168.贋作
両腕が完全に再生したオレは、すぐに惑星マザーに移動しようとしたが、上空で飛行している輸送船が目に入った。開いているハッチから一般兵の姿が見えたので、おそらく上空でサポートしていたのだろう。
地上にいても足を引っ張るだけだから、良い判断だと思う。一体誰がそう指示したのだろうか? まあ、クーナさんか。とはいえ脅威が去った今、もう必要ないだろう。
「上空にいる部隊は降りてアールヴとオメガの残党がいないか確認してくれ」
オープンチャンネルで伝達すると、輸送船はすぐに着陸して一般兵が降りてくる。数機の大型輸送船からワラワラと数百人も出てきたのを見て、今回の作戦に全ての一般兵も参加していた事を知る。残りは惑星マザーに行っているのだろう。
ここは彼らに任せて、オレもクーナさん達に続いて惑星マザーに移動しよう。向こうがどうなっているのか気になるし。
転送装置を起動した瞬間、ふと背後から気配を感じて向き直ると、一般兵が全員敬礼していた。前にもどこかで見た事のある光景だ。ただ、まあ悪い気はしない。
いつか、彼らの中から因子の適性を持つ者が現れ、騎士団に加わるかもしれない。そうなる時まで死なず、成長してくれる事を心から祈ろう。
オレも敬礼を返し、彼らに見送られながら、光の中に身を投じる。すぐに薄暗い母艦の転送室に辿り着くが、転送装置の行先を惑星マザーに設定して再度乗ろうとしたところで、マザーが目の前に現れる。
『早かったですね』
ヘビオメガを痛めつけていた手前かなり時間が掛かってしまった為、それが嫌味に聞こえなくもないが、多分そうじゃない。新型の割にはあっさりと倒せたから、本心でそう言っているはず。
「ミカエラ達が心配だからな」
『そうですね。ああ、それとこちらを渡すのを忘れていました』
マザーが2つの注射器を取り出す。おそらく、怪獣オメガ2種の因子だろう。マザーも渡し忘れるなんて、おっちょこちょいだな。
それを受け取り、片方を首に突き刺す。そしてすぐに2本目も注射する。どうせ副作用による苦痛なんて一瞬だと思っていたが、今回は特に副作用は見られない。
「そういえば、マンタオメガからよく因子を抽出出来たな。ダモクレスで跡形もなく消し飛んだと思ったけど」
『貴方が切断した尻尾から抽出したのですよ』
ああ、そう言われると確かに尻尾を切断した記憶がある。それがなければ、因子は手に入らなかっただろう。過去のオレ、よくやった。
自画自賛しつつ、副作用がない為新たな力を手に入れた実感も湧かないまま、オレは転送装置に再び乗る。
『我が母星には新型オメガが3種います。気を付けて下さい』
「3種って・・・」
流石に3種類同時出現は初めてだ。2種類は過去に何度かあるけど。それだけオメガも本気、という事だろう。
『貴方なら大丈夫ですよ』
「他人事かよ・・・」
『ふふ。今までだって乗り越えてきたではありませんか』
「そうだけどさ・・・」
このほんわかした雰囲気が、オレのホントの母さんと似ている。嫌いとか苦手という訳ではないけど、どうしても逆らえない。どこの家庭でも母は強し、という事だろう。
『大丈夫ですよ。貴方なら』
「・・・」
一体どんな根拠で言っているのだろうか。ユグドラシルといい、どうもオレに対して絶対的な信頼感を抱いているのが不思議な感じだ。
『それと無事に帰ってくるのですよ。ココは、貴方の第二の家でもあるのですから』
「家・・・?」
長い間母艦内の個室で過ごしているとはいえ、そこを家だとは認識していなかった。あくまで、間借りしているだけの存在。マザーからしてみたら、オレは邪魔者だと思っていたが、そうではなかった様だ。
母親の様な言葉を掛けてくるマザーに対して、何だか照れくさい感情が湧いてくる。家族と数年も会っていないからホームシックになっているせいもあるだろうが。
コマンダーとは違って感情豊かなマザーに惑わされつつも、正気を取り戻して転送装置を起動する。これ以上話していたら今以上に家族が恋しくなってしまう。
『行ってらっしゃい』
本日二度目の言葉。優しく微笑んでいる母さんを彷彿とさせるも、依然としてその顔は思い出せないまま。そのせいで若干嫌な気持ちになりつつも、返事だけはする。
「行ってきます」
視界が真っ白になる直前、ふとマザーの片腕がない事に気が付く。何かあったのだろうか? いや、気にするのは後だ。今はこれからの戦闘に集中しなくては。
転送が終わり、視界が晴れると、黒い荒れ果てた大地が視界に映る。そして吹き荒れる風。足が地に付いている感覚がない。どうやら空中にされた様だ。
眼下では大量のオメガと戦っている機械兵と一般兵の姿も確認出来た。戦場が繰り広げられているその奥では、白い人型のオメガと戦おうとしているミカエラ達の姿を視認する。
空中で姿勢を制御し、そちらに向かって落下していると、その人型オメガにミカエラが拘束したところを、ルカにメイシャ、マキナが致命傷を負わせ、イザベラが頭を吹き飛ばして止めを刺したのを目撃する。
オレが出るまでもなかったな――
そう思ったが、人型オメガに変化が見られた。両腕も頭部も失ったというのに、その体が膨れ上がって巨大になる。同時に頭部と腕が生え、見覚えのある白い巨人の姿となった。
「もうジャガーノートを真似るオメガを生み出したのか・・・?」
あまりの対応力の速さに驚きを隠せないが、どう見てもそれは見た目だけの様に思える。体はアダマンタイトで出来ている訳ではないのを見るに、おそらく見かけ倒しだろう。
ただ、それでも警戒させるには十分な効果があった。みんなはすぐに距離を取り、慎重に対処しようとするが、オレにとっては好都合だった。
その偽物のオメガの真上まで移動し、そのまま上空でジャガーノートを展開。重力に身を任せ、降下しながら大剣を構え、豪快な着地と同時に一刀両断にした。
「消えろ。この贋作が」
真っ二つになった偽物オメガは、そのまま死に絶えて体を左右に分けて地に転がる。オレがミカエラ達を傷付ける事など絶対にあり得ない。そして偽物であったとしても、許すはずがない。
突然の出来事に驚いたままのみんなに、ジャガーノートを解除して声を掛ける。
「ごめん、みんな。お待たせ」




