191.新たなリーダー
6か月。オメガの総力を集結させた上での襲撃が失敗したからか、あれから一度も襲撃がない。
「平和だぁ」
「平和ですね」
「訓練日和」
訓練場でメイシャとメアリーと剣の稽古をしていたが、今は3人で休憩しており、晴れた空を眺めていた。今は7月。日中は熱く、夜は涼しい夏の季節。
――オレももう19歳か・・・。
軍に入隊してから早3年。色んな事があったと、今までの戦いを思い返してみる。・・・が、死にかけた記憶ばかりだ。戦いを振り返るのはやめよう。
みんなに出会った事を思い出してみると、胸がいっぱいになって幸せな気持ちが溢れてくる。死にかけたり、死んだり、オメガになったり、天使になったりしたが、そんな事よりもみんなと巡り合えた奇跡に感謝したい。
「ケイジ様? おっぱいに似た雲でもあったのですか?」
「催したならお相手いたします」
ニヤけていたのか、2人が気を利かせてくれるが、ひどい言われようだ。これではオレがいつもおっぱいを求めている様に聞こえるではないか。・・・否定はしないけどさ。
「・・・2人共今夜覚えておけよ?」
ベッドの上でおっぱい星人の力をお見せしよう、などと馬鹿な事を考えていると、警報が鳴り響く。
「お? やっと来たか」
半年ぶりにオメガと再会できる。現れないに越した事はないが、会えないのはまたそれで寂しい、いや暇だからもっと頻繁に現れて欲しいものだ。久々の再会に喜んでいるのはオレだけではない様だ。
「ようやく来ましたか」
「・・・久々。やっと肉を斬れる」
剣の快楽にでも目覚めたのか、メアリーが若干怪しい発言をするが、聞かなかった事にしよう。やる気があるならそれで良い。
オレ達はそのまま転送室でみんなと合流し、輸送船に乗ってから現場へと移動する。一人で先行してもいいが、今日はルカの晴れ舞台になるはずだから、なるべくギリギリまで一緒にいてあげたい。
輸送船の中でコマンダーから概要が説明される。
『今回の部隊はパリだ』
「パリ・・・」
フランスの首都だったよな。エッフェル塔とルーヴル美術館があるのは知っている。が、それ以外は知らない。
「パリ! 前に1回だけ来た事があるけど、キレイなところだったわ・・・」
ミカエラがいつ来たのかは知らないが、過去の思い出の感傷に浸っている。
「コンコルド広場にパンテオン、ガルニエ宮に、それから美術館巡り。はあ、また行きたいな・・・」
多分、ミカエラの母親と着た事があるのだろう。それ程色んなところを回っているとしたら、かなり時間が掛かるはず。当時から多忙のガブリエル大統領が仕事で訪れた際に、一緒に付いてきたと予想できる。
「戦争が終わったら、みんなと来よう。パリだけじゃなくて色んな国を」
「・・えぇ」
ミカエラの肩を抱き寄せて言うと、目を伏せて嬉しそうにする。みんなもその未来を想像したのか、どこを回ろうか今から計画を立てそうな勢いで喜んでいた。みんなの故郷にも行ってみたい。
オレ達がはしゃいでいると、コマンダーが通信機越しに咳払いをする。
『続けるが、オメガの数はトウテツが3万、そして新型が1体だけだ』
「なんだ、随分と少ないな」
これで少ないと思うのはもはや毒されている証拠だが、久々の襲撃だから新型がいるのは分かるとはいえ、トウテツがたったの3万しかいないのは残念だ。
『ああ。だが、最悪な知らせがある』
「・・・住民の避難が終わってないんだろ?」
『その通りだ』
輸送船の中にいても分かる。辺りから複数の生命体、人間の反応が感じ取れる。多くの人が避難を始めていない様だ。一体何故こんな事態になっているのか見当もつかないが、悪態をついている場合ではない。
「マジで最悪だな・・・」
『エッフェル塔前でイベントがあった様だ。そこにいた連中が警報をパレードの一環だと認識した様だ』
折角ルカの晴れ舞台になると思ったのに、バカ共のせいで台無しだ。
「たった半年オメガが現れないだけで平和ボケなんてするか? 普通・・・」
あまりの馬鹿さ加減に呆れて物も言えないが、見捨てる訳にはいかない。輸送船がエッフェル塔前の広場に着いても、未だにイベントだと思っている参加者達。
輸送船を降りる前に、みんなに向き直る。改めて言っておかなければならない事がある。
「何度も伝えたけど、今回の作戦からオレはクラーケンを倒す為に宇宙に行く。地上のオメガはみんなに任せる」
地上に降りたオメガを倒したところで、オメガに損害は与えられない。本格的にオメガの戦力を削るには、クラーケンの数を減らすのが最適だと判断したからだ。
その為、地上のオメガはみんなに任せる事にしたのだ。みんなも納得してくれたし、何より戦いを終わらせるには今まで同じ戦い方をしていてもダメだと誰もが感じていた。
理由は他にもあって、オレがルシファー形態の練習をしたいからだ。クラーケンを相手に宇宙空間で思う存分力を発揮して戦う。正直青天井の強さに慣れるには経験を積むしか方法がない。それにルシファーだけでなく、みんなの知名度も上げる必要がある。
そろそろ、騎士団を民衆に認知してもらいたい。英雄として、団長であるオレだけではなく、みんなにも希望の象徴になって欲しいのだ。幸いな事に、団員達は色んな国籍の子がいる。各国の英雄として名を残すには打って付けとも言える。
まだみんなには明かしていないが、オレがルシファーだと公開するのはやめる事にした。オレの名は後世に残さない様にし、ルシファーとして生きていこうと今計画している。ガブリエル大統領も了承済みだ。
理由は幾つかあるが、それはちゃんとみんなに伝えるつもりだ。
そして世間では騎士団長と認識されているオレが表舞台から消える事になる。では、今後の騎士団長をどうするのかと言うと――
「ルカ。みんなを頼んだぞ」
「はいっ! お兄さんの代わりになれる様、精一杯頑張りますっ!」
かつてオレが着ていた黒いトレンチコートを羽織ったルカに任せる事にした。手直ししたとはいえ、少し大きいそれに袖を通すルカの肩に手を置く。
「やっぱ少し大きかったか?」
オレより背が低いルカだが、まだ17歳だ。これから大きくなる可能性だって・・・少しはあるはず。
「はい。でも、これが似合う様にならないと、団長に相応しいとは言えませんから」
「・・・ああ、そうだな。その粋だ」
ルカなりの覚悟を決めて臨んでいる。これ以上とやかく言うのは侮辱に値するだろう。いつの間にか、ルカも大きくなったんだな、と歳を感じてしまう。
「じゃあみんな、地上は任せた!」
そう言い残して、オレは宇宙にテレポートする。地球と火星の中間辺り。そこにクラーケンはいた。卵型ポッドを射出して油断している事だろう。だが、これからはクラーケン狩りが日常茶飯事になる。
今までは安全な場所からひたすらポンポン卵を産んでいればよかったかもしれないが、これからは自分も狩られる立場だという事を思い知らせてやる。
黄金と漆黒の3対の翼を展開し、力を開放する。これからはルシファーとして地球を、そしてアールヴヘイムと惑星マザーを護る守護神となる。
「未だに宇宙に蔓延るお前達オメガに、地球を渡したりなんかしない。オレがいる限り、絶対に。オレはルシファー。お前達の天敵だッ!」
オレ達の戦いは、まだまだ始まったばかりだ。
―完―




