187.一難去ってまた一難
数日は休息日にしようと思っていたのに、オレはガブリエル大統領から呼び出されてホワイトハウスの庭に来ている。また演説の護衛兼、記者会見に対応しなければならないとの事。
オレを半殺しにした水を操るマンタオメガ『ワタツミ』による水害への対応、数日記者会見にも応じなかった件等、色々と炎上しているらしい。昏睡状態の時にそんな事があったとは知らなかった。
とは言え、こっちが死闘を繰り広げていた事を知らずに言いたい事ばかり言っているマスコミに腹が立たなくもないが、知る権利があるのも確かな訳で。
ちなみにルシファー形態は今回留守番。アレを公表するのはもう少し先にしたいとガブリエル大統領に言われたのでその通りにする。政治に利用するつもりなのだろうが、お義父さんに逆らえるはずがない。
「あまりにも激しいオメガの侵略に後手に回ってしまったのは確かです。マイアミの襲撃、そしてアールヴヘイムと惑星マザーが立て続けに襲撃されました。多くの犠牲が出てしまいましたが、全ての作戦で撃退に成功ッ! 今回も我々が勝利しました!」
拳を握り締め、掲げるガブリエル大統領。演説中も手振りが激しい。が、そのおかげで自然に引き込まれてしまい、気が付けば主導権を奪われていると錯覚してしまう。
その後もガブリエル大統領に圧倒される記者を眺めながら護衛していたが、今回は特に襲撃事件等はなし。無事に演説が終了して、その後記者会見に移る。忙しいから両方共同時に同じ場所でやる様だ。
今回もオレは応答する側として、前の時と同じくガブリエル大統領の隣に座って構える。
「緊張しているのか?」
悪そうな顔でニヤニヤと問いかけてくるガブリエル大統領。
「えぇ。オメガよりも記者の方が苦手で」
「ハハハ。会見の際にそれを言えば間違いなく盛り上がるはずだ」
笑ってオレの肩をバシバシと叩く彼からしてみれば、記者会見なんて慣れたものだろうが、オレからしてみればまだ人生で二度目だ。慣れるはずもない。一度経験したおかげで前回程緊張している訳ではないが、それでも落ち着かないのは仕方ないだろう。
そうして会見が始まった。
今後の方針やオートマタの切り札『ダモクレスの剣』をすぐに使わなかった事に対する炎上への回答はガブリエル大統領が応えてくれる。話を聞きつつ、辺りを見回すが、スナイパーは見当たらない。どうやら今回も襲撃はなさそうだ。
「マイアミでは未だに水害による被害がありますが、そちらはどう対応なさるつもりですか?」
記者からの質問が飛ぶ。後から聞いたが、マイアミビーチだけではなく、住宅街や空港付近まで未だに水浸しになっているらしい。津波が起きたからと言って、全ての海水が海に戻る訳ではないのだ。標高が少しでも低ければ水は残り続ける。
元々波も穏やかで、津波による被害なんて想定していない地域。そこに大規模なものが発生したのだ。対策も対応策も簡単に考えられるものではない。
「そちらについてはオートマタと協力して対策を練る予定だ」
と回答するガブリエル大統領にアイコンタクトを送ると、すぐに気付いてくれた。立ち上がり、彼の耳元でマイクが音を拾わない様に囁く。
「その件、今のオレなら一日で解決出来ますよ」
「本当か?」
「ええ。それにルシファーの宣伝も同時に出来ます」
ワタツミの因子を取り込み、水を操る能力を得たオレからしてみれば、水害の対応なんてお茶の子さいさいだ。サイコキネシスでも出来なくはないが、液体をサイコキネシスで持ち上げるのって意外と面倒だからやりたくない。それにまだ温存しようとしていたルシファー形態を政治利用したいというのであれば、喜んで協力しよう。
「それは良い考えだ」
二ヤリと笑い、映画に出てくるギャングやマフィアのボスみたいな顔をする彼。それを見た記者がビビッているのが感じ取れたが、間近にいるオレの気持ちにもなってほしい。それにこの人がいずれ義理の父親になるかもしれないんだぞ。軍に入る前のオレだったら確実にちびっている。
「先程の水害への対応だが、近日中に全て対応予定だ。詳細や日程については後日発表する」
と宣言したが、オレの耳打ちで発言を訂正すると、質問の標的がこちらになるのは必然。記者の視線が一斉にこちらへと向けられる。
「ウルシハ団長に質問です。我々はアールヴヘイムや惑星マザーへ襲撃されたとしてもそれを知る術がありません。実際、今回も本当に襲撃されたのかどうかも疑わしいです。そちらについてどうお思いで?」
女性の記者からの質問。心底どうでもいい内容に無視したかったが、ガブリエル大統領の顔に泥を塗る訳にはいかない。が、正直腹が立ったので返り討ちにはしようと思う。
「えー・・・別に何とも思わないです」
「・・・はい?」
こんな回答が来るとは思っていなかったのか、戸惑う記者の女性。
「そもそも軍事作戦の内容を一般の方に知らせる事なんてあり得ない話です。確かに前回はオメガの資料を一部公開しましたが、それは地球が襲撃を受けていると人々に自覚してもらいたかっただけであって、全ての情報および作戦内容を公開するつもりは毛頭ありません」
そんな当たり前の事をいちいち言わないと分からないなら記者なんてやめればいいのに、と内心バカにしていると、今の発言が頭に来たのか女性記者がこめかみに青筋を立てて再び質問してきた。
「ですが我々には知る権利があります! それに異世界人や宇宙人との交流を連合だけでとどめるのは横暴だとは思いませんか!?」
同調して頷く記者達。もう少し強く言わないと分からないか・・・。
それとすぐに怒る女性って女として見れないな。イザベラも怒りっぽいとはいえ、なんか違うんだよな・・・。気品か? ・・・いや、怒り方か。自分の為に怒るか他人の為に怒るかの違いだろう。イザベラは案外他人の為に怒るタイプだからなぁ。男に絡まれたらムカついてぶん殴りそうだけど。
「前回も御答えしましたが、オメガは人を捕食するのは情報収集の為だと考えられています。なので安易に情報を公開する様な真似はしません。それと勘違いしている様ですが、アールヴは自然と調和している種族なので、自然破壊を何とも思わない地球人の事を良く思うはずがありません。それとオートマタは論理的でかつ合理主義なので、一般人と交流したいとは微塵も思っていません。最後に――」
強く記者を睨みつけて言葉を続ける。
「そんなに知りたいのであれば、軍に入隊すれば良いのでは?」
顔を真っ赤にして唇を噛み締める記者。こんな人をアールヴに会わせるのも、アールヴヘイムの地に立つのもさせる訳がない。コマンダーに会わせるぐらいならいいが、正直オレよりも怒らせる結果になるだろう。
それに記者として売れたいだけなら勝手にしてくれって思うし、ホントに知りたいだけなら入隊する覚悟ぐらい見せろよとも思ってしまう。
無関心なのか見下しているのか、自分でも定かではないが、視線を送ると記者はそれ以上何も言う事なく座る。身の程を弁えた様に見えるが、多分そうではないだろう。粗を探したくて小さい脳みそを回転させて次の質問を考えていると思うけど、正直心底どうでもいい。




