184.勝鬨
サタンが再生しないのを確認してから剣を手放すと、光の粒子となってオレの胸の中に戻っていく。その後みんなのいる元へと戻ったが、歓迎ムードではなく、全員が唖然としているではないか。もっと手厚く歓迎されると思っていたのに。
「えっと・・・ただいま・・・?」
とりあえず何か言わなければと思って口にした言葉。もっと気の利いた事を言えないのかと自分を殴りたくなる。
まあ、みんなからしてみれば今のオレは見た目も何もかも違う訳で、戸惑ってしまうのも無理はない。
「本当にケイジ、なのか?」
「クーナさんまで・・・ひどい・・・」
「す、すまない・・・」
慌てて謝罪する彼女を通り過ぎ、イザベラが目の前に来る。怒っている様ではないが、笑顔で迎え入れてくれる訳でもなさそうだ。どんな感情を抱いているのだろうかと思っていたら、無言で抱き締められた。
「心配したじゃないか・・・」
「ぁ・・・ごめん・・・」
前にファーストコンタクトで歳の離れた弟を失ったと聞いたが、その辛さを思い出したのか彼女の手は震えていた。彼女を抱き締め返すのと同時に翼で包み込み、生命魔法を吹き込んで体の傷を癒す。黄金の光が彼女を含め、みんなの怪我をも治療していく。生命魔法が放つ光は人肌程度の暖かさがあり、心地よさのおかげで心をも静める。
「これは・・・魔法、か・・・?」
クーナさんが生命魔法に疑問を抱き、光を凝視している。精霊魔法に遠からず近いが、本質が異なる為不思議な感じがするのだろう。
「落ち着いた?」
「・・・ああ。随分と色々出来るようになったみたいじゃないか?」
「まあね。人間からかなり遠ざかったけど」
『確かに』
ぼやくコマンダーを無視して翼をパタパタと動かすと、イザベラの好奇心をくすぐったのか優しく翼を撫でられる。
「く、くすぐったい」
「なんだい? ちゃんと触られる感覚もあるんだね」
その言葉に戦乙女部隊の4人が興味を示し、オレの6枚の翼が蹂躙される。
「フサフサであります!」
「これに包まれて寝たら気持ち良さそ~」
「はっ!? その考えはなかったッス!」
「至高の翼。良き・・・」
4人の言葉に他のみんなも触りたがるが、収拾がつかなくなりそうなので一旦翼をしまう。力の循環をやめると、体の中に引っ込んでいくのを感じる。どうやら自由に出し入れできる様だ。まあ、出しっぱなしになってしまうと私生活で困ってしまうからありがたい。
「あぁ・・・」
もっと触っていたかったのか、物惜しそうな声が聞こえたが、心を鬼にする。一先ずは地球に帰還したいからだ。みんなの怪我を治したとはいえ、疲労までもが消える訳ではない。風呂にでも入って心身の疲れを癒す方が先決だろう。
翼以外にも力を最小限まで抑え込む事で、髪の色も元通りになった。こちらは最悪ヤルダバオトの能力の『擬態』を使って変身するだけでなんとかなるが、使わずに済むのならそれに越したことはない。
「帰ろうか」
そう言ってイザベラを放し、転送しようとしたところ、ふとミカエラに手を握られた。握り返し、彼女を抱いて転送装置で母艦へと帰還する。
漸く帰れる、とどこか安心感を抱く。戦うだけの日々が続いているばかりいると、無事に帰還できるだけで喜びを感じてしまう。今は死亡率は低いから騎士団に犠牲者がいないのが当たり前になっているが、昔の生存率の低さを知っているからだ。
そしてオレが生き延びているのも、ただ運が良かっただけに過ぎないのだから。今回も含めて、何度死を覚悟した事か・・・。
「ケイジ?」
母艦に着くと、オレの感情を感じ取ったのか、ミカエラに名前を呼ばれる。すぐに顔に出すのをやめて彼女に額にキスする。それだけで笑顔になって胸に顔を埋めるのを見て、こちらまで笑顔になってしまう。このままずっとそうしていたいところだが、他のみんなも羨ましそうに見ているから続きはまた後で。
『お疲れ様でした。みなさん』
部屋に戻ろうとしたところ、マザーが出迎えてくれた。失っていた左腕はアダマンタイトで補填したのか、黒い腕がそこにはあった。ちょっと前までのオレとお揃いだ。
『それと、貴方も随分と変わりましたね?』
「あー・・・ごめんなマザー。オリハルコンの事・・・」
『構いません。全て、かの者の手引きだと理解しています。その点で言えば貴方も被害者の一人とですから』
マザーの言わんとしたい事は良く分からないが、オレらの会話を聞いてコマンダーが慌てる。
『オリハルコンがどうしたというのだ!?』
あれの行方をまだ知らないらしく、コマンダーが掴み掛かってきた。激しく揺さぶろうとしてくるも、今のオレでは微動だにしない。
「悪い・・・。全部吸収しちゃった・・・」
『・・・・・・・・・・・・は?』
固まるコマンダーに追い打ちをする。
「周りにあったアダマンタイトも全部吸収しちゃった」
『・・・・・・・・・・・・殺す』
UFOキャッチャーみたいなアームが丸ノコやドリルの形状に変形させて襲い掛かってくるコマンダー。そんな機能もあったんだと感心しつつ、されるがままその攻撃を受け入れると――
ガキンッ――それらがオレに接触した瞬間、砕け散った。
「ふっ」
つい鼻で笑ってしまうと、怒り狂ったコマンダーがオレの頭を掴んでくる。が、微塵の痛みも感じない。
『オリハルコンもアダマンタイトもどれだけ貴重なものなのか理解しているのか!? それをあろう事か独り占めするなど! 解剖してその体から引きずり出してやる!』
ルカやアンジェ達が慌ててコマンダーを引き剥がそうとするが、それよりも早くマザーがコマンダーの頭に拳を突き落とす。
『いい加減にしなさい。彼も被害者だと言ったはずです』
『で、ですが――』
『ですがではありません! 全く、彼らには休息が必要なのですから、私達は行きますよ』
そう言ってマザーに引きずられて連行されるコマンダー。さすがマザー。母は強し。
マザーの気遣いを無駄にする訳にもいかないので、オレ達は部屋に戻って各々入浴の準備をする。ちなみにオレの部屋の風呂は増築を重ねて大浴場と化している。10人で入れる程に。ルカだけは気を遣って自室の風呂を使っている。
オレも服を脱いで視線を下に向けると、絶句してしまう事態になった。
「毛が・・・ない・・・?」
息子の周りにあった雑木林がハゲ山になっていた。腕を上げて脇を見てみると、そこにも毛はない。鏡を見て、鼻の中をみてもやはりなかった。もちろん、腕や足にも。
つまり髪の毛と眉毛、まつ毛以外の毛がサヨナラして旅立っていたのだ。まあ、髪さえあればいいか・・・。
「ギャハハ! なんだい坊や! ツルツルじゃないか!」
そう思っていたのに先に風呂に入っていたイザベラに笑われた。正直ムカついたからこの借りはベッドの上で返すとしよう。
ルシファー形態の画像追加しました。




