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黎明を灯す光 ~神に至るまでの軌跡~  作者: Mr.Z


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179.仇討ち

 メアリーを庇った際に出来た怪我のせいで、しばらく動けずにいたが、時間が経ったおかげで大分楽になった。


「くっ」


 とは言え、少し動いただけで激痛が走る。肋骨が折れているせいだろう。だが、気を失っている訳ではないのだから、気合と根性さえあれば動ける。


 ユグドラシルの枝を杖代わりにして立ち上がり、付近にケイジがいないか確認するが見当たらない。先程まで聞こえていた戦闘音が止んだから、おそらく決着がついたはず。


「ケイジなら大丈夫・・・」


 そう自分に言い聞かせ、気を失っている騎士団のメンバーを転送装置で母艦に送り届ける。向こうに着けば、アンドロイドが気付いてヒーリングポッドまで運んでくれるだろう。


 順にメアリー、アニー、ケイシー、ルカ、メイシャ、そしてバラバラになり、胸から下を失ったマキナも一応送り届けようとしたその時――


「一撃でこの有り様かよ・・・。とんだ化け物だな・・・」


 喋ったのだ。普通の人間であれば、間違いなく死んでいるであろう状態でも、機械兵になったおかげで生き残れた様だ。


「生きていたんだな」


「腕も動かせない死にぞこないだけどな・・・」


 生きているのなら手伝ってもらおうかとも思ったが、どうやら無理そうだ。彼も送るしかない。


「気ぃ付けろよ・・・。いくら団長さんでも、アレに勝つの無理だろうからな・・・」


 言われなくても分かっている。ベリアルとの戦闘でも経験した無力感、絶望感、絶対的な存在を相手にした恐怖に近い何か。それがあの新型にもあった。


 それでもケイジが戦っている以上、尻込みする暇はない。マキナを送り届け、最後にイザベラもそうしようとしたところで、彼女が目覚めている事に気が付いた。


「起きていたのか?」


「今さっき起きたところさ。坊やを庇っただけだから、直撃をもらった連中よりかは幾分かはマシってぐらいだけど」


 余裕の表情を見せるが、両肩が外れている様だ。腕をぶらぶらとさせている彼女の背後に回り、外れた肩を戻す。


「ぐっ! あぁ、これでまともに動ける」


 痛みはまだあるはずだが、イザベラは両肩を回して状態を確認していた。私よりも体の調子が良さそうだ。これなら彼女を連れて行っても問題はないだろう。


 たった2人で出来る事なんてたかが知れているが、ここで立ち止まっていても意味は無い。イザベラと共に、戦闘の痕跡が残っている大穴の方へ向かうと、ヤツが見えた。


 地球の人間が生み出した空想上の生物。『悪魔』に似たその醜悪な見た目は悍ましく、恐怖心を搔き立ててくる。そんなオメガの傍らには、膝をついて動こうとしないミカエラの姿が。


 動かない彼女に止めを刺そうとしているらしく、腕を振りかぶっているのが見えた瞬間、私は全力で走った。呼吸が出来なくなる程の痛みを我慢し、ミカエラを抱いて飛び退く。辛うじて新型オメガの一撃を回避する。


「大丈夫かミカエラ!?」


 助けた彼女に、目立った外傷はないが、涙を流したまま大穴を見つめて動こうとしない。洗脳の能力かと思ったが、どうやら違う様だ。彼女が震えた声で呟く。


「殺して・・・ケイジがいない世界なんていらない・・・」


 絶望。全てがどうでもよくなってしまった彼女。その理由は今のだけで十分に理解した。


「ケイジが・・・死んだ・・・?」


 彼女だけではなく、私も膝から崩れ落ちそうになる。彼がいない世界を想像しただけで吐き気を催してしまう。それならいっそのこと、私も一緒にここで死んでしまおうかという考えが脳裏によぎる。だが――


 ――ケイジが命懸けで守った人を、世界をこのまま見捨ててしまっていいのだろうか?


 ――彼の功績を全て無駄にしてしまうのではないだろうか?


 ――無駄死になんて言われて、彼は報われるだろうか?


 ケイジがいない世界を生きるのはとてもじゃないが耐えられない。だが、それ以上に彼が報われない方が心苦しい。


「クーナなら分かるでしょ? ケイジがいない世界なんて存在する価値なんてない・・・」


「ミカエラ・・・私もケイジがいない世界で生きていくぐらいなら死を選ぶ。だけど――」


 私は新型オメガを睨む。体の奥底から憎しみが込み上げてくる。例え惨い殺し方をしたとしても、心が晴れない事は分かっている。最愛の人を殺した存在が生きているのが悔しくてたまらない。


 だが、あれを倒すには私だけでは成し遂げられない。ミカエラの力も必要だ。何としてでも彼女を奮い立たせなければ。


「仇討ちもせずに死ぬのか? ケイジを殺したあのオメガが生きている事を許せるのか?」


「それは・・・でも・・・」


「ケイジが守ろうとしたもの全てを投げ捨てるのか?」


「だって・・・彼はもう・・・」


「ケイジの死を、無駄にしてしまうつもりか?」


「・・・」


 ミカエラを説得しなければと思ったが、彼女は動かない。時間が解決してくれるかもしれないと言いたい所だが、今はその時間がない。


 これ以上彼女を説得するよりも、とりあえず母艦に送り届けようとしたその時、遅れて着いたイザベラがミカエラの胸倉を掴んで持ち上げた。


「いい加減にしな! 坊やが命懸けで守った命を粗末にして許されると思ってんのかい!? 辛くても・・・どんなに辛くても坊やの為を想うならシャキッとしな!」


「ケイジの為・・・?」


 イザベラの真っすぐな言葉が届いたのか、ミカエラの瞳に光が宿った気がした。事情は大まかにしか知らないが、かつてイザベラにはケイジと同い年の弟がおり、オメガに殺されたと聞いた事がある。人を失う辛さを知っているからこそ、彼女の言葉には芯があった。


「小娘みたいにピーピー泣いてないで、最後まで坊やを信じな。じゃなきゃ、坊やに相応しい女とは呼べないよ」


 胸倉を掴んでいた手をそう言って離すと、ミカエラは漸く自分の足で立つのに成功する。一番効いたのは、おそらく――


「――ケイジに一番相応しい女は・・・私でいたい」


 ケイジに相応しくないの言葉だろう。傷付いた彼女に追い打ちをかける様な事を言って奮い立たせるとは、一歩間違えれば傷を抉るだけだが、そこはさすがイザベラというべきか。


 闘志を宿したミカエラとイザベラと3人で新型オメガと対峙する。ケイジに負わされたのか、左腕が使い物にならないところを見ると、勝算はありそうだ。


 決死の戦いが始まる。


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