195.特殊型オメガ ウロボロス
頭を潰そうがバラバラにしようが、千切れた手足ですら動き続けている。良く見てみると、傷口から植物の蔓の様なものが見えた。どうやらあの粉は種だったらしい。吸い込んだら寄生されるのかと思ったが、トウテツの死骸が呼吸をする訳がない。
つまり――
「死体に寄生するオメガ・・・?」
「ゾンビかよ。頭を撃っても死なねぇのはマジでクソだな」
ゾンビ、が何かは知らないけど、本当なら頭を撃てばいい様だ。だが、今回のは全身に寄生している。こうなったらバラバラにした後焼き払わないといけない。面倒な事態になったと頭を抱えたくなる。
死なないと分かった以上、殺すのは諦めるしかない。・・・もう死んでいるんだった。
「みなさん、寄生されたトウテツは死なないのでバラバラにしてくださいッ!」
とは言ったものの、僕が使っているサブマシンガンではトウテツをバラバラにするのに向いていない。銃をしまってブレスレットを刀にして構えるが、3万の不死身のトウテツに刀で挑むのは分が悪い。
それに既に民間人が襲われており、周囲の建物にも侵入している。おそらく中にいる人達はもう・・・。
「いやぁああああっ!」
「た、助けてくれ! お願いだ!」
周囲から悲鳴と助けを求める声が交差するが、トウテツの首と両手足を斬り落とさなければならない以上、一匹一匹倒すのに時間が掛かってしまう。前線に出て接近戦を繰り広げるのはあまりにも無謀だ。
兵士だけでなく、騎士団にも被害者が出てしまうかもしれないこの状況で人助けする余裕なんてないと割り切るしかない。そう心に言い聞かせて次の指示を出す。
「後退しながら戦いましょうッ! 囲まれない様に注意してください!」
前に出られない以上、後退するしか道はない。例え民間人を見捨てる事になってたとしても・・・。
何度も何度も自分を言い聞かせる。指示を出すというのがこんなにも辛いとは思わなかった。僕の指示一つで命を見捨てる事も、危険に晒す事にもなってしまうこの状況に恐怖を感じてしまう。
――お兄さんはいつもこんな経験をしていたなんて・・・。
その立場になって初めて分かったが、命を背負うのはあまりにも辛く、そして孤独だ。これなら自分一人が犠牲になってでもみんなを助けたいと思ってしまうのも理解できる。
保身の為、見捨てるという行為自体を頭では納得できるが、心ではできない。
「どうすれば・・・」
目の前で失われていく命をただ黙って見ている事しか出来ない無力感に打ちひしがれるが、不意に誰かに肩を叩かれた。振り返ると、微笑みを浮かべるミカエラさんがいた。
「ルカ君、独りで抱え込む必要はないわ。私達を頼って。そして、ケイジを信じて」
・・・そうだ。騎士団には僕より強い人達がいる。それに時間さえ稼いでいれば、お兄さんが助けに来るはず。信じるんだ、僕が憧れたヒーローを――
「すみません、ミカエラさん。情けないところをお見せしました」
「いいのよ。ルカ君は初めてなんだから。お姉さんが優しくしてあげるのは当然でしょ?」
ちょっと気になる言い回しだけど、僕は独りじゃないんだ。改めてそう思うと、この窮地を切り抜ける方法が思い浮かんできた。
――時間稼ぎに徹しよう。状況は打開しなくていい。そして助けられるだけ助ける。無理はしない範囲で。
「ミカエラさんはここにいる民間人を守って下さい。クーナさんはミカエラさんの援護を。クララもミカエラさんを手伝ってあげて。ヴァルキリー部隊は散開して囮になってください。トウテツの分断をお願いします。お兄さんが来るまで時間稼ぎしてください。無理に倒す必要はありません。イザベラさんはこの場でトウテツを少しでも多く蹴散らしてください。メイシャさんはイザベラさんの援護を」
「「「了解ッ!」」」
早口で言ってしまったが、全員が各々の仕事を全うする為に動く。僕も仕事をしないと、そう思った時に欠伸をしているマキナが視界の端に映った。
「俺は帰っていいのか?」
「いいわけないでしょう。マキナは僕と前線に出ますよ」
指示を出さなかったマキナが長い髪を揺らしながら不貞腐れているが、彼には僕と前線で暴れてもらう。ヴァルキリー部隊による陽動、そして僕達が最前線で暴れる事で敵を分散させる。見た目は女の子になったからといって、女の子みたいな扱いをする気は毛頭ない。
「っしゃあッ! お前のクセに良く分かってるじゃねぇか!」
「一言余計」
そうして僕たちは射殺したトウテツの群れに向かった。イザベラさん達重装兵に撃たれたトウテツはバラバラになっているが、その他の銃で撃たれたトウテツは絶命しているが五体満足だ。3万の内9割以上はその状態だと言える。
状況としては最悪と言えるが、時間稼ぎに徹すればなんとか出来ない訳でもない。
「だらぁっ!」
お兄さんからもらったハルバードを意気揚々と振り回し、トウテツを真っ二つにしていくマキナ。縦に両断されたトウテツは立ち上がろうとするが、バランスが取れずに倒れてしまう。縦に真っ二つにするのもかなり有効のようだ。
マキナに倣って僕も刀で死んでいるトウテツを両断していくが、やはり手間だ。普通に倒すよりも時間を要してしまう。目の前に見えるだけでも数千はいるトウテツ。普段なら大した数ではないと思うが、今だけは大群に見えた。とは言え奮闘しなければ、他の人達に負担が掛かってしまう。
それから各自で慣れない戦闘を繰り広げて20分程が経過した。公園にいた民間人の防衛には成功しているが、周囲の建物に避難していた人や隠れていた人は既に全滅しているだろう。トウテツの数も5分の1程は無力化しているが、体感では減っていないと感じてしまう。
「はぁはぁ・・・思ってたよりキツいな、コレ・・・」
「口じゃなくて手を動かしてください・・・」
戦闘自体の時間は短いが、慣れない戦闘のせいで疲労が蓄積していく。超回復のある僕も、機械の体のマキナもこの程度じゃ疲れる訳がないが、それでも精神的に疲れてしまった。気に掛けないといけないものがあまりにも多すぎる。
集中力が途切れてきたその時、首を切断したトウテツに足首を噛まれてしまった。トウテツが動いた訳ではない。僕がそこに踏み込んでしまったのだ。
「くっ! マズいッ!?」
隙を晒してしまったその瞬間、トウテツの群れが一斉に飛び掛かってきた。普通のトウテツなら捌けるが、不死のトウテツはその限りではない。瞬時に死を悟ってしまった――
まさか自分が一番弱いオメガであるトウテツに殺されるなんてと思いもしなかったと、目を瞑るが、いつまで経っても痛みが襲ってこない。
「よく頑張ったな」
一番聞きたかったあの人の声。目を開けると、太陽の如く、黄金に輝く光が目に入る。安堵してしまい、涙が溢れてしまう。周りにいたはずのトウテツの姿はどこにも見当たらない。
「後は任せておけ」
「・・・はいっ!」
――僕の憧れのヒーローは、いつでも助けてくれる。




