166.斬首
斬首、それとも断頭と言うべきか? 完全に8つの頭部を再生させたヘビオメガがオレを睨みつけ、噛み付こうと突進してくるが、左手でサイコキネシスを使って頭を押さえ込み、右手に握る剣でその首を刈り取る。
「まずは一つ」
魔剣開放。刀身を伸ばして先程の様に一度の斬撃で全ての首を斬り落としてもいいが、それだとつまらない。コイツには存分に死の恐怖を味わわせてから死んでもらう。
キシャアアアアアアアッ――
続いて7つの頭部が咆哮をあげながら別方向から押し寄せてくるが、オレはその場から動かない。コイツの牙がアダマンタイトを貫けるのか見てみたいからだ。
オレの予想だと、コイツにそれだけの力はない――
ガキンッと牙とアダマンタイトの鎧が接触する音が響くのが聞こえる。まあ、その音が聞こえているという事は、予想通り貫けなかったのだろう。
肩や腕、足に噛み付いている頭部。何故オレの体を貫けないのか理解していない様子を見せるのを気にも留めず、一つの首の頭部に剣を突き刺し、地面に釘付けにする。
どうしてこのオメガがアダマンタイトの防御力を突破出来なかったのか、答えは簡単だ。コイツはジャガーノートを知る前に造られた存在、それだけだ。オメガが新型を生み出すのには数か月の時間を要する。
対して、オレがジャガーノートを見せたのは30時間程前。つまり、アダマンタイトの鎧の対策は出来ていないと詠んだ。もちろん、アダマンタイトを吸収する『ベリアル』やアダマンタイトをも溶解させる血液を持つ怪獣オメガなら話は別だが、そもそもあれもアダマントソードを対策したものであって、ジャガーノートを対策した訳ではない。
よって、今アールヴヘイムと惑星マザーに押し寄せている新型オメガはジャガーノートを使えば対抗できるはず、というのがオレの考えだ。
未だに全身に噛み付いている頭部を無視し、地面に釘付けにされ、もがいて脱出しようとしている頭部の首根っこを両手で掴み、そのまま左右に引きちぎる。
「これで2つ」
そして剣を地面から引き抜き、振り向きざまに2本の頭部を斬り落とす。
「4つ」
あまりにも呆気なく頭部を落とされ、漸くオレを危険視したのか、ヘビオメガが後退してオレを睨みつける。そのまま時間稼ぎでもするのかと思ったが、口を大きく開けてこちらに向けてきた。
「ブレスでも吐くのか?」
ドラゴンみたいに火を噴くのかと思ったが、どうやら違う様だ。喉の奥から紫色のガスが噴射される。その見た目から毒ガスだとすぐに分かるが、意味のない行動でしかない。
あまり登場した事の無い斥候型オメガの『バジリスク』。蟻に羽を生やした様な見た目で、神経毒のある鱗粉をまき散らすだけのオメガ。そいつの因子で手に入れた力が、『毒無効』だからだ。つまりオレに毒は通用しない。
もしかしたら毒ではないのかもしれないと、それを浴びてみるが、特に異常は見られない。周りの植物を見ると、茶色く変色して枯れているのが確認できた。
「いや、枯れているんじゃなくて溶けているのか?」
毒の効果もあるかもしれないが、どうやら酸性のガスの様だ。とは言っても、アダマンタイトを溶かす程強力なものではない。
「ガッカリだな」
コイツの攻撃手段では、オレを害する事は出来ない。ホントにただの弱い者いじめみたいになってしまうが、それでも報いは受けさせる。
いい加減煩わしくなってきた毒ガスを止める為、噴射している下顎目掛けてサイコキネシスのアッパーをお見舞いする。ジャガーノートの重量もサイコキネシスの出力に加算されているのか、ヘビオメガの巨躯が簡単に浮かび上がる。その際に一瞬、胴体、いや腹に黒いアザの様な物が見えた。
「ああ、それが弱点か」
おそらく首を斬り落とし続けても倒す事は出来るだろうが、弱点が分かったのであれば路線変更だ。脳震盪でも起こしたのか、頭をブルブルと左右に振っているヘビオメガの真上に跳躍。剣を槍に変形させ、一つの頭を狙って投擲する。
先程と同様、地面に串刺しにしつつ、マントを2本の槍にして再度投擲。計3本の頭部を地面に釘付けにする。残った最後の頭部が無駄な抵抗をするも、それをサイコキネシスで叩き潰し、首を引きちぎる。
千切られ、切断された5つの頭部が再生する前に、もがいているヘビオメガの胴体に向かって歩みを進める。同時にジャガーノートを解除し、アダマンタイトをある形に変化させる。
機構なんて知らない。ただの見様見真似だが、それらしい形を成す事が出来た。
2メートル程の長柄。先端には直径1.5メートルの丸い刃。巨大なピザカッターの様な不格好な武器。そんなもので何をするのかといえば――
――ブルオオオオオオォッ!
先端の刃が高速回転する。最大限の痛みと恐怖を与えつつ、ヤツの弱点を破壊する最も効果的な武器は何だろうかと想像した時、ホラー映画でお馴染みの『アレ』を思いついてしまった。形は違えど、用途は同じだ。
「オレのマスクはアダマンタイト製でレザーのマスクじゃないけど」
マスクの材質なんて今はどうでもいい。回転する刃をヘビオメガの胴体のあった位置の真上、背中に押し付ける。
「痛みをもって恐怖を刻んでやる」
ガリガリガリッ、と鱗を割り、肉を削ぎ、骨を砕きながら刃を進む。
ギャオオオオォォッ――
悲鳴が轟くが、決して手を止めたりはしない。アンジェはもっと痛くて苦しんでいたはずだ。それ以上の苦痛を与えない限り、止まる事は許されない。
青い返り血が降り注ぐ。身体を汚したらクーナさんに隅々まで洗われるから、普段は汚さない様に心掛けているが、今この時だけは気にすらしない。虐待している感じがしなくもないが、痛みや理不尽が人を成長させるのだ。まあ、コイツはオメガだけど。
人を傷付けるのは百歩譲って許そう。でもそれがオレの大切な人であるならば、絶対に許さない。
「みんなが思っているより、オレは利己的で、残酷な人間なんだ」
反撃する気概も失せ、ひたすら逃げようとするヘビオメガの背中を削っていると、不意に刃が硬い何かに接触するのを感じる。傷口から中を覗くと、サッカーボール程のサイズの青く丸い結晶があった。
どうやら、これがコイツの力の根源の様だ。周りには粘膜の様なものがあり、それが肉から離れない構造になっているが、そんなものはお構いなしに鷲掴みにして引っ張る。
ギャア、ギャオッ――
まるでやめろと言わんばかりに短い悲鳴を何度もあげるヘビオメガの目には、恐怖が浮かんでいる様に見えた。
「ああ・・・それが見たかったんだ・・・」
やっと報復が出来たと心が満ちた感覚を覚える。だが、容赦するつもりはない。そのまま手の中にある結晶を無理矢理引きちぎる。ブチブチッと肉や粘膜が千切れ、体外に出た事でそれが完全に露わになる。同時に、切断したヘビオメガの首の再生が止まるのが確認できた。
体内にこれがなければ一切再生出来ないと確信した瞬間、串刺しにしていた頭部の一つが顎の骨と肉を引きちぎりながら拘束を脱し、飛び掛かってきた。顎を失い、牙もないその一撃で何をしようというのか。そう思ったが、どうやらこの結晶を取り戻したい様だ。
「返す訳ないだろ」
回転丸ノコを剣に戻して、その一撃を躱しながら首を切断する。残りの頭部は2つのみ――




