207.黒点
NASAからの宇宙探査依頼。その中で一番大変そうな太陽から向かう事にした。この体で太陽に入れるかも分からないし。
「まずは太陽からだ」
「地球から太陽までの距離は1億5千万キロメートルもあります。いくらミスタールシファーでも・・・」
「タブレットを起動しろ」
言われるがまま、タブレットを起動するグレース博士。そのモニターにはオレの耳に付けられているインカムのカメラの映像が鮮明に映し出されている。
「それを見ていろ」
「かしこまり――ッ!?」
グレース博士がタブレットに視線を落とすと同時に、オレは鉛のケースに入った試験管に似たアダマンタイトの容器を取り出して太陽の近くまでテレポートしたのだ。つまり、タブレットには既に巨大な太陽が映っている。そのせいでグレース博士が驚愕する事になったのだ。
「このまま太陽に侵入する」
『は、はい。お気を付けて』
翼を広げ、深呼吸してから太陽に接近する。本来であれば、目前に迫る太陽の熱さで焼かれていてもおかしくはないが、不思議と熱さは感じない。この体は熱にも強い様だ。
『太陽の表面の外側にはコロナと呼ばれる摂氏百万度の外層大気があります。そこを突破すれば、一気に温度が下がります。太陽の表面温度は摂氏6千度ですから』
――へぇ。外側が熱くて表面が温くて、内部が更に熱いんだ。太陽って不思議だな。
とりあえずアダマンタイト製のインカムと容器が溶けないかだけが心配だ。そのコロナと呼ばれる層には既に侵入しているだろうし、おそらく問題ないはず。そのまま加速し、太陽の表面まで接近したが、特に問題はない。
そこで太陽の表面、その一部が黒く染まっているのに気付く。理科で習った気がする。名前は確か・・・――
『黒点がこんな近くで見られるなんて・・・』
黒点だ。思い出した。そこだけ温度が低かったはずだが、今のオレからしてみれば特に温度の違いなんてどうだっていい。
「入るぞ」
『は、はい! まさか太陽内部の映像が見られるなんて・・・。こんな快挙を独り占めしていいのでしょうか・・・』
一人で盛り上がっているグレース博士を無視し、そのまま太陽の表面に接近して内部に侵入する。
『うひょーっ!』
――この人、常識人だと思ったけど撤回しようかな・・・。
奇声をあげて尚取り乱す彼を無視しながら更に奥に侵入していく。今の視界は正直赤みがかった光で覆いつくされており、何も見えない。タブレットにも同じ様に映し出されているだろう。だが、彼の興奮は一向に収まる気配がない。
そのまま奥に進み続けると、視界は段々と赤が消えて白くなっていく。最も白いと思わしき場所が、太陽の中心なのだろう。
「ここが、太陽の中心だ」
『ちゅ、中心核!? 摂氏一千万度を超える中心核!? ミスタールシファー! 光の他に何を感じますか!? サンプルの採集をお願いします! 体感温度はどうですか!? それからそれから――』
マシンガントークする彼を無視し、とりあえずサンプルを回収する。ここの気体を集めればいいのだろう。雑に容器の蓋を開けてから振り、蓋を閉める。アダマンタイトってこの温度でも溶けないんだなと思いつつ、太陽の外へテレポートする。
宇宙空間で体を冷やしながら、生命魔法で体と容器を浄化する。これで放射線は大丈夫だと思う。ある程度体が冷えてからグレース博士の元にテレポートすると、興奮を隠しきれずに部屋の中を腕を振り回しながら走っている彼を目撃する。
「戻りましたか! ミスタールシファー! 太陽の中はどうでしたか!?」
「ひどい臭いだ。あんなに臭いだなんて思わなかった」
「臭い!? 確かに太陽の中には僅かですが炭素や鉄があるから臭くてもおかしくはない! うひょーっ! ・・・おっと失礼。念の為ガイガーカウンターで放射線量を確認しておきましょうか」
テンションが上がり過ぎている彼が一気に冷静になると、マイクの様なものをオレと容器に向けてくるが、特に問題はないみたいだ。
「放射線すら無効にする!? さすがはミスタールシファー! 太陽の中でも生きられる存在など! もはや神と呼ぶ他ない!」
冷静になったかと思えば、また始まった。まあ、科学者からしたら興奮しない方が難しいのかもしれない。だが、これに付き合っていては日が暮れてしまう。
「次は水星だ」
「お! おお! 太陽すら一瞬で行けるのですから、他の惑星も一瞬で行ける! 瞬間移動! テレポート!? ワープ!? 亜空間を通って距離という概念を一時的に失くしているのですか!? それとも目的地で肉体を原子レベルで再構築しているのですかな!?」
「・・・亜空間を通っている」
「うひょーッ!? それを解明出来れば人類も転送装置を造れるのでは!? スター〇レックの転送はやはり間違っていた! 物質をエネルギーに変換して再度物質化するなど! やはり不可能だったのです!」
「あー・・・オートマタの転送はそっちだ」
「なんと!? どちらも実現していたというのですか・・・。科学は・・・科学はやはり面白い! ハハハハハッ!」
――た、楽しそうで何より・・・。
グレース博士を待っている暇はないので、そのまま水星や他の惑星に行ってサンプルを回収したが、全てが終わる頃には夕方になっていた。あれこれ要求が多かったのと、単純に話が長かったからだ。肉体的よりも精神的に疲れてしまった・・・。
「ミスタールシファー! 本日は本当に、本当に! ありがとうございました! 私の人生の中で最も有意義な一日でした」
「そうか。君が人類の更なる発展に繋がる成果を挙げる事を期待している」
オメガとの戦争に貢献するのは無理だろうけど、間接的に今回のが人類の為になるのであれば、それはそれで良しだ。戦うだけが戦争ではないのだから。科学の発展もまた、貢献と言えるだろう。
「お任せ下さい! 神であるミスタールシファーのお手を煩わせてしまった手前、何も成し遂げない等万死に値する罪! 必ずや歴史に名を残してみせます!」
「お、おう。頑張ってな・・・」
――ヤバい、素が出てしまった・・・。調子を狂わされるからボロが出ない内に帰ろ・・・。
そういう訳で今回の依頼はこれにて終了。とっとと帰るとしよう。
中々強烈な人だったなと思いつつ、オレは自室に帰るのだった。
この一件のおかげで、グレース博士の研究成果が人類を救う事になるのを知ったのは遠い未来でのお話。




