194.疑心暗鬼
群がるトウテツを処理しようと思ったが周囲に民間人がいる以上、安易に射撃は出来ない。それは一般兵も同じだと思い出す。
――あれ? これ思っていたよりも厳しい状況になりそう・・・?
近接戦闘を得意とする騎士団とデウスエクス部隊は良いとして、一般兵を散開させたのはマズかったか・・・。だが、今さら散開させた一般兵を呼び戻す程の時間はない。
接近戦だけで仕留めるのは危険だ。避難しなかった民間人を取るべきか、兵士達の安全を取るべきか。苦渋の決断だが、答えは決まっている。
「総員、発砲を許可します。接近戦に持ち込まれる前に出来るだけ数を減らしてくださいッ!」
刹那、至る所から銃声が轟く。外れた弾丸、貫通した弾丸が民間人に当たる可能性はもちろんあるが、今はそんな事を言っている場合ではない。オメガを逃がすのだけは絶対に避けなければ。それに――
「植物のオメガ・・・。初めて見るタイプだ」
エッフェル塔にクモの巣を張る様に蔦を巻いた植物型のオメガ。見た目はトゲのないサボテンに似ており、緑色の蕾で先端には桃色の花弁らしきものがはみ出ている。そして呼吸でもしているのか、膨らんだり萎んだりしているが、それ以外に特に動きはない。
アレが動いていない内に、出来るだけトウテツの数を減らしておきたい。お兄さんからもらった刀をブレスレットの状態のままにしておき、予備として持ってきていたサブマシンガンで射撃する。
ヴァルキリー部隊の4人が持っているのと同じものだ。針状の弾丸を高速で射出する。改良されて距離による減衰も減り、遠距離からでもオメガを仕留められる様になったとはいえ、元々射撃があまり得意ではない為、正直あまり使いたくはない。射撃アシスト機能も付いている為、バイザーに映し出された場所に向かって射撃するだけで弾は当たるんだけど。
銃声に驚いた民間人の悲鳴が響き渡る。それを銃声で掻き消してトウテツを葬っていくが、所詮は3万匹。市街地とはいえ開けた場所での戦闘だった為、あっという間に殲滅に成功する。接近戦に持ち込まれる前に仕留められたのは良かったが、あまりの呆気なさに拍子抜けしてしまう。
「後はアイツだけ・・・。イザベラさん、重装兵全員で射撃してもらえますか?」
「任せときな!」
お兄さんがいないのを良い事に、タバコを吸おうとしていたのをメイシャさんに奪われてイライラしていたイザベラさんが、意気揚々とライフルを連射する。遅れて他の重装兵も射撃して植物型オメガに弾丸を命中させると――
パァアアアアンッ――
風船が破裂する様に、簡単に爆散してしまった新型。
「あ、あれ?」
こちらも呆気なく終わってしまった事に唖然としてしまう。今回のオメガは何がしたかったんだと疑問を抱くが、それはすぐに解消される事となった。植物型オメガが爆散した際に、花粉の様なものをまき散らしたのだ。空気が霞掛かり、バイザー越しに見えるナイトビジョンにノイズが走る。
「コマンダーさん。輸送船を遠隔操作して周囲を照らしてください」
『了解だ』
クララが乗っている騎士団専用の輸送船の他に、無人の輸送船が全て離陸し、ライトで周囲を照らす。視界が明るくなったおかげで植物オメガの目的が明らかになる。辺り一帯の空気が桃色に変色する程まき散らされた粉にどんな効果があるか分からない。
バイザーがある以上、騎士団は大丈夫だろう。それに機械兵も残った生身の割合によっては問題ないはず。そもそも人間に効果があるのかは不明だが、警戒するに越したことはない。
「機械兵、一般兵は後退してください。なるべくあの空気を吸わない様に注意を」
ヘルメットで戦場に参加している一般兵は危険かもしれない為、後退させる。冷静な判断を下した民間人だけ避難を再開している。全員を避難させるべきか悩むが、先程と同じパニックに陥るだけなのは目に見えている。
見えないフリをして警戒していると、機械兵の中で特に生身が少ない一部の人とマキナだけがこちらに向かってきた。
「ありゃなんなんだろうな・・・」
「分からない。でも久しぶりの新型だから油断しない方がいいでしょう」
どんな能力を持っているのか見当もつかない以上、下手に動かない方がいいだろう。待機して次の動きを警戒しているが、2分程経過しても何の動きもない。
「・・・花粉症の人を苦しませるだけのオメガだったのかしら?」
「ミカエラ。さすがにそれはないだろう」
ミカエラさんの冗談にクーナさんが返すが、本当にそう思わざるを得ない。どうして動きがないのだろうか、本当に何もないのだろうかと、疑心暗鬼になってしまう。
――だが、絶対に何かある。
そう自分に言い聞かせていると、何かが動く音がした。ゴソゴソと辺り一帯から。民間人が避難しようとしているのかと思ったが、動いているのは人ではなかった。
「トウテツ・・・?」
死んだはずのトウテツが起き上がっていたのだ。その動きはぎこちないが、例え四肢が千切れていようが、そして例え頭部を失っていようが、関係なく再び活動を開始したではないか。
「何が起こって・・・」
突然の事で頭が真っ白になるが、手だけでも動かさないと。
「う、撃ってください! 動かなくなるまでッ!」
漠然とした指示を出してしまったが、誰しもが引き金を引いた。
轟く銃声。着弾した弾丸がトウテツの体を貫通するが、その動きを止める事は出来ない。それどころか、そのまま駆け出して近くにいる人間に向かって襲い掛かる。
死を克服したのは、間違いなくあの粉が原因だろう。恐れていた新型の能力。それは、あまりにも凶悪なものだと、バラバラになっても動くトウテツを見て痛感する事となった。




