197.降臨
地上に降り立ったルカがガブリエル大統領と握手してカメラ目線で笑顔を送る。重装兵等他のメンバー全員を紹介する訳にはいかないので、今回は華があるこの10人で対応。
「彼らが騎士団の主要メンバーだ。今回彼らを紹介するが、彼らの能力については公開できない。その点は了承してくれたまえ」
そしてガブリエル大統領が直接騎士団10名の紹介を始めると同時に、一人ずつバイザーやマスクを外していく。
「ミカエラ・ミラー団員、イザベラ・キャンベル団員、メイ・シャオユー団員、アンジェリカ・テイラー団員、ケイシー・ケリー団員、アンナ・マリア・アンジェロ団員、メアリー・テューダー団員、クララ・ヒンメル団員、そしてアールヴのクーナ団員。最後に、新しい騎士団長であるルカ・ヒンメルだ」
騎士団の素顔が露わになると、あまりに美し過ぎる美男美女の集団にその場にいた全員が息を飲む。オレですらビックリするぐらいみんな綺麗だからな。正直初めて会った時より美しくなっているのは、オメガ因子のおかげなのか、オレの遺伝子を摂取しているおかげなのかは分からない。
メアリーやアニー、ケイシーの髪の色がオメガ因子を結合させてから変わった事を考えると、前者の可能性が高いかもしれない。まあ、そうなる様には後者の行為が必要になるのだから、両方共正解だとも言えるだろう。
ちなみにルカとクララの苗字はオレが付けた。ヒンメルは、ドイツ語で晴れた空や天国を意味しており、無垢で可愛らしい2人にピッタリだと思って付けたのだ。喜んではくれた一方で、オレの姓名が欲しかったとクララに言われた時はいっぱい愛してあげた。
どちらにせよ名前は捨てる覚悟を決めていたから、漆葉の名は誰にも上げられない。その理由はいずれみんなに告白するとして、我に返った記者が手を挙げて質問を投げかけようとしていた。
本来であれば質疑応答の時間ではないので、無視されるはずだったが、ガブリエル大統領はそれに応えた。質問の内容はオレにも分かっている。ミカエラの姓がミラーだからガブリエル大統領の娘なのかという質問か、騎士団長がルカに変わった事に関する質問のどちらかだろう。
「大統領、ウルシハ騎士団長はどうされたのですか?」
「彼は・・・彼は英雄と呼ぶに相応しき、偉大な男だ。誰よりも長く前線で戦い、誰よりも多くオメガを仕留め、誰よりも多く人々を救った。15歳で入隊し、戦争が始まってから1日も休まずに訓練に励み、戦場で戦い続けてきた。その間、家族とも一度も会えていない。そんな彼に、これからも休まずに戦えなんて誰が言えようか。彼には、少しばかり休息が必要だ。心の休息が・・・」
――オレ結構訓練サボってみんなとチョメチョメしてたけどな・・・。
ただ、確かに一度も家族の元へ帰れていないのは事実だ。それにオートマタとアールヴを覗けば、誰よりも長く戦場にいるのも間違いではない。事実の中に、ほんの少しだけ嘘を織り交ぜる。流石政治家、きたない。
ガブリエル大統領の迫真の演技で騙された記者やテレビ局のアナウンサーが目に涙を浮かべている。一つだけ言えるのは、これからも休まずに戦い続けないといけないんだけどね!
みんなは静かにガブリエル大統領の後方に立ち、整列する。それを見計らってガブリエル大統領が顔を上げた。
「では最後に、待ち望んでいた彼を紹介しよう!」
お涙頂戴の展開から打って変わって、ガブリエル大統領が晴れた空に手を向ける。誰しもが漆葉騎士団長の事なんて一瞬で忘れ、カメラを空へと向ける。
「人間を憂いた神が送ってくれた使者、救世主『ルシファー』だ」
やっとオレの出番か。みんながパフォーマンスをした様に、オレも演出に力を入れる。
晴れた空、雲よりも高い位置で、ワタツミの水を操る能力とサイコキネシスを組み合わせて天候を操る。晴れていた空が一瞬で黒い雲に覆われ、地上に届いていた光が遮られ、辺りが一気に暗くなった。
突然の出来事に地上がざわついているのを感じるが、それに追い打ちをかける。雲に少しだけ隙間を作りつつ、雲の上に生命魔法で金色の光を放つ球体を配置。暗くなった地上に空から金色の光の筋がいくつも刺さる幻想的な光景の出来上がり。
そしてオレ自身は雲を突き抜けて光を放ちながらゆっくりと降下していく。地上からは光の塊が落ちてきている様にしか見えないだろうが、地上に近づくにつれて段々とオレの姿が露わになっていく。
客観的に考えたら神が降臨している様な光景の為、地上にいる人が全員口を開けたままカメラを向けてしまうのも無理はないと納得する。誰しもが驚きのあまり言葉を失い、静寂が訪れた。人によっては涙を流す者までいたが、ホントにオレを神と勘違いしているのだろう。
――・・・少しだけ罪悪感。なんか詐欺を働いているみたいで。まあ、別にオレ自身が神とか天使とか名乗っている訳ではないのでノーカンノーカン。
地上スレスレで翼を広げてゆっくり着地し、ガブリエル大統領の隣に降り立つ。表情を変えず、彼に声を掛ける。
「久しぶりだな。ガブリエル」
威圧的な口調で発せられた台詞。もちろん役作りだ。威厳を保つ為に、ガブリエル大統領から提案されたのだ。決して下手に出ず、常に主導権を握る様に威圧的な話し方をしろと言われた結果、この口調になってしまった。
「よく来てくれた、ルシファー」
両手を広げてハグしようとするガブリエル大統領を無視して近くの椅子に腰を下ろす。人類とは友好関係にある訳ではなく、あくまでオメガとの戦闘に手を貸しているだけという設定でもあるので、馴れ馴れしい行動は基本なし。
打ち合わせをしていたとはいえ、正直心苦しい。オレには向いていないと思いつつも、腕を組んで目を伏せて黙り込む。ガブリエル大統領が肩をすくめつつオレの隣に座る。
今のやり取りを見て、オレと向かい合っている記者達に緊張感が走る。無礼を働いたらどうなるか分からない、と。現在、人類のリーダーは誰かと聞かれたら確実に誰もがガブリエル大統領と答えるだろう。
そんな彼をぞんざいに扱っても咎められない相手が目の前にいるのだと認識したのだから。
――舐めた態度を取ったら見せしめとして、それ相応の報いを受けさせる。
それがルシファーとしての今後の在り方なのだから。




