185.心の傷
夜。みんなが眠りについた後、オレは部屋を抜け出して宇宙を漂っていた。ちょうど日本の真上あたり、アメリカが夜に対してこちらは真昼間だから太陽の日差しが眩しい。
翼を広げて、日の光を全身で浴びる。光合成ではないが、これだけでかなりの量のエネルギーを充填できる。飲まず食わずでも死なない便利な体になったという訳だ。
――今のオレなら太陽の中に入れる気がするが、それは怖いからまた今度にしよう。
無限と言っても過言ではない程のエネルギーを蓄えられるこの体。蓄えられる時にエネルギーを補充しておきたいところだが、ふと通信装置が鳴り響く。
『ケイジ? 今どこにいるんだ?』
クーナさんだ。声色から、少し慌てている様子が窺える。
「宇宙ですけど、どうしました?」
『宇宙? ああ、いや、ミカエラがちょっと大変な事になっていてな。すぐに戻ってきてくれ』
「分かりました」
ミカエラが? クーナさんが慌てる程のトラブルが起きたのかもしれないと思い、すぐに部屋にテレポートして戻ると、泣きじゃくるミカエラの姿があった。戸惑いながらもみんなが宥めようとするも、一切効果がない。
何が彼女を泣かせたのだろうかと考えたいところだが、とりあえず今は彼女の涙を止めなければ。
「ミカエラ?」
「ケイジッ! どこに行ってたの・・・?」
原因は分からないが、すぐに泣き止んだ彼女はオレに抱き着いて離れようとしない。
「ちょっと宇宙で日に当たってたんだけど・・・何かあった?」
「ううん。起きたらケイジがいないから驚いただけ」
・・・驚いただけとは言えないレベルの取り乱し方をしていたけど?
自分がどれだけ泣き喚いていたのか理解していないのか、彼女は気にした素振りも見せずにオレの胸に顔を埋めている。
「ケイジ」
「ん?」
「愛してる」
「・・・オレも愛してるよ」
いつもと変わらない様に見えるが、やはりどこか可笑しい気がする。今はオレの背に回した腕を強く締め、体温を確かめている。
彼女が満足し、眠りにつくまで横になって頭を撫で続けていると、十数分後には寝息が聞こえてきた。少しでも動けばすぐに目を覚ましそうだからそのままの状態でいると、クーナさんが神妙な顔をしているのが見えた。
「もしかしたらミカエラは、心に傷を負ったのかもしれない」
「心に傷?」
「ああ。新兵がよくなるのだが、初めての戦場や大切な人の死を見た人間がこうやって取り乱すのを何度か見た事がある」
クーナさんの発言で漸くミカエラがこうなった原因が分かった。
『急性ストレス障害』。強いストレスや精神的ショックを受けた者がトラウマになって、フラッシュバックを見たり不安になったりする症状だ。
強いストレス、それは間違いなくオレが殺されかけたのを二度も見た事が原因だろう。そのせいで彼女はオレが死んでいなくなると思い、不安になってしまったと考えれば辻褄が合う。
――オレが弱かったせいで彼女を不安にさせてしまった。
そう思うと胸が張り裂けそうな程苦しくなる。だが、オリハルコンの力を吸収したオレなら、これから先は弱いせいで不安にさせる事は絶対にないだろう。
「ごめんな・・・」
彼女の頭に額をくっつけて言う。すると先程の件で目を覚ましていたイザベラ達とクーナさんがオレやミカエラを挟む様に抱き着く。ミカエラを中心に、みんなで眠りにつく。
複数の寝息が聞こえる中、オレも眠ろうと目を閉じるが、一向に眠れない。この体に睡眠が必要ない事は先程気付いた。だから宇宙でエネルギーの補充をしていたのだが、ミカエラの為を思えばずっとそばにいるべきだ。目が覚めた時に隣にいなければまた取り乱すかもしれないし。
自然に眠れないのなら動く事なく時間を潰すしかない。目を瞑ったまま、クララが得意とする千里眼を真似して視界だけ宇宙遊泳をする。地球を出て、宇宙を光を超える速度で惑星マザーまで辿り着く。ざっと銀河10個分ってところか。
それまでの道のりにオメガは存在しなかった。試しにポータルを通って別の宇宙空間に移動してみる。地球も惑星マザーもアールヴヘイムもない宇宙空間を捜索してみるが、やはりオメガは見当たらない。
――うーん・・・。やっぱアジトを見付けるのは難しいか・・・。
野良クラーケンでもいれば尾行できるが、そう簡単に見つけられるならコマンダーが見付けている。八方ふさがりの状況。後手に回るしかないのかと嘆きたくなるが、次の手は考えている。
――母艦と同サイズのクラーケン。怪獣オメガよりもはるかに巨大なそれを倒せば、オメガにとって大打撃のはず。
今のオレなら倒せるはず。クラーケンの数を減らせば、その分襲撃も減るかもしれない。地上のオメガはみんなに任せる事になるが、いざとなれば救援に駆け付ければいいだけの話。
今後はオメガを撃退するのではなく、その戦力を削ぐ事に全力を注ぐ。この力を最大限活かすにはそうした方が良いだろう。




