170.災害級オメガ ヨルムンガンド
巨大なワームのオメガ。それの相手をオレがし、コマンダーには最後の新型の相手をしてもらうのが最善と判断。守護者の体に勝てる相手はそういないはずだからな。
「コマンダー、3体目の新型がどこにいるか分かるか?」
『穴の中だ。オリハルコンのすぐ手前まで来ている』
思っているよりもかなりヤバいかもしれない。この深い穴の奥、そこに新型が既に侵入しており、オリハルコンを狙っているという状況。猶予はそれ程残されていないかもしれない。
「ならすぐに行くんだ。コイツはオレが相手するから」
『・・・頼んだぞ、ケイジ』
「任せとけよ相棒」
珍しく名前で呼んでくるコマンダーとコツンとグータッチし、お互いに己の職務を全うする。コマンダーはワームオメガを刀で切り刻み、無理矢理体内に入り込む。どうやら他の入り口がないのか、体内を通り抜けようとしている様だ。
緑色の血液で汚れていくオリハルコンの体を見て、オレは――
「オレこっちで良かった・・・」
安堵していた。もし最後の新型を相手すると言っていたら、オレがあれをやらなければいけなかったと思ったらゾッとする。流石に虫の体液を浴びるのは避けたい。その状態をミカエラ達に見られたら3日は触れる事すら許してくれないと思う。
コマンダーには内心悪いと思いつつ、このワームオメガを仕留める準備を始める。
既に穴を掘り終えたのか、ワームオメガは穴に潜ろうとせず、地表に体を出したままでいる。おそらくだが、その体で穴を塞いでいるのだろう。このままでは倒してもコマンダーの救援には行けなくなってしまう。
「まずはアレを穴から引きずり出さないと」
とは言ってもその方法はもう思いついている。そして仕留める方法も。
この戦場には今、頼りになるものがある。それを使えば、アレを一本釣りするのは難しくない。オレは通信機を起動し、ある人に連絡を入れる。
「マザー、アンカーを下ろしてくれ」
オレが普段、母艦と呼んでいる存在。ノアの箱舟がこの戦場にいるのだ。あのワームオメガにアンカーをブッ刺して、上昇するだけで何とかなるという算段だ。
母艦がワームオメガの真上まで移動して4つの返しのトゲが付いたアンカー、錨を下ろす。本来、あの船に錨なんてものは必要ない。何故そんなものがあるのかというと、対クラーケン用の兵器らしい。クラーケンがポータルを通って逃げるのを防ぐ為に刺すと聞いた事がある。
特に特別な機械や機構が付いている訳ではなく、ただ頑丈なだけの鎖だが、それが最も有用なのは偶然だろう。だが、この偶然を使わないなんて愚策。使えるものは何でも使う。
地表に出している体を前後左右に動かしつつ、穴を掘った際に飲み込んだ岩を吐き出して一般兵を攻撃しているワームオメガの上にあるアンカーまで、ミカエラに抱き着いてサイコキネシスによる飛行送ってもらう。
「重くない?」
「私だって適合者の手術を受けているのよ? ケイジの体重なら片手で持ち上げられるわ。それに前にもこうして抱っこしてあげたでしょ?」
彼女の言う通り、今は向かい合って抱き着いているというか、脇に腕を入れられて抱き上げられている状態だ。まあ、抱っこと言えなくもない。恥ずかしいから抱っこって言わないでほしいけど。
「そうだけどさ・・・」
ふと何とか一矢報いようと、彼女に何か出来ないかと考えると、宇宙空間でオレしか出来ない事を思い出す。オレはマスクを外し、メジェドの因子を活性化させて呼吸をする。
「どうしたのケイジ?」
マスクを外した事に疑問を抱いている彼女に答えず、そのまま彼女の首筋に鼻を寄せる。
クンカクンカ――
「ッ!? ちょっとケイジ!」
スンスンと鼻を鳴らし、彼女の匂いを嗅ぐ。うん、いつもの良い匂いだ。
「や、やめなさい! 怒るわよ!?」
もっと堪能したいところだが、ここで落とされたりしたらもっと恥ずかしい目に遭うだろう。プリプリと怒る彼女の首筋から顔を離す。
「もう・・・夜になったら好きなだけしていいから・・・」
「・・・めっちゃやる気出てきた」
「もう!」
男ってバカだよなぁと思いつつ、アンカーに足を下ろす。遠目からではなく、近くでみると高層ビル並みのサイズのアンカーだと気が付く。そしてそこから真下にいるワームオメガを見据える。
このままアンカーを下ろして、ワームオメガに突き刺せばいいだけの作業。難しいと思われるだろうが、幸いな事にこのアンカーはアダマンタイト製だ。つまり――
ベリアルの因子『操作』を使ってアンカーの形状を錨から槍、というより巨大な針に変える。これだけ巨大でも容易に形状変化させる事が出来るのは、『操作』のおかげだろう。アダマンタイトは人の意思、というより思考を読んで形を変える事が出来るが、完璧な想像をした上で行わないとグチャグチャになってしまう。
もしアダマンタイトを剣の形にしたいと考えても、柄や刃の形状、それぞれの長さ、密度等、細かく指定しないとスカスカになってしまうのだ。その為、コマンダーが行っていた処理、指定した形状にのみ変化する様にしておかなければ、実戦では全く使い物にならない。
だが、この『操作』はそういった細かい部分を補正してくれる力があり、形状を変えたいと思った時にしか変わらないというてんこ盛りだ。
もしかしたら、ホントの意味でこの力が必要になる場面があるのかもしれない――
そう思わずにいられない好都合な能力だ。ジャガーノートや今回のこのアンカーとは別に、これが求められる場面なんて想像もできないが。




