171.釣り針
アンカーを針の形状にしたオレは、マザーに指示して鎖のロックを解除してもらう。その瞬間、惑星マザーの重力に従ってアンカーが自由落下する。
同時に、オレはジャガーノートを展開し、アンカーと手足のアダマンタイトとを結合させてしがみつく。高速で落下している中、ワームオメガの頭部? がアンカーを掠める。
逃げ惑う一般兵を叩き潰そうと、頭を振り回しているのだが、いくら巨大とはいえ鈍重なその動きに潰される程、適合者はどんくさくない。潰されない様にと走り回る兵士達が蟻みたいで滑稽だったが、笑ったら怒られるだろう。
それにワームオメガの気を引こうと、重装兵と機械兵が射撃しているが、その巨躯からしたら豆鉄砲ぐらいにしか思っていないのかもしれない。攻撃されても気にする様子を全く見せない事に、イザベラが苛立っているのが遠めに見ても分かった。だが、こちらに注意が向かないのは助かる。
ワームオメガの首下200メートル程の高さで、オレはマザーに指示し、母艦を前進させて下方向から横方向にアンカーの勢いを変える。孤を描きながらゆっくりとワームオメガの胴体に向かって方向へ加速していくのと同時にアンカーの先端をワームオメガへ向け、そして――
グジュリ――と柔らかいその体に巨大な針が突き刺さる。痛みのせいでのたうち回るが、まだまだ終わりじゃない。突き刺した針を次は釣り針状にし、先端に返しを付ける。これで持ち上げたとしても簡単には引き抜けないはず。
オレは釣り針から鎖まで退避し、マザーに通信を繋げる。
「マザー、引き上げてくれ」
その言葉と同時にアンカーの鎖が巻かれ、ワームオメガの体が持ち上げられる。どれだけの重さか見当もつかないが、コイツよりも大きいクラーケン用の兵器なんだ。それだけの出力と耐久力があっても不思議ではない。
釣り針に掛かった魚みたいに体を左右に振って抵抗するが、もはや無駄な抵抗でしかなく、その姿はあまりにも滑稽だった。このまま宇宙に放り投げても構わないが、戻ってきても面倒なので、しっかりと止めを刺す。
ワームオメガの体が全て穴から出たところで、オレは上空にある母艦を凝視する。そしてポータルを開いて母艦の甲板に瞬間移動。ジャガーノート解除し、すぐさま飛び降りる。
あの巨大なワームオメガを殺すには攻撃力よりも攻撃範囲が求められる。体はそんなに固くないからだ。ではその攻撃範囲をどうやって確保するかというと――
ジャガーノートのアダマンタイト。それを全て使って剣の形を成す。
――そう、全てのアダマンタイトを使って巨大な剣を作るのだ。
長さ150メートルの剣。幅は50センチメートル程。オレの手持ちのアダマンタイトを使って作り出せる最大サイズがそれだった。その重量はもはや腕力だけで持ち上げられるものではなく、ただ重力に従って落ちてしまうだけだろう。
その対策として、通常サイズの剣を頭上で構え、振り下ろす。その最中に剣を巨大化させるのだ。小惑星をも砕きかねない重量兵器と化したその剣を手放さない様に強く握り締め、ワームオメガの顔面に叩き込む。柔らかい体表でそれを防ぐのはおろか、抵抗すら感じさせない。そのままの勢いを保ったまま、胴体をも斬り裂いていく。
ウナギを捌く様に、ワームオメガの体を開き、体の内側を露わにするが、筋肉が反応しているのか、ずっとのたうち回っている。とはいえ体を裏返され、緑色の体液をまき散らしている為動かなくなるのも時間の問題だろう。
邪魔な死骸はそのまま離れた位置に運んでもらい、穴を開通させる。コマンダーの救援に向かおうとするも、未だに動いているワームオメガが気になってしまう。
「あれ、放っておいて大丈夫だよな・・・?」
なんか元気な気がする、という疑問はオレ以外も持っている様だ。
『アタシ達で仕留めておくから坊やは先に行きな』
『汚ぇから近付きたくねぇな』
イザベラ達重装兵とマキナ達機械兵が再度集中砲火を浴びせて仕留めてくれる様だ。まあ、吊るされている以上、特に危険もないから問題ないはず。
「じゃあここはイザベラ達に任せるよ」
さすがにあれが暴れ回る状況であれば全員で対処すべきだろうが、そうでないなら人数を割くのは得策ではない。ワームオメガは彼女達に任せて、オレは再びミカエラに抱きかかえられたまま穴を降りるとしよう。
ミカエラを呼び寄せて、作戦を実行しようとしたその時、穴から高速で何かが飛び出してきた。例の新型オメガかと瞬時に警戒態勢をとるが、どうやら違う様だ。何故ならそれは――
「守護者・・・か?」
守護者、もといコマンダーだったからだ。とは言えそれがホントに守護者なのか自信がない。何故なら、その体は本来青みがかった銀色のオリハルコンはずなのに、真っ白になっていたからだ。これでは本物の彫刻の様だ。
すぐに駆け寄り、その体を抱き上げると左腕がなく、全身が傷だらけだという事に気が付く。脱力しており、気絶しているのかと疑うが、力なく腕を上げてオレの胸倉を掴む。その手はあまりにも弱々しい。
そして口を小さく動かして掠れた声を発する。
『逃げ、ろ・・・』
完全体のベリアルをも容易に葬った守護者を満身創痍にする存在。それが今、この穴の中にいる。
ベリアルはアダマンタイトを完璧なまでに対策した存在だ。当時はその圧倒的なまでの防御力を突破できずに苦戦したのは今でも鮮明に覚えている。
もし、もしもの話だが、オリハルコンである守護者と刀を対策した存在が造られたとしたら、果たしてオレ達人類、そしてオートマタやアールヴは、勝つ事が出来るのだろうか?
守護者を追いかけて来たのか、巨大な穴からそれは姿を現す。
ゆっくりと振り返り、視線を向けると、そこには『悪魔』がいた――




