198.お見通し
ガブリエル大統領と並んで座り、後方には騎士団が待機している状況。人類が誇る最高戦力が戦場以外で集まるのは非常に稀だ。基本記者会見に出るのはオレ一人だったからな。
こうしてみんなを表舞台に立たせるのは、戦後に適合者が差別の対象にされない為や連合や防衛軍の印象をもっと良くする為等。いくつか理由はあるけど主なのはその2つ。
だが、今この場にいる連中は誰よりもオレの事が気になって仕方がない様だ。質問したくてウズウズしているのが目に見えて分かる。それを察したガブリエル大統領が10分だけ質問を受け付けると発言した瞬間、誰もが一気に手を上げた。
ガブリエル大統領が一人の記者を選ぶが、見覚えがあった。前にオレに突っかかってきたあの女性記者だ。分かっててあの人を選んだだろとガブリエル大統領を睨むと、笑顔が返って来た。鳥肌が立ちそうな凶悪な顔だ。
「えっと・・・ルシファー様は我々が想像している天使、でお間違いないのでしょうか・・・?」
以前とは打って変わってしおらしい口調で言う彼女。前にオレに生意気な口を聞いたとは知りもしないだろう。
「オレがお前達が都合良く思い描いた偶像に見えるのか?」
「あ、いえ・・・ですがお名前が――」
「お前達に分かりやすい呼称を使っているだけに過ぎない」
天使と言われて思い浮かぶ名前の上位に入るルシファーの名前を使っているからか、聖書の中の存在だと思っている様だが、実際はオリハルコンを取り込んだだけの元人間だ。しかし、今は紛い物とはいえ希望を与える存在にならなければならない。
そしてユグドラシルが何度も言っていた人々を導く存在になる為には、甘やかすだけではダメだ。人類という種そのものに成長してもらわないと困る。少し冷たくするぐらいがちょうど良い。
オレに突き返された女性記者は言葉を失って腰を下ろした。そして別の記者に質問権が移る。
「ルシファー様は人類の味方なのでしょうか?」
お? これはサクラの質問だな。予め決められた質問をする人間を数人用意しておいたのだ。
「人類全てを救うつもりはない。救う価値のある人間だけだ」
「救う価値、ですか?」
「そうだ。ここにいる勇敢な戦士を見ろ。種の存続の為、危険を顧みずに戦う彼等は尊敬に値する。反対に、お前達はどうだ? 自分よりも幼い人間に戦わせ、守られているだけの存在に救う価値が、救われる価値があると思っているのか? 戦わない者に生きる価値はない」
その言葉に他の記者やテレビ局のカメラマンが生唾を飲むのが聞こえた。戦わない者に生きる価値はない、戦時中でなければ耳を疑う発言だが、今はまさに戦時中なのだ。
「つまり、兵士以外は助けるつもりはないのですか?」
「逆に問おう。何故救わなければならないのだ?」
「それは――」
言葉が見つからない記者。戸惑っている様に見えて、あれはただの演技だ。サクラだから当たり前だけど。
そして再度他の記者、いや今回はアナウンサーに質問権が移った。
「強大な力を持っていながら、人々を救わないのは無責任ではないでしょうか?」
「・・・地球にいる鳥のヒナは、口を開けているだけで親鳥がエサを入れてくれる」
「はい?」
「お前達はオレのヒナでもなければ、オレはお前達の親でもない」
「その通りですが――」
「絶滅するならすればいい。それが自然の摂理だ」
人間が淘汰される危機にある事を知ろうともしない連中の事なんて、ハッキリ言えば知った事ではない。だが、それでも見捨てる事は出来ない。辛いからとかじゃない。みんなが悲しむから。オレの存在理由はそれだけだ。それだけでいい。
「おいガブリエル。こんな生産性の無い質問の為にオレを呼んだのか?」
その後もいくつも質問されそうになった為、打ち切る事にした。当初からその予定だった為、ガブリエル大統領も頷く。
「では、この場はここまでとしよう」
この口調で喋るのも疲れたから解放される、訳ではない。これから関係者のみで開催される立食パーティに参加しなければならないからだ。だが、先程よりも気を張る必要もなければ、楽しみでもある。何故なら寿司が待っているから!
ガブリエル大統領が保有しているエンジェルタワーに移動し、ホテルの一室で着替える。女性組は別室で。オレはグレーのベストの上に白の、ルカは黒のタキシードスーツに袖を通す。
「こういう服装は慣れないな」
「そうですね。僕もこんな高そうな服を着るのはちょっと抵抗があります」
ルカと苦笑いしながら来てみるが、ネクタイの結び方なんて知らない。かと言って蝶ネクタイを付けるのは恥ずかしい。ルカはゴム紐付きの蝶ネクタイを付けていたが。
コンコン――
「準備出来た?」
ノックしながら入ってきたのはミカエラだった。髪を結え、青いドレスに身を包んだ彼女は美しく、天界から舞い降りた天使にしか見えなかった。スタイルがハッキリと分かるタイトなドレス。胸元が開いており、スリットの隙間から美脚が見える。
「天使だ・・・」
そしてネクタイを付けていないオレを見て、クスリと笑う。
「何言ってるの、もう。ほら、貸して」
とミカエラに言われるがままネクタイを渡すと、オレの首に巻いてササッと結ぶ。ガブリエル大統領の付き添いでパーティに出たりする彼女からすれば、知っていても不思議ではないか。
「パパが良くネクタイを緩めちゃうから覚えたの」
「ああ、確かにガブリエル大統領ってすぐにネクタイ緩めるもんな」
首が太いから苦しくてすぐに緩める姿を何度か目にしたことがある。
そしてこの姿になってもネクタイの結び方一つ知らないのもどうかと思うが、オレには縁がなかったのだ。仕方がない。
ミカエラのおかげで準備が整ったオレは、みんなと合流して会場へと向かう。みんなもメイクをし、ドレスを着ているせいで、いつもより綺麗でドキドキしてしまった。
それに気付いたイザベラがニヤリと笑みを浮かべ、オレの肩に腕を回してくる。
「なんだ? アタシ達が綺麗でドギマギしてんのかい?」
「・・・違うし」
否定するも、ミカエラと同じく胸元の開いた赤いドレスを着た彼女は、オレの顔に胸を押し付けてはニヤニヤしている。
――オレってそんなに顔に出てるのかな・・・?




