020.昇任
ユグドラシルの加護を授かった翌日、オレは大部屋を卒業して個室を与えられた。ベッドもシングルからダブルに進化し、トイレもシャワーも共用でなくなり、わざわざ廊下に出なくても部屋で済ませられる様になった。個室最高!
だが残念な事もあった。昨日、クーナさんとの昼食を終え、なんの魔法が使えるようになったのか確かめてみたが、結果的に言えばオレはモグリのままだった。
つまり魔法が使えない。調和魔法も精霊魔法も使えず、結局何も変化がなかった。クーナさんはそんなオレを慰めてくれたが、その代わりにオートマタから新たな改造手術を提案された。
今日はそれを受ける為に、これから手術室に向かう。と言っても、今回もどうせお注射されて終わりだろう。そう思っていたが、いざ手術室に着くと、本格的な手術台が置かれたオペ室だった。
『来たか。少年』
そこにいたのは、昨日一緒にアールヴヘイムに行ったオートマタがいた。クーナさんに聞いたが、彼はオートマタの窓口みたいなもので、名前はたしか――
「コマンダーさん」
『さんは不要だ。さあ、早速だが服を脱いで横になりたまえ』
いくら機械相手とはいえ、裸になるのは抵抗がある。それにオペ室なのに殺菌とかしなくていいのか、と疑問を抱いていると、手術台の脇から数本のアームが出てきて軍服を脱がし始める。あっという間に身ぐるみを剥がされたオレは手術台に体を固定される。
「あの、コマンダー? 今までに比べてかなり本格的な手術の様な気がするんですけど・・・」
『肯定。今までの改造は、君達人間の潜在能力を開花させる為の活性剤を投与していたに過ぎない。これから行う手術は、君の体内にある骨と筋繊維を全てアダマンタイトと交換する』
「・・・は?」
いやいやいや、これからアンドロイドになる改造手術を受けるの!? 困惑するオレを無視して、コマンダーは説明を再開する。
『尚、この手術は君の意思とは無関係に実行する事が決められている。ただ、心配する事はない。君が人間でなくなる訳ではない。強化人間として実験体、ではなく新たな生を得るのだから』
「今実験体って言った! お前今実験体って言っただろ!」
『アダマンタイトは君の成長に合わせて追加で投与する。そうする事で成長を妨げる心配はない、はずだ』
「はずだ、じゃねぇ! お前コノヤロウ!」
『逆に上手く調節すれば、身長を伸ばす事も可能だろう』
「あ、それはマジで頼む」
今の身長が167センチだから180センチぐらいまで伸ばして欲しい。足も26.5センチだから28センチまで頼みたい。
『念のため説明しておく。アダマンタイトはアールヴには反応しなかったが、君達人間が手にした場合、意志によって形状を変化させるという特性を持つ。君の体に投与する分は、勝手に反応しない様に処理をする為問題はない』
人権を無視してその手術が強行されるのは確定している為、もはや文句を口にする気力すらなかった。オレは大人しく目を瞑り、時が来るのを待つ。
『・・・弱点となる生殖器は取り除いた方がいいだろうか』
「絶対にヤメロ!」
その言葉を最後に、麻酔のせいで意識を失う。その後、目を覚ますと、ヒーリングポッドと呼ばれる医療装置の中にいた。新陳代謝を加速させつつ、ナノマシンで傷を修復する装置で、骨折も一晩で治せる優れもの。これぞテクノロジー。
オレの目覚めと同時にヒーリングポッド内の液体が取り除かれ、ガラスの扉がスライドする。体に痛みがないのを確認し、ポッドから出て、脇に置かれていたオレの軍服を着る。
体に違和感はない。改造手術が無事に終わったのか疑問だったが、その場で軽くジャンプするだけでその効果を実感する。20センチメートル程跳んだつもりが、軽く1メートルを超えてしまう結果となった。逆に言ってしまえば、力が上手く調整できないという状態でもある為、その違和感を解消しにオレはそのまま訓練場に向かった。
外はまだ明るかったが、間もなく日が暮れるだろう。オレは訓練場に誰もいない事を確認し、その場を走り回る。中学校の校庭よりも広い訓練場の端から端まで、およそ2キロメートル程。その距離をたったの30秒で駆け抜ける事が出来た。疲れもさほど感じられない。
オレはそのまま自分の感覚と実際の体の動きに差がなくなるまで体を動かし続けた。
それから数日後、訓練を続けていると、新たな中隊が十組編成される流れとなった。そして第一中隊の隊長にオレは選ばれた。それと同時に階級も二等兵から伍長へと昇進した。階級については詳しくないが、一等兵を飛び級した事は分かった。実際には一等兵だけではなく、上等兵も飛ばして昇進しているが。
その対応の異例さを、良く理解できていないままオレは中隊長の任を受けるのだった。




