199.立食パーティ
全員で会場まで着いたが、一旦オレだけ待機する事に。今は騎士団がホールへ入室するお時間だ。扉一枚挟んでいるとはいえ、その熱はここまで届く。
みんなが拒絶されるような事にならなくて良かった、と安堵する。まあ、あれだけの美男美女の顔ぶれだ。マスコットキャラというか、看板というか、騎士団の顔として象徴にするには最適だろう。もしかしたらみんなに会いたいのを理由に入隊する人が増えるかもしれない。
会場から発せられる熱狂がそれを物語っている。今回の立食パーティに参加しているのはガブリエル大統領と親しみのある政治家や各メディアのお偉いさんという関係者だけとはいえ、こんなに盛り上がるとは。
「さて、ではお待たした。我らが救世主、ルシファーだ!」
と扉の向こう側からガブリエル大統領の声が。同時にホールへ続く扉が開く。眩い光と共に、視界に入ってきたのは高級なシャンデリアと階段。ホールへ降りる階段があるのだが、見た目重視というか映画の中でしかお目に掛かれないデザインをしていた。多分、何かの映画の舞台になっているはず。
そう思いながらゆっくりと階段を下りていると、騎士団のみんな、ガブリエル大統領と何度か目にした事のある議員の方々、そしてカメラを持った連中が数名いた。全員の視線は今、オレに釘付けになっている。
翼をしまっている為、今のオレはただの人にしか見えないはずだが、それでも誰も視線を外そうとしなかった。そんな中、階段を下りきると同時にガブリエル大統領が声を掛けてくる。
「ルシファー。今日は思う存分、地球の料理を堪能してくれたまえ」
「ああ。楽しませてもらおう」
寿司はどこかと板前さんを探すと、見当たらない。建物内の全てを見通すと、隣の部屋で待機しているのが感じられた。早く来てくれと念じていると、一人の議員とその娘らしき人に声を掛けられる。黒い髪、小太りの中年の男性。そして明るめの茶髪の髪を結わえ、緑色のドレスを着込んだ若い女性。
「お初にお目にかかります、ルシファー様。私はヨシュア・スチュアート。こっちは娘のレイチェルです」
「初めまして。ルシファー様」
頭を下げる2人。レイチェルと呼ばれた娘の方は見覚えがあった。ミカエラの親友だ。前にアメリカが襲撃された際に助けた事があるけど、めっちゃ怖かった記憶がある。あの時は疲弊していたとはいえ、恐怖を覚えた人間は凶悪な人相のガブリエル大統領がと彼女ぐらいだ。
「・・・そうか」
とは言え、公の場で馴れ馴れしくするつもりはない。ミカエラに助け舟を出して欲しいと視線を送ると、察してくれたらしく、オレの腕に自分の腕を絡め、オレの肩に頭を預ける。
「ごめんなさいね。彼人見知りなの」
その光景にいち早く驚いたのはレイチェルだった。彼女はオレの事を知らないが、ミカエラがオレと恋仲なのは知っているから。
「え? ミカエラ? あなた、彼が・・・え?」
彼女は口をパクパクと開いたり閉じたりしながら、オレとミカエラを交互に見る。そしてオレの顔をじっと見つめると、目を丸くした。どうやら気が付いた様だ。
「あなた、まさか――」
「しーっ」
オレは人差し指を唇に当ててそう言うと、彼女は咄嗟に口を噤んだ。彼女とは面識があったし、ミカエラとの関係も知っていたから気が付いてもおかしくはない。そもそも髪の色や雰囲気に変化はあったものの、顔は変わっていないから勘の良い人だったら気付くだろう。
「お喋りは好きじゃない」
「ごめんね、レイチェル。また後でね。ヨシュアさんも失礼します」
それだけ言い残してその場を後にする。既にみんなの手元には飲み物があったが、オレにはないのだ。飲み物を取りに行くという理由で去っても不自然ではない。ミカエラと飲み物を用意する人の元へ移動したが、ホテルで働いているこういう人の事はなんて呼べばいいのだろう? バーテンダー? ・・・どうでもいいか。
「お飲み物はどうなさいますか?」
ワイシャツにベスト、黒の蝶ネクタイを付けたホールスタッフに問われるが、オレの目の前にはアルコールと思われるボトルが多数あり、何を選べばいいのか分からないと思っていたらミカエラが指を差す。
「あれはかのルシファーでも飲んだ事はないんじゃないかしら?」
そう言われて指先に視線を送ると、赤いラベルが付いたペットボトル。そしてその中にに入っている黒い液体が。カコ・コーラだ。
「・・・確かに黒い飲み物というのは珍しいな。これをもらおう」
「かしこまりました。炭酸飲料なので一気にお飲みにならない様、お気を付けください」
まるで炭酸飲料を一度も口にした事のない天使に言う様に注意するホールスタッフ。嘘ついてごめんね、と内心で謝罪しながらコップに注がれたコーラを受け取る。
「ありがとう、ミカエラ」
と、小声でミカエラにお礼を言いつつ、額に軽くキスをする。久々のコーラだ。今日はこれだけで満足と言いたいところだが、この後にはメインの寿司が待っている。今日は最高の日になりそうだ。
誰かに声を掛けられる前に、コップを口に運ぶ。口の中で弾ける炭酸と甘さ。それが喉を通り抜ける刺激。
――やっぱコーラ最高ッ!
バサッ――久々のコーラに感動したら、無意識の内に翼が出てしまった。それもタキシードを突き破って。
突然の音と出てきた翼に会場にいた誰もが驚いていたが、パシャリとどこかのプロ意識が高いメディアがシャッターを切る音がした。
「失礼した」
オレはオレでコーラ一つで翼を抑えきれなかった事に恥じらいを感じてしまうが、何とか顔に出ない様に押しとどめる。タキシードが破れてしまった以上、翼を戻す訳にはいかない。
とそこに、オレの努力を無下にしようと悪い顔をしながら接近する悪魔が一人。
「またそんなの飲んで! ったく、こんな良い酒があるってのに。ほら、これでも飲みな!」
「遠慮しておこう」
イザベラだ。ウィスキーと氷が入ったグラスを揺らしながら近付いてくる彼女。オレと離れてものの10分も経っていないというのにもう酒臭い。度数が高い酒を一気に飲んだのだろう。そのままオレの首に腕を回そうとするのを躱し、彼女の腰に手を添えて抱き寄せる。
「公の場では節度を持って接しろって言っただろ?」
と耳元で囁くが、唇を尖らせて拗ねる彼女。
「アタシだって、坊やと呑みたいんだよ」
「いや、オレまだ未成年だし」
まあ、この体に未成年もクソもないんだけどさ。おっと、イザベラの口の悪さが移ってしまった。
酔ったせいで彼女の甘えたがりが発動してしまったのなら、今すぐにでも抜け出して愛してあげたいと思うが、今はグッと堪える。
「20歳になったら、初めて一緒に呑むのはイザベラと、って約束するから。今日だけは良い子にしてくれないか?」
「・・・言ったね? 約束だからな?」
「ああ、約束だ。飲み過ぎない様に気を付けてな」
そう彼女に言うが、すっかり舞い上がった彼女はメイシャを連れてさっきのホールスタッフの元へ向かってしまった。あれは二日酔いコースだな。二日酔いに生命魔法の治療が効くか分からないけど、明日掛けてあげよう。




