001.ファーストコンタクト
アメリカにある軍事基地。そこでオレは訓練兵として汗水を垂らしながら走っていた。
「はぁはぁ・・・。高校生に軍事訓練なんてさせるなよ」
まあ、オレが高校生でいられたのは2週間ぐらいだけだったけど。扱いは退学なのか休学なのかは分からないが、召集命令が下された為、強制的に軍人としての道を歩む事になってしまった。
日本人であるオレが何故アメリカの軍事基地で訓練を受けているかというと、ほんの数か月前に起きた出来事が原因だ。
その内容はB級映画の監督ですら、ありきたり過ぎてこの手の映画は作らないだろうってレベルだ。
簡単に言うと、地球が宇宙人に侵略された。比喩じゃなく言葉通りの意味で。そしてそれを助けてくれたのも宇宙人。それと異世界人もいる。SFとファンタジーのコラボレーションだ。訳が分からない。
まあ、とにかく何が起きたのか説明しよう。
それはオレが軍人になるまでの、壮絶で凄絶な物語。
当時のオレがまだ高校に入学する前――
20XX年。まだ肌寒さを感じる3月中旬の朝。
日本では卒業シーズンと呼ばれる頃。学生が次の段階に進む時期でもある。そして初めて社会人になる者もいる。そういった新たな環境を迎える事に嬉しさと同様に緊張を、面倒さと共に心を躍らせジレンマを感じる者が多数いる中、突如として平穏な時が砕かれた。
『それ』は東京の空に突如として現れた。陽の光を差し込んでいた晴れていた空が、突如として黒に染まる。人々が見上げたそこには、巨大な異形の怪物が空を飛んでいた。
それは巨大なイカの様な怪物だった。ただ、その体の大きさは東京23区を覆いつくす程の巨大さ。そして何よりも目に留まるのは、その体には皮膚がなく、剥き出しになった赤い肉の塊と表現せざるを得ない奇妙な見た目をしている事だ。
腹部は膨らんでおり、足は触手が無数に生えている。そんなグロテスクな塊の体には、無数の目玉が付いており、ギョロギョロと地上にいる二足歩行の生物を見下ろしている。
この様な緊急事態が起きたにも関わらず、その場にいた人は逃げるのではなく、ただ写真を撮ろうと携帯電話で撮影を始め、感嘆の声をあげる。
何かの撮影か、そんな言葉が飛び交う中、怪物の触手がゆっくりと地上に向かって伸びる。その動きは非常に緩慢で、人を捕まえようとしていない事は明白だった。そして地面に触手が接触する。触手の巨大さ、それが放つ異臭とリアルな外観を目にして、ようやく人々は危機感を抱く。
触手が人を襲う事はなかったが、問題は触手の先端から蟻の卵の様な黄色の球体が産まれるように地面に転がり落ちる。どうやら腹部の膨らんだ部分から、触手を通ってそれが運ばれている様だ。
地上に生まれ落ちたそれは、ピシッと音を立てると同時に殻にヒビが入り、そして中から無数の生物が飛び出す。出てきたのは狼の様なシルエットをした異形の怪物。狼と比較すると、こちらもイカの怪物と同じく、毛や皮膚がなく、剥き出しになった赤みを帯びた肉が体の表面を覆っている。体は狼とは比較にならない程大きく、一般的な自動車の半分程のサイズもある。
そして鋭利な骨が肩から飛び出しており、顔つきはイヌ科の様な可愛らしさは一切なく、くぼみの深い眼窩から赤い眼光が当たりを見渡す。くちびるがなく、歯も剥き出しになっており、イノシシの様に長い牙が上下に2本ずつ生えている。その巨大な顎からは人の頭を軽く噛み砕ける程の力がある事は、一目でわかる。そんな威圧感を放っている怪物が無数に現れる。
ゲームや神話が好きな人ならば、その見た目から饕餮を連想するだろう。それが今日本に現れ、辺りの人を見渡すと、先頭にいた一頭が遠吠えの様な鳴き声を上げる。
それと同時に、卵から数え切れない程の怪物出てきたと思えば、駆け出し、一斉に人々に襲い掛かる。大きな顎を開け、近くの人間に飛び掛かり、首から上を噛み千切る。辺りに鮮血が飛び散り、そこで人々は初めてそれらが危険な存在だと認知する。
悲鳴を上げ、逃げ惑う二足歩行の生物を、四足歩行の生物が殺戮する。一瞬にして辺りは地獄と化した。
三十分後、道路とビルが赤く染まり、怪物が他のエサを探すために鼻を鳴らしながら散策を始める。建物内に逃げていた僅かな人間の顔に絶望の色に染めながら、ただ怪物が通り過ぎるのを待っていた。
そんな中、突如として地獄を終わらせる存在が現れた。上空を飛んでいるイカの怪物が、巨大な光の柱に貫かれる。身体に大きな風穴があいた怪物は、地上から触手を離し、そのまま空の彼方へと飛び去って行く。
一方、イヌの怪物達の体は突然爆発し、肉片を辺りにまき散らす。良く見ると小型のミサイルが飛来し、怪物を一匹残らず駆逐したのだ。スーパーヒーローの様な正義の味方が現れたのか、はたまた神が救ってくれたのか。
その正体を確かめるべく、隠れていた人々は外に出て空を見上げる。ただ、そこにあったものはヒーローの姿ではなく、巨大な船だった。地球の技術では飛ばせそうにない程、巨大な黒い船が宙に浮いていた。誰もが口を揃えて言う。
「宇宙船だ」と。
およそ三十分で東京の人口を二万人近く、地球の人口が百万人程減る事となったこの日を、世界では『ファーストコンタクト』と呼ばれた。
この時、日本を救った宇宙船に乗っていたのはオートマタと呼ばれる機械生命体であった事。他国を救った魔法を行使するエルフの様な存在、アールヴと名乗る種族であった事を、世界各国はすぐに知る事となった。




