169.星喰い
オレの偽物を気取ったオメガの死骸を飛び越えて、ミカエラが胸に飛び込んでくる。
「ケイジッ! 良かった・・・」
「ごめん、いつも心配ばかりかけて」
「ううん、いいの・・・生きてさえいてくれたら・・・」
いつも死に掛けてばかりのオレ。もし逆の立場なら、心配せずにはいられない。前もそれで怒られたのを反省していない訳ではないが、最善と思った道を進もうとしているのに全くと言う程上手くいかない。・・・まあ、それも言い訳に過ぎない。
バイザーを付けているせいで表情は分からないが、涙を流しているのだけは分かる。オレがそうさせてしまった事に罪悪感で胸が苦しくなる。
このままずっと抱き締め合っていたいところだが、近くにはまだトウテツの群れだっている。それにコマンダーが守護者の体で新型と戦っているはずだ。付近にはいなかったから、相当離れた位置にいるのだろう。
「ミカエラ、コマンダーと新型がどこにいるか分かる?」
「・・・また行くの?」
「ああ、行かないと。それに、サボってたらコマンダーに何言われるか分からないから」
「ふふ。そうね」
オレの腕から離れ、彼女はバイザーの下で微笑む。ホントはこのままベッドに直行したいが、欲望に負けない様に視線を戦場に移す。一般兵と機械兵が相手をしているトウテツの群れはもう間もなく殲滅されるだろう。
――新型の相手とコマンダーの救援に行きたいところだが、どこにいるんだ・・・。
『兄。クロなら地下にいる』
ふとクララから通信が入る。
「地下?」
『ん。今視てる』
クララ固有の能力『千里眼』。クトゥルフとニュクスの因子を組み合わせて初めて使えるらしいが、異能型と相性の悪いオレでは真似出来ない芸当だ。
その力を使ってクロ、コマンダーを『視ている』様だが、この惑星に地下があるなんて初めて聞いた。オリハルコンは地下深くに眠っていると聞いた事があるから、もしかしたらオメガが掘り進めているのかもしれない。
残る新型2種の内1体は穴を掘るのに特化したオメガなのか? もしかしたらモグラ型なのかもしれない。
「クララ、どこに行けばいい?」
『真っすぐ。すぐにおっきい穴がある』
穴掘りオメガか・・・やはり初めてのタイプだ。クララの言う通り、トウテツの群れに背を向けて進むと、巨大な穴があった。真っすぐ、ひたすら下に向かって掘られた穴。直径は100メートル程だろうか。
「どうやってこんな穴掘ったんだ・・・?」
淵に立って底を除くが、かなり深いせいで光が届かない。自爆特攻カラスオメガのカイムの能力『暗視』でもそこが見えない程の深さ。数キロメートル以上掘られているのは確かだ。
そんな穴をどうやって掘ったのか見当もつかない。掘った後に土、岩はどこにいったんだ? 穴を掘ったら、堀った分のそれらがあるはずだというのに、穴の周りにそれらしいのは見当たらない。
「飛び降りるべきか・・・?」
輸送船に乗るべきか、そう考えた瞬間――
バシンッ――
「うおっ!?」
背中を叩かれ、危うく穴から落ちそうになる。心臓が止まりそうになったが、振り返ると不機嫌そうなイザベラが。
「ミカエラとだけで、アタシにはハグも何もなしかい?」
「それは・・・帰ってからいくらでも付き合うよ」
「約束だからね。今夜は足腰立たなくしてやるから覚悟しときな」
「お手柔らかに頼むよ・・・」
ヘタな約束しちゃったかな・・・――
イザベラの後ろには、ミカエラとメイシャ、ルカの姿もある。あの3人にも今の会話を聞かれた事だろう。帰ったら大量に飯を食ってエネルギーを確保しておかないと、枯れ木みたいになってしまうかもしれない。搾り取られてミイラみたいになって死ぬのは嫌だ。そんな不名誉な死に方をしたら恥ずかしくて成仏できない。
と、そんなバカな事を考えていたらマキナも穴までたどり着く。騎士団の4人を引き連れて。
「ケイジ! もう着いていたのか。随分早かったな」
4人とは、アンジェ以外の戦乙女達とクーナさんだ。後方で繰り広げられていたトウテツとの戦闘が終わったのを見ると、おそらく彼女達が片を付けたのだろう。一般兵からしたらトウテツの群れは脅威だが、騎士団からすれば大した相手ではないからな。
クーナさんに返事をしていると、戦乙女の3人が穴を覗き、そのあまりの深さにケイシーが腰を抜かす。
「ウ、ウチ高いところはダメッス・・・」
どうやら高所恐怖症の様だ。底が見えないというのは確かに怖い。オレもイザベラに背中を叩かれた時マジで焦ったからな・・・。
「クララ。この下にコマンダーがいるんだな?」
『ん。おっきい虫と戦ってる』
モグラじゃなくて虫型のオメガだったのか。虫みたいなオメガはバエル以来のはずだが、まあいいか。とりあえずどうしようかと考えていると、地震と共に地響きが聞こえた。
突然の揺れで穴に落ちない様にイザベラを支えながら耐えるが、揺れと音はどんどん大きくなる。
「何が起きてるんだい!?」
「分っかんないけど! とりあえず穴から離れよう!」
このまま落下して怪我したり死んだりするのは洒落にならない。空を飛んでいるミカエラに協力してもらって、何とか穴から離れたところで、穴の中から巨大な何かが姿を現す。
非常に長く、巨大な体。先端にはびっしりと牙が全周に並んでおり、その姿から前にネットで見たキモい生物『ヤツメウナギ』を思い出してしまった。どうやらあの牙で岩を削って飲み込んでいる様だ。だから穴はあるのに掘った痕跡がなかったのか。
体のサイズは穴と同じ直径100メートル。長さは分からない。地表に出ている分だけでも500メートルはあるが、まだ穴の中に体がある事から全長を測れない。
茶色の体表をしたミミズみたいなオメガだが、今まで見たオメガの中でもクラーケンに次ぐデカさだろう。怪獣オメガなんて比較にならない程デカいその体。まるで、穴を掘って星を喰らっているとすら思えてしまう。
またその体の脇には、刀を突き刺して何とか動きを止めようと必死に食らいついている守護者の姿があった。
「コマンダー!?」
あの巨躯からしてみれば、オリハルコンの刀なんて爪楊枝みたいなものだろう。それで立ち向かおうなんて無謀も良いところだ。
『君か!? 目が覚めたのだな』
どうやらマザーから何も知らされていなかった様だ。驚いたコマンダーがそのワームオメガから刀を抜いてコチラに降りてくる。
「ああ、おかげでゆっくり休めた。・・・苦戦している様だけど、手伝おうか?」
『あの巨体を相手にするには君の鎧でも厳しいだろう』
鎧とは、ジャガーノートの事だろう。確かにあれだけ巨大な体に致命傷を負わせるのにはジャガーノートでも骨が折れそうだ。とは言えやれない事もない。
「任せとけ。あれは、オレが殺る」
どこいるのか分からない最後の新型をコマンダーに探してもらい、それまでの間にコイツを仕留めてしまおう。
それに先程から、オメガ細胞に侵食されている悪魔の様な右腕が疼くのだ。力が込み上げてくるから、きっと問題なく倒せるという自信があった。




