202.真の支配者
それから新型が現れる事もなく、平和に日々が過ぎていった。まあ、オメガの襲撃は定期的にあったが。惑星マザーを襲う理由がなくなった為、地球への襲撃頻度が増した。
相変わらず日本は一度も襲われていないが、そのせいもあって連合の会議で日本人に一度も会えていない。もはやオメガに対して無関心としか思えない。
今回開催された会議でもやはり現れなかった。逆に何故かオレが参加する羽目に。
「久しぶり。ケイジ君」
「お久しぶりですね。ヨハネス大統領」
ドイツのヨハネス大統領。気さくな人で、めちゃくちゃフレンドリーな人だ。友達と接する様に絡んでくる為、いつも距離感を考えてしまう。茶色の短髪で青い瞳の彼は、ゴールデンレトリーバーとハスキーを足して2で割った愛嬌がある。
ちなみに今のオレはルシファー形態だが、お国のトップの連中にはバレているので今更隠したりはしていない。
「最近騎士団のみんなの人気がうなぎ上りだねぇ。ドイツでもグッズが多く売られているぐらいだよ」
騎士団を表舞台に立たせたおかげで、騎士団の人形といったグッズが多く世に出回る事になった。それに便乗してオメガのおもちゃも販売する事になった。まあ、日本人なら誰でも知っている『ソフビ』というものだ。ハイパーマンとかその敵の怪獣のソフビ人形はおもちゃ屋に行ったら必ずと言ってもいいほど目にするだろう。あれが今、めちゃくちゃ売れている。
ちなみにオレのフィギュアもある。翼付きの躍動感があるもので、3千ドルで売られていた。他にもぬいぐるみやみんなと同じくソフビでも販売されている。クーナさんがそのおもちゃを気に入ったらしく、全員のソフビ人形やぬいぐるみ、オレのフィギュアを集めては部屋に飾っている。さすがにフィギュアを飾るのは恥ずかしいからやめてほしいけど、頑なにやめようとしない。
で、その収益はもちろんオレ達にも入っている。軍の給料がいくらなのかも知らないので、先日ガブリエル大統領に聞いたら勝手にアメリカの銀行でオレの口座が開設されていた。まあ、今は一応アメリカ人だからいいけどさ。
で、預金額を確認してみたら度肝を抜かれた。1千万円、じゃなくて10万ドルぐらいあったらいいなぁと思ってみたら、1億あった。それも円じゃなくてドルで。
聞いてみたら、階級が高いので、基本給で年収50万ドル。その時点で意味が分からない。そこから危険手当だったり怪我した時の手当だったり、ルシファーになった事で信仰心の高い人達からのお布施でとんでもない金額が集まったりで、この金額になった模様。更にグッズの収益もある。そのおかげで気が付いたら億万長者になっていた。
――どんなに金があっても使う暇なんてないけどね!
それにオレは所詮は庶民。余るぐらいの金があっても何に使えばいいのか分からない。家も母艦があるからしばらくは不要だし、車に乗るぐらいだったら走ったり飛んだり、テレポートした方が早い。じゃあ他に何に使えばいいのかと悩むが、何も思い付かない。
大金を手にした人間の末路は、酒・女・ギャンブル。だが、オレは酒を飲んでも酔わないだろうし、女性に関してはオレには勿体ないぐらいの天使達に恵まれている。ギャンブルなんて興味もない。
・・・なら、みんなで暮らせる大きな家を建てるか。目標というか、金の使い道はそれで決まり。
「あまり売れても困りますけどね。戦場に行く度にファンが一目見ようと避難しない事が増えてきたので」
それがもう一つの弊害。避難しろって言っているのに、厄介なファンが避難しないで隠れているのだ。正直迷惑だからやめて欲しいけど、生の騎士団を一目見ようと躍起になっている民衆を止める術はない。
「ハハッ。人気者の定めさ!」
諦めろと言わんばかりのヨハネス大統領。あなたみたいに楽観的に考えられればいいけど、現場はもっと殺伐としているから現実的に難しい。それで死人が出たら責任追及されるのはこちらなのだから。かと言って、別に賠償金を払ったり謝罪会見をしたりする訳ではないのだけれど。
ヨハネス大統領と話していると、ガブリエル大統領を含めて各国の重鎮が勢揃いする。時差もある中、全員が集まるのはやはり当事者意識が強いからだろう。偉い。
それから各国のオメガによる被害、というより死骸の片付けや自然への影響がないか調査した内容等を報告しあうも、その調査にはコマンダーも協力しているのだ。問題があれば早期発見される事だろう。つまり、現状特に問題なしという結論に終わる。
他にも、オメガのせいで滞っている事業に対する補助を出来る限り連合でもするという内容に誰もが賛成したりと、問題なく会議が進んでいく。オレ必要だった?
この会議における自分の必要性に疑問を抱いていると、最後の議題が浮上する。
「オメガとの戦争も長引いてきた為、組織をもっと強固なものにする必要がある。そこで、連合の副代表を決めようと思うのだが、どうだろうか?」
ガブリエル大統領の発言に対して、誰もが頷く。多分、みんな自分がその座に相応しいと思っているのだろう。オレとしては誰でもいいけど。オレじゃなければ。
「では誰が相応しいだろうか?」
その問いに対してみんな自分だと言い張る。やっぱこうなったかと言わんばかりに、ガブリエル大統領が腕を組んで頷いていた。
「静粛に。では、ここは彼に決めてもらうとしよう」
コマンダーにでも託すのだろうかと思っていたら、ガブリエル大統領の視線はオレに向いていた。後方に振り返るが、そこには誰もいない。自分かと、自分自身を指さすと、満面の笑みで頷いた。その笑みで漏らした人は一人や二人じゃないだろう。
決定権を委ねられ、仕方なく誰かを指名しようとするも、全員がオレに熱視線を送っている事に気が付く。副代表の仕事の内容は聞いていないが、オレに託すぐらいだから特にすぐ事はないのだろう。お飾りだけの役職であるなら、選ぶべき人は一人しかいない。
「では、学主席にお願いしても?」
「お? おお! 流石は同志ケイジ、いや同志ルシファーだ! 人を見る目は誰よりもあるな!」
中国の代表の学主席。特に影響力もない役職であれば、それにピッタリなのは彼しかいない。
「ふむ。義息子よ。理由を教えてくれないか?」
「中国は独断とは言え、過去にオメガ因子を結合させた戦士を生み出しました。その被験者であるメイ・シャオユーは、今も騎士団にて最前線で戦っています。みなさんも世界の為に貢献していない訳ではありませんが、貢献度で言ったら間違いなく中国がトップでしょう」
お義父さんの問いに答えている最中、学主席は鼻息を荒くしながら大きく頷いていた。そして満面の笑みでオレの肩に触れる。
「同志ルシファー。もしアメリカから鞍替えしたくなったら、いつでも我が国に来なさい。死ぬまで最高級の持て成しをしようじゃないか」
オレ、多分不老不死ですよって言いたかったが、上機嫌の彼の機嫌を下げる訳にはいかない。
「ありがとうございます。考えておきますね」
そうして会議が終わった後、帰ろうとしていたところをヨハネス大統領に呼び止められた。
「ケイジ君。どうして学主席を副代表にしたんだい? さっきのが君の本心だとは思えなかったんだよね」
ガブリエル大統領、そしてフランスのサミュエル大統領もそれに頷き、オレの回答に耳を傾ける。既に学主席は中国に戻っているので、オレの意図を話しても問題ないだろう。
「簡単ですよ。まず、ああ言っておけば、メイシャ、メイ・シャオユーを取り戻そうと企てる事が無くなるでしょう。そのまま騎士団にいた方が利益になりますから」
「確かにそうだね」
「次に、おだてれば操りやすい人ですから。お飾りの役職にピッタリだと思ったんです」
「ほぉ。イモータルボーイは頭も回る様だ」
――イ、イモータルボーイ?
あまり話した事の無いサミュエル大統領に変なあだ名を付けられているが、それはまた今度聞くとしよう。
「最後に、ガブリエル大統領に何かあって、あの人が代表になったとしても何も出来ませんから。何かをしようとしたところで、それが理にかなっていなければコマンダーが許さないでしょうし。それにアールヴも。つまり、あの座を手にしたところで何の意味もないんですよ」
3人共それに深く共感したので、オレは部屋に帰る事にした。退室した後、扉の向こう側からヨハネス大統領が呟いた独り言が聞こえてしまった。
「分かっているのかい、ケイジ君。最終的な決定権を持つのがコマンダー君とクーナ姫だと言うのなら、この世界を本当の意味で牛耳っているのは君だという事を」




