216.惑星オメガ
新型オメガを殲滅しつつ、深部を目指して穴を進む。最奥にオメガを生み出す親玉のオメガ、『クイーン』と呼ぶべき存在の気配を感じながら。そして惑星の中心部まで届く寸前で、壁が視界に映る。
「ん? 行き止まりか?」
ならさっき出てきた新型はどこから出てきたのか? 周囲を見渡すも、クイーンの気配はより一層強くはなったものの、生物一匹見当たらない。
壁の向こう側にでもいるのだろうかと、セフィロトを抜いて壁に向かって振り下ろしてみる。
ザシュッ――と岩ではなく肉を斬り裂いた感触が手に届く。そして斬った場所からは紫の血液みたいなものが流れ出る。
「おいおい・・・嘘だろ・・・?」
自分が今、どこにいるのか改めて理解する。
「コマンダー・・・お前が言っていた冗談が当たったぞ」
『どの冗談の事だ? いや、私は冗談なんて言わないが』
コマンダーの軽口を無視し、辺りを見渡す。ココは――惑星に空いた穴なんかじゃない。オメガの体内だ。
「この惑星そのものが・・・オメガだ――」
『なんだと?』
クイーンの気配が強くなったのはただ中心部に接近しただけだ。地表でも微弱ながら感じていたのは、皮膚の上にいたから。そう認識したら、クイーンの気配を至る所から感じる事が出来た。
この現状に危機感を抱き、オープンチャンネルにして全隊員にメッセージを送る。
「総員退却せよ・・・今すぐに」
その瞬間、惑星そのものが地震が起きた様にガタガタという音と共に振動する。
「転送ッ! 早く逃げろ!」
それだけを言ってオレもテレポートで惑星の、いやクイーンの外へと抜け出す。地表に誰もいないのを見るに、全員ちゃんと転送で逃げた様だ。
――念の為に全員に転送装置を渡しておいて良かった・・・。
まさかこんな事になるとは思ってもいなかったが、もしなければ壊滅していただろう。ホントに良かった・・・。
程無くして、体を丸めていたクイーンが、惑星サイズの体を広げる。丸めていた状態で地球並みのサイズがあったのだ。それを広がれば、惑星を包み込むサイズになる訳で。そのあまりにも巨大なサイズ感に圧倒されてしまい、言葉を失う。
「・・・見てるかコマンダー」
『ああ・・・なんて大きさだ・・・これはダモクレスの剣でも太刀打ちできないぞ・・・』
その見た目は例えるならばムカデだろうか。いや、下半身はムカデなのだが、上半身というか、体は下半身と平行ではなく、垂直に立っている。下半身がムカデのケンタウロスみたいと言えば分かりやすいだろうか。・・・まあ、上半身もムカデなんだけどさ。
顔は黒い人間の頭蓋骨に似ており、茶色の体躯、腹部にはオメガを生み出す為の白い器官がある。体を丸めていたのはそこから卵を産み、孵化するまで体内で育てていたのだろう。自分の体が巣そのものの蟻と言ったところか。
無数にある脚をカサカサと動かすその見た目に背筋がゾッとする。今まで数え切れないぐらいバジリスクやバエルを葬ってきたとは言え、別に虫が得意という訳ではない。脚の1本でも日本列島ぐらいのサイズがあるおかげというか、デカすぎるせいで気持ち悪さが半減しているのが幸いだ。
『ケイジッ! 大丈夫なのか!?』
母艦の司令室に着いたのか、クーナの声が通信機を通して聞こえる。その後ろからみんなの声も聞こえてきた為、逃げ遅れたりはしていないようだ。
「大丈夫ですよ。それよりも――」
目の前にいるクイーンを観察すると、脚を細かく動かしながらこちらを威嚇しているのが分かる。そして耳元で虫がカサカサと動いている様な悍ましい音がずっと鳴り響いて止まらない。おそらくクイーンが発しているオメガの言語だと思うけど、全く理解出来ない。
言語というか感情をそのまま伝える類のテレパシーみたいなものだろう。怒り心頭なのは間違いない。顔を見れば今にもオレを殺したくて仕方がないという表情をしているからだ。眉間に皺を寄せた黒い頭蓋骨みたいな顔からは、怒り以外の感情は伺えない。・・・元からそんな顔なのかもしれないけど。
「それにしても襲い掛かってこないのは何でかと思ったけど、クラーケンが逃げるまで時間稼ぎしてんのか・・・」
クイーンの背後では無数のクラーケンがポータルを開いて逃亡を図っていた。おそらく、クイーンの体内にいたオメガを詰めるだけ詰めたのだろう。追いかけて倒したいところだけど、クイーンの戦力が分からない以上、無暗に動く事は出来ない。
『クラーケンなど後でどうとでもなる。賢明な判断だ。・・・ん?』
珍しく褒めてきたかと思えば、コマンダーが何かを見付けたらしい。
『白いクラーケン・・・?』
白いクラーケン? 千里眼でクラーケンの群れを見てみると、コマンダーが言う通り、確かに白いクラーケンが1匹だけいた。
「オメガにもアルビノ変異っているんだな」
クワガタにもいるんだ。クラーケンもアルビノがいたっておかしくはない。そんな事よりも――
「ようやく全部いなくなったな。これから本番ってか?」
全てのクラーケンの姿が消えたところで、クイーンが体を大きく見せる様に仰け反りつつ、雄たけびを上げる。
キシャシャシャシャシャァアアアアッ――
同時に全ての脚を動かすその様はあまりにも不快だが、これが戦いの開始の合図となった。
――この体で全力を出すのは初めてだ。少しは楽しませてくれるといいんだが。




