167.両腕
残った2つの頭部。他の首はおろかグチャグチャになった背中も再生する事が出来ず、飛び散った肉片と血液が辺りを汚している。
左手に持った結晶を、残った2つの頭部が穴が空くほど注視しているが、オレから簡単に奪い返せないと判断したのか、その脳内で作戦を立てている事だろう。
だが、オレがコイツにしたいのは苦痛を与え、恐怖を覚えさせ、最後に絶望させて殺す事だ。まだ最後の過程が残っている。ではどうすれば絶望させる事が出来るのか、それは今オレの手の中にあるものを使えば容易だ。
「これがないと、お前はただのデカいヘビでしかない。だからどうしても取り戻したいんだろうけど、悪いな」
一度返して、再度奪うという方法も思い付いたが、これ以上時間を掛けては惑星マザーに行ったメンバーに負担が掛かってしまう事になる。もう、終わりにしよう、と左手に力を入れる、ミシミシと振動が手に伝わり、音が鳴り、そして結晶に亀裂が走る。
ギャオオオオォォッ――
最後の頭部が決死の奪還を仕掛ける為、どれだけ傷付くのも厭わずに拘束を脱し、結晶を取り戻そうと首を伸ばす。
パリンッ――
だが、それよりも一瞬早く、青い破片が宙を舞い、光を反射させて神秘的な光景が広がる。それを見て、パタリと結晶を取り戻そうとしていた首が止まる。再生が完全に出来なくなった事を理解したのだろう。同時に、自身の死も悟ったはずだ。
8つあった内の6つの首が切断され、残った2つは無理矢理拘束から向けた為、千切れ掛かっている。胴体も回転刃でズタズタにされ、今も尚夥しい量の血液が流れ落ちている。
「まるで、死の宣告だな。お前はもうすぐ死ぬ。それは変えられない。その上でオレに一矢報いるか、潔く死を受け入れるのか・・・。どっちを選ぶ?」
言葉を理解しているのかは分からない。選択肢をあげたのは、特に理由はない。どちらにしても止めは刺す。ただ、潔く死を選べば、これ以上苦痛を与えるつもりはない。痛みを伴わない死を迎えさせるつもりだ。
死を悟ったヘビオメガがどうするのか様子を見ていると、その場で項垂れて動かなくなってしまった。首を差し出している様にも見えるし、絶望した様にも見える。はたまたもう動く体力も気力もないだけなのかは分からないが、これ以上はもう、いいだろう。
剣を握る手に力を入れ、刀身を伸ばす。そのままゆっくりと構え、後は振り抜くだけの体勢で一度止まる。
「もしオメガも輪廻転生するなら、次は長生き出来るといいな」
そう言って、オレは剣を振り抜き、その命を静かに刈り取った。
このオメガは、おそらく造られてから地に降り立つまでずっとクラーケンの中で待機、いや眠っていたのだろう。一体どれだけの時間そうしていたのかは分からないが、生れ落ちてから死ぬまで1日も経っていないのは、セミよりも短い命だと正直同情してしまう。
だが、例えそうだとしても、和解や共存なんて出来ない。お互いに殺戮の限りを尽くさなければならない運命なのだ。
ジャガーノートを解除し、完全に死に絶えたヘビオメガの死骸を見て、ある事を思い出す。怪獣オメガとマンタオメガの因子を結合させるのを忘れていた。あのデカブツ共からは一体どんな能力が得られるのか見当もつかない。そしてこのヘビオメガの能力も、アンラ・マンユの再生と被りそうな気がする。
因子を結合させるのは簡単ではない。肉を喰ったところで因子を結合させる事は出来ないからだ。それならドラゴン肉を喰った全員があの因子を得た事になってしまう。因子を得るには、髄液等の遺伝子情報が大量に詰まったものから様々な工程を通した上でやっと得られる、とコマンダーが難しい事を言っていた気がする。
とは言え、今はそんな悠長な事は言っていられない。全てのオメガの因子に適性のあるオレであれば、そんな面倒な工程を踏まなくても何とかなるはずだ。・・・多分。
とりあえず、アダマンタイトを操作して注射器の形にする。それを切断した頭部に刺そうと思ったが、どちらかというと本体は結晶の方だ。切断しても生え変わる頭部は、トカゲで言う尻尾にあたるから、そんな重要な部位ではないはず。
そう判断し、オレは砕いた結晶の中でも大き目のものを拾い、それを砕いて注射器のシリンダーに注ぐ。
「コレ直接脊髄に打っても大丈夫かな・・・? ・・・ええい、ままよ!」
後の事は考えず、それを首から脊髄に直接注射して送り込む。短期的なものはあっても、永続する様な副作用はないはず。今までもそうだったし、と安易に因子を無理矢理結合させると、両肩に熱が帯びる。
「あぐッ! 何が起こってる・・・?」
直後、激痛が走り、肩を見てみると、アダマンタイトの腕を押しのけて肉の触手が生えてきた。そのままボトリとアダマンタイトの義手が落ち、肉と骨が形成され、完全に新たな『腕』となった。
「再生・・・? いや、修復か?」
アンラ・マンユの再生は、傷を治すものに対して、このヘビオメガの再生は、欠損した部位の修復という別の再生の力がある様だ。
ただ、オメガ細胞に浸食されている右肩から生えてきた腕は、まるで悪魔のそれみたいに黒く変色しており、禍々しい見た目をしていた。とは言え、久々に生の腕を拝む事が出来たと同時に、両腕の分のアダマンタイトが浮いた事に喜びを感じる。
「ラッキー。これでまた誰かの武器を作ってあげられる」
アダマンタイトで出来た両腕を変形させてポケットに入れ、自分が幸運の持ち主だと喜んでしまったが、すぐに自己嫌悪してしまう。
・・・アダマンタイトを手にして喜ぶなんて、まるでコマンダーみたいで嫌だな――
あいつが宇宙でアダマンタイトを拾って帰って来た時、かなり上機嫌だったのを思い出す。普段感情を露わにしない奴がルンルン気分でいるのは気味悪かったし、金属を手にして喜ぶ姿が気持ち悪かったと内心思っていたが、それと全く同じ喜びを感じてしまうなんて・・・。
「毒されてきたかな・・・?」
あれと似た者同士なんて言われるのは嫌なんだけど・・・。不意に一つ目の黒い球体がほくそ笑んでいる気がした。いや、あいつに表情なんてないんだけどさ。




