎この体は肥満とも縁が無い。
チョコレートを口に含んでからウイスキーを飲むと、程よい甘味が口の中に広がる。ヤバい・・・これはガブガブ飲みそうになる。チョコミントではないが、清涼感のあるチョコレートを食べている感じだ。
2人でボトル1本空けたところで、イザベラも大分酔いが回ったのか、オレの肩に頭を預けてきた。
「キッドも・・・アタシの弟が生きてたら、今頃こうして一緒に呑んでたんだろうね・・・」
ファーストコンタクトで亡くなったイザベラの弟。オレと同い年だとは聞いていたが、正直それ以上の情報はない。彼女の心の傷を根掘り葉掘り蒸し返すような真似は絶対にしたくない。誰にだって聞かれたくない過去の一つや二つぐらいある。オレは特にないけど。
「かもな。・・・オレでよければ、いつでも付き合うよ」
「なら毎日付き合ってもらおうか」
「休肝日付きなら」
「ふっ。・・・キッドがもし生きてたら、アタシは坊やの隣にいなかったかもしれない」
「・・・なら、キッドがオレ達を巡り合わせてくれたのかもな」
「・・・ああ、そうだといいね」
オメガへの憎しみが無ければ、イザベラは入隊していなかっただろう。弟さんと安全な場所で過ごしていたかもしれない。
・・・たらればだけど、そう考えたら少しだけ楽になれるのだろう。死んでしまった、助けられなかった弟さんを置いて、幸せになる罪悪感から――




