218.神の力
全身全霊の全力の状態で力を込めると、翼が光り輝く。黄金の翼は元々微弱な光を放っていたが、その強さが増すと同時に漆黒の翼が紫の光を宿す。オレもコマンダーも知らなかっただけで、アダマンタイトにはまだまだ隠された秘密がある様だ。
それはさておき、クイーンの元までテレポートで戻ると、暖かい歓迎をしてくれた。数え切れない量の空間歪曲でオレを包み込む。虫一匹逃げられない包囲網だが、オレにはテレポートがあるし、そもそもこの状態では髪の毛1本傷付かないだろう。
空間が歪み、光すら通さないそれを気にも留めずに通り過ぎる。もはや軽くマッサージされているレベルにしか感じず、ダメージを負う事は一切ない。先程まで必死こいて避けていたのがバカみたいだ。
「それ以外に攻撃手段はないのか?」
キシャシャシャシャアアアアアッ――
挑発してみるものの、それが通じないと分かった以上、それを使い続ける程クイーンもバカじゃない。すぐに別の技を使ってくるだろうけど、それ以外に強力な攻撃方法があっただろうか?
そう思った瞬間、クイーンが口の中から真っ赤な光が発せられる。そしてそれを外へと排出するが、過去に一度見た事があった。怪獣オメガの『ガイア』。ヤツが一度放ったファイアーボールだ。
単純に高温の火の玉を発射するだけだが、太陽の中に入っても大丈夫だったオレに通用する訳がない。ただ、ゲロを被る趣味はないので避けるけど。ゲロはイザベラのでコリゴリだ。
その他にもサイコキネシスで小惑星を飛ばしてきたり、無重力なのに脚を動かして走る様に動き、体当たりをしてきたり――もはや成す術もない状態。その質量から繰り出される体当たりは惑星すら押しのけるか砕く程の威力があるが、それを片手で止める。
さすがにクイーンもそれは想定外だったのか、止められても尚オレを押そうと必死に脚を動かしている。だが、オレの手に掛かっている力はそれほど強いものだと感じない。ついでに押さえている体を握り潰し、血液と肉片を採取しておく。後でコマンダーからとやかく言われるのは嫌だし。
それにしても・・・この状態ちょっと強すぎない? それこそ惑星サイズじゃなくて銀河系サイズの敵が現れない限り負ける事がないと思う。あまりのインフレに自分でも驚きを隠せないが、前にユグドラシルが言っていた言葉を思い出した。
――さあ、思う存分その力を楽しめ。それは君にだけ許された特権だ――
その言葉を、ホントの意味で理解していなかったがこういう事なのだろう。絶対に負ける事がない、『完全』、『究極』、『至高』、『絶対』といった単語が使われるべき力。
一切の手加減をする事なく、全てを消し去る思いでこの力を振るえばどうなってしまうのだろうか・・・。生憎、この位相の宇宙には他の生命体はいない様だ。コマンダーのステルスドローンを巻き込んでしまうが、録画したデータはリアルタイムで母艦に送られているから問題ないだろう。
この世界諸共消滅させようと力を循環させる。翼を広げ、全てのエネルギーをセフィロトの先端に集約させると同時に上へ掲げると、オレの頭上に光の輪が現れる。
ファンタジーもののRPGに良く出てくる神や天使の頭上にある天輪に似ている。おそらくだが、オレの脳内の奥底にある潜在意識が生み出したのだろう。特に深い意味はないはず。・・・カッコ良いからそのままにしておこう。
命の危機を察したクイーンがサイコキネシスや体当たりで止めようとするが、オレから溢れ出している力の奔流に押され、届く事はない。半径1キロメートル程にある全ての物質やエネルギーが勝手に押し出されているのだ。
無駄な抵抗をするクイーンを横目に、オレは自然と頭の中に浮かんだ言葉を口にする。
「神が禁じた戒律に触れし者よ、汝の行きつく先は楽園。そこに地獄はなく、混沌もなく、夜もない。失われた楽園は全てを無に帰す。拒絶する事なく、滅びを受け入れよ。消え去れ――」
そして、最後の言葉を紡ぐ。
「『失楽園』」
――刹那、時が止まった。
世界から色と音が失われ、セフィロトの先端から放たれた力が全てを黒に染めていく。クイーンを、宇宙を、世界を――。
そして・・・全てが『消滅』した。
星の数程ある世界。その1つが完全に消滅したのだ。
原子1つない、全てが黒に染められた世界。あるのはオレという存在だけ。
オリハルコンとアダマンタイト、そして世界樹の力を合わせる事で、相乗効果が生まれて世界を消し去る程にまで増幅したのだ。これこそが『神の力』。自分の好きに世界を消し去る事が出来る、神にのみ許された力。
正直オレみたいな一個人が持つには危険過ぎる力だけど、彼女達が住まう世界を消したりなんかしない。
このままここにいてもみんなが心配するだけだし、帰るとしよう。真っ黒で何もない空間で黄昏れていても意味は無い。テレポートでアメリカにある母艦の甲板に降り立つと同時に、通信機にみんなの声が届く。
『ケイジ!? 大丈夫なの!? 返事して!』
どうやらあの何もない空間では通信出来なくなっていたのと、急にドローンからの映像が途絶えた事で心配したのだろう。
「大丈夫だよ。今甲板にいる」
翼をしまい、元の姿に戻る。12枚も翼があったら邪魔くさいし。
ふと上を見上げると、晴れた空からは眩しい日差しが差し込んでいた。
――ようやく終わったんだ・・・。
オレの高校生活を代償にだけど。まあ、そのおかげでみんなと出会えたのなら良しとしよう。愛しのみんなが待っているし、早く中に入るとするか。
終止符を打った訳ではないが、およそ3年に渡る戦いに一区切りをつける事となった。




