212.幕開け
1か月後。コマンダーに宣告していた通り、今は最終決戦に臨む為の準備をしている。これから全戦力をオメガのアジトに送り込む。騎士団、機械兵、一般兵の全てをだ。
もちろん、オレも最前線で戦う。ガブリエル大統領も今回の戦闘に限っては大々的に告知しており、人類の存続を掛けた最終決戦を行うとコマンダーの協力のもと、生中継での配信もすると意気込んでいた。
みながやる気に満ち溢れているのは非常に素晴らしい事だ。もちろん、オレのコンディションも最高と言える。何故なら、みんながオレの為に色々と計画してくれたからだ。まさかの浴衣は想定外だったが、あれは良かった・・・。いつか、みんなで夏祭りに行ってみるのも良いかもしれない。いや、絶対に行く!
その為にも、とっととこの戦いを終わらせなければ。装備を整え、輸送船が並んでいるドックで全員の準備が終わるのを待つ。装備を整えると言っても、オレは手ぶらだけど。
待つ事十数分。総勢6千人近くの人間がドックに揃った。そのほとんどが一般兵。一人一人の戦力が低い分、数で補うのは仕方がない。ちなみに召集して5千人強となっている。昔みたいに1万人も必要ないという事で、強制召集は5千人。プラス志願兵が一般兵か機械兵に所属している形だ。
その連中の前でオレが激励する事になっている。やりたくない気持ちもあるが、これもルシファーとしての務めだと諦める。この道を選んだのは自分自身だ。仕方がない。
高所にある作業用の通路に立ち、全員の視界を集める為に翼を広げる。途端に静寂が空間を支配した。
「この場に集いし勇敢な兵士達よ。種の存続が掛かっているとはいえ、戦う勇気を示した諸君らに敬意を」
この場にはいないが、国として多額の出資してくれた先進国の長達には感謝してもしきれない。先進国で唯一日本だけが出資していないけど。まあ、それはいつもの事。今更とやかく言うのは野暮だろう。
「これから我々は、今までの戦闘とは比べ物にならない程の激戦に身を投じる事になる。だが恐れる必要はない。オレと騎士団が付いている。諸君らに必要なものは、恐れずに最後まで戦い抜く意志と覚悟だけだ」
それ以外に必要なものなんてない。彼らには、今まで戦い抜いてきた経験がある。そう簡単に死ぬ事はないだろう。なんだかんだ言って、逃げずに食らいついてきた。培われた経験と勘が彼らを生かす。
「もし――もし戦いの最中に自分を見失ってしまった時は、仲間を頼れ。諸君らの隣には、いつも戦場で背中を預けていた頼れる同胞がいるのだから」
オレはどうしても一人で戦ってしまう癖があるけど、彼らには背中を、命を預けられる仲間がいるのだ。頼ってはいけないという決まりはない。それどころか仲間を見捨てたりするようなヤツなんて軍に必要ない。
一度、共に戦場へ行く仲間を一瞥する連中がいるが、悪い事ではない。頼れる仲間だという事を改めて認識出来るから。
「これは、君達の家族を、友人を、大切な人を守る為の戦いだ。心の底から辛くなった時は、愛する者の顔を思い出せ」
今では、オレも家族の顔を思い出せる。まあ、オレにはみんなもいたから心が折れる事はなかったけど。軍人としてそんな情けなくていいのかと思われるかもしれないが、オメガみたいな化け物と戦おうと戦場に行くだけでも勇気がいる。オレも新兵だった頃は怖かったし。
「何度も言うが、戦場には勇敢な諸君らだけではない。気を抜けとは言わないが、気張るのは程ほどでいい。もし作戦が失敗しても気負う必要はない。生きている限り、人類に敗北は訪れる事はないのだから」
コマンダーも気にし過ぎだから言っておくが、敗北とは人類の全滅を指すのだ。生きている限りは負けにはならない。勝つまで止まらなければいいだけの事。
「最後に、一つだけ・・・オレは誰一人として死なせるつもりはない。長々と話してしまったが、以上だ。諸君らの健闘を祈る」
高所通路から降り、輸送船に搭乗する。みんなもそれに続く。ハッチが閉じた所で、深く息を吐いた。
「オレ上手く出来てたかな・・・?」
「上出来よ」
「ああ、格好良かったぞ。あんな小さかったケイジが立派になったものだ」
ミカエラとクーナさんが褒めてくれるが、あんな小さかったって、たかが3年前だ。身長が伸びたとはいえ、そこまで小さくはなかったはず。・・・多分。
他のみんなも否定的な事は言わなかったが、判断基準はかなり甘めだろう。愛ゆえ仕方がないが、おかげで自信が付いた。
それに輸送船の外ではやる気に満ちた声が聞こえる。どうやら励ますのには成功したと安堵していると、通信機が起動する。
『いつまで戯れているつもりだ? 早く席に着くんだ』
とコマンダーに釘を刺されてしまった。空気の読めないヤツだ。まあ、今一番緊張しているのはコマンダーだし、とやかく言うのはやめておこう。
「っし! じゃあ行くか。・・・オメガを絶滅させに」
今回の作戦では、オメガのアジトに輸送船で乗り込む。現地に直接転送するのは少しリスクがある為、その形をとったのだ。帰りは各々で転送を使える様に、片道切符の転送装置を渡してある。一応悪用出来ない様にそうしてある。今更そんな事するヤツはいないと思うけど、魔が差す可能性だってある。コマンダーもその意見に賛成し帰りの切符だけは個人に持たせる事にしたのだ。
自動操縦になっており、独りでに動く輸送船が転送装置に入る事で目的地にたどり着く。外を見る為のモニターには、オメガのアジトが映し出されていた。
――さあ、最終決戦の幕開けだ。
人類の存続を掛けた戦いが、今始まる。




