214.セフィロトの加護
メジェドに肉を喰い千切られて倒れている兵士達の上空に移動し、オレはセフィロトを頭上に構える。刹那、太陽もないこの惑星に黄金のオーロラが現われ、辺りを淡く照らしていく。
「傷が・・・治っていく・・・?」
兵士の一人が呟く。セフィロトの光に当てられた者の怪我があっという間に治癒されたのだ。生命を司るセフィロトが放つ光には、大抵の怪我を治す力がある。
かつて、オレが心臓を刺されても死なずに戦えたのはこのおかげだ。あの時はまだ種だったから今より効力は低かったけど。ただ、そのおかげで死なずに今も生きていられる。世界樹様様だ。
「怯むな! この戦いで誰かが死ぬ事は絶対にないッ!」
戦意を喪失しかけた兵士に激励し、オレは上空でUターンして再度迫ってくるメジェドにセフィロトを振るう。その白いく輝く刀身が振るわれると同時に光の斬撃が放つ。それは全てのメジェドを飲み込んで一撃で消滅させた。
「すげぇ・・・勝てる・・・勝てるぞ!」
その光景を見た兵士が立上り、雄たけびをあげる。オレがあんまり頑張るのはよろしくないんだけど、やる気を出してくれたのなら何よりだ。
地表に出てきたオメガの殲滅に成功したので、これから穴に侵入して巣を潰したいところだけど、何十万とオメガの反応があったというのに、地表に出てくる気配がない。今も尚地下にいるのは感じ取れるが、何を企んでいる事やら。
「このまま穴へと進軍する。注意して進め」
とは言え足踏みしている暇はない。反応は消えていないから不意打ちに気を付ける必要があるが、進むしかない。注意しながら進み、ドラゴンの群れが出てきた一際大きい穴の縁から底を覗いてみる。直径は300メートル程か。
「・・・いるな」
穴の奥底。オメガのボスと思わしき巨大な反応がある。あまりにも巨大で、あまりにも禍々しいそれは、今まで遭遇したオメガとは比べ物にならないレベルだ。これはオレ以外に対処出来る人はいないだろう。
サタンをも凌ぐであろうその気配を放つ存在は、騎士団でも厳しいのは目に見えている。オメガを生み出す存在そのものが圧倒的な強さを誇る事に疑問を抱いてしまう。女王蟻みたいに弱いと思っていたが、異能を有しているせいか凄まじい気配だ。
「コマンダー。クラーケンが離脱して地球かアールヴヘイムを襲撃する可能性があるから引き続き監視を頼む」
『了解だ。オメガのボス、「クイーン」とでも名付けようか。どんな力があるのか分からない以上、気を抜くんじゃないぞ』
「ああ、分かってるさ」
心配性なコマンダーに返事をしてから、オレは振り返ってみんなと目を合わせる。
「一先ずオレが先行して様子を見てくる。指示を出すまで待機してくれ」
「「「了解」」」
みんなも心配してくれているらしく、不安そうな顔をしている。愛されていると改めて感じられて嬉しい反面、この体は例え核弾頭を抱いた状態で起爆しても傷つかない自信がある。そんなに心配されたら逆に申し訳なくなってくる。
そしてミカエラが何か言いたげな表情をしていた。過去にオレが何度も死に掛ける光景を目の当たりにした彼女は、大きなストレスで精神が不安定になってしまった事がある。あれから何カ月も経ち、かなり安定したと思っていたが、まだ完全には治っていない様だ。
「気を付けてね・・・?」
「大丈夫だよ。何かあったらすぐに逃げるから」
テレポートが出来る今、逃げる事に関しては誰にも負けないだろう。・・・カッコ悪いかもしれないけど、背に腹は代えられないし、命を大事にしないと彼女達に怒られてしまう。オレとしてはガンガンいきたいところだけど、自重せざるを得ない。
彼女達の視線を感じつつ、オレは底が見えない真っ暗な穴の中に飛び込む。暗くても見えるのはこの体の能力かカイムの因子の能力の『暗視』かはさておき、奥から大量のオメガが迫ってきているのが見える。
「見た事がないのがワラワラと・・・」
新型のオンパレードと言っても過言ではない程、見た事がないオメガが逆流する滝が如く、下から駆け上がってくる。その見た目は非常に醜悪で、嫌悪感を抱く程だ。それは全体的にクモに似ているが、ただのクモとは程遠い見た目をしている。
クモの脚と胸に、ハチの腹が胸の下を通って前方に向いている。その先端には紫色の液体が垂れている針がある。如何にも毒針って感じ。顔は目がなく、人の口に似たそれを大きく開いた上で、悲鳴に似た声をずっとあげていて耳障りだ。トウテツと同じく、皮膚がなくて剥き出しになっている赤い肉が恐怖心を搔き立ててくる。
複数の種を合わせたキメラの様にも見える。こういったキメラっぽいのはバエル以来だな。そうなると戦闘力も非常に高いはず。恐怖心を煽ってくるその見た目と悲鳴から、一般兵には荷が重いと判断。となると、地表にコイツら出す訳にはいかない。
幸いな事に空は飛べない為、穴の内壁を伝って走っている。オレもその壁をグルグルと軸にコイルを巻く様に飛び、通り過ぎると同時に新型オメガを斬り裂いていく。
「斬り捨て御免、なんてな」
『聞こえているぞ』
「あ、また盗み聞きしてんのか!?」
カッコつけて時代劇の台詞を真似てみたが、コマンダーに聞かれてしまった。まあ、通信機が繋がっているのには気が付いていたけど、我慢できずに口にしてしまったオレが悪い。
――いや、オレは悪くねぇ! 盗み聞きしているコマンダーが全部悪いんだ!




