209.おセンチ
オメガのアジトを見付けて早3か月。未だに司令室でコマンダーがアジトの観察を続けている。絵日記か観察日記でも書いているのかもしれない。なんて冗談はさておき、慎重に徹しているコマンダーに攻め入ろうと催促しても、すぐに却下されてしまう。
徹底したい気持ちは分かるが、惑星が逃げ出すはずもないんだ。失敗したらまた攻めればいいし、こまめに攻めたっていい。だが、どうしても慎重になってしまっているコマンダーは首を縦に振らない。あいつに首はないけど。
という訳でオレも千里眼でオメガのアジトを観察してみるが、不思議な事に親玉が見付からない。惑星に空いている穴から新たに生まれたオメガが現れるが、その奥がどうなっているのか分からない。厳密にはそれ以上接近して観察しようとしたら気付かれてしまうと直感的に悟ったからだ。
おそらくだが、親玉にも異能型オメガの能力があると思われる。もちろん、コマンダーにもそのラインから先には接近しない様に言いつけてある。
『近くに恒星もないのに、何故惑星の表面温度が60度近くあるのか謎だ』
「確かにな・・・。恒星を岩か何かで包んでいるって考えたら、その割には温度低いし」
『もしかしたら、あの惑星そのものが生物なのかもしれない』
「んなバカな・・・いや、あり得るか・・・? でもこれ以上接近して観測したら気付かれるしなぁ・・・」
今まで得た成果以上のものは、これ以上観察しても得られないだろう。となると、対策を練って攻めたいところなのだが――
『もしかしたらボロを出すかもしれない』
「お前、張り込み調査じゃないんだから・・・。ビビッてないで、とっとと攻めようぜ? らしくないぞ」
『いや、しかし――』
「しかしもカカシもヘチマもなしだ。来月攻める! 決定事項だ。これ以上ウジウジしていたって何もないんだ。だったら、覚悟を決めるしかないだろ」
どうしてここまで慎重になっているのか分からないが、足踏みしているコマンダーのケツを蹴とばすしかない。そう思って1ヵ月の期間を設けたが、本来であれば2週間後とかに攻めたいところだ。
『もし、失敗して、また君が怪我をする羽目になったら、私はどう償えばいい――』
不器用に言葉を紡いだコマンダー。その内容は、どうやらオレを心配しての事だった。コイツがここまで慎重になっていたのは、オレがこれ以上どうにかならないかを危惧しての事だったみたいだが、これ以上オレがどうなるというのだ。
「おいおい・・・オレの心配はいらないって、分かってるだろ? この間太陽に入ったって何とも無かったんだぜ? どうやってオレが怪我するって言うんだ?」
『そう思っていたが実際に君は今まで多くの怪我をしてきただろ! サタンとの戦闘ではボロボロになっていたではないか! ガーディアンを出撃しておきながら醜態を晒した挙句、君に無茶をさせてしまった・・・もう君が死ぬ姿を見たくはない・・・』
「・・・そんな事気にしてたのか? お前って意外とおセンチなんだな」
『茶化すな・・・。今回の戦いでは絶対にミスを犯さない。その為に念を入れたいだけだ』
コマンダーなりに気を遣っているのだろうが、コイツがここまで健気だと鳥肌が立つな・・・。毛穴ないから鳥肌立たないけど。まあ、思う存分やらせてあげよう。気の済むまで。
「前にも言ったけど、お前がミスしてもオレが何とかしてやる。その為の力はあるんだから。あんまり気負うなよ」
それだけ言い残して、オレは部屋に戻る。みんなも新しい力に振り回されない様に訓練しているし、既に準備は万端だ。後は覚悟を決めるだけ。
――正直、ここまでコマンダーが足踏みするとは思ってもみなかったけど。
ベッドに腰掛け、大規模戦闘になるであろうアジトの掃滅作戦のシミュレーションをしようとしたところで、通信機が鳴った。相手を確認してみると、ガブリエル大統領。嫌な予感がすると思いつつ、応答する。
「今度は何を頼むつもりですか?」
『話が早くて助かるよ。今回は深海探査を頼みたい』
「宇宙の次は海ですか・・・」
こき使われてしまうのは無理もない。ただ、そのスパンがあまりにも短い。もうすぐ最終決戦だというのに、何故こんなにも外部の依頼を受けるのだろうか? ・・・いや、大統領でい続ける為には、功績を残すしかない。
ガブリエル大統領も、彼なりの苦難と戦っているのだと、自分を言い聞かせる。
「・・・分かりました。いいですよ」
『では、今回は――』
こうしてオレは2,3日海に潜る羽目になった。宇宙でサンプルを集めるよりも、深海での探査の方が大変だった。暗いし、特にこれといった目的がある訳ではなく、研究者が満足するまでが依頼の中身だったからだ。
――正直、もう二度とやりたくない・・・。海なんて嫌いだ。みんなの水着姿が見られるなら別だけど。




