161.相殺
アイテールを殲滅し、次はクトゥルフとの戦闘に移る。既に戦闘音を聞きつけ、こちらに気が付いているクトゥルフがサイコキネシスを放ってくる。
――おそらく音を聞きつけたと思われるが、一体どこに『耳』があるのだろう?
脳と目、ミミズの様な胴体しかないその体でどうやって音を感知したのかは不明だが、こちらに気が付いているのだけは確かだ。
私達がいる位置の空間が歪むのを感じ取り、即座にその場から退避する。クトゥルフのサイコキネシスには時間差があるのを今までの戦闘で把握している。不規則にさえ移動していれば当たる事はまずない。
みんなもそれを理解しており、サイコキネシスの範囲外に逃げつつ、レーザーガンで反撃していた。私もそれに続き、サイコキネシスは飛行にのみ使い、攻撃は全て銃で行う。
ピュンッと音と共に凝縮された光がクトゥルフに向かって走る。が、それは直撃する事なく脇を通り抜けて宇宙の彼方へと消え去ってしまう。
「もう! 何で当たらないの!」
幼少期から英才教育を受けてきた私だけど、訓練を受けてもどうしても上達しなかった事がある。それは見ての通り、射撃の腕だ。3年以上訓練したはずなのに、私はまともに的に弾を当てる事が出来なかった。
――多分、私が手にした銃が全部曲がっているんだと思う。
それ以外考えられない。今手に持っているのもそうだ。かと言って接近して撃つ訳にはいかないので、とりあえず連射する。『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』という言葉が日本にある。例え銃口が曲がっている鉄砲でも、何発か撃てばいずれ的に当たるという意味だ。多分。
私ががむしゃらにレーザーガンを撃っている中、ここぞとばかりにあのバカがピュンピュンッと音を鳴らしてクトゥルフを仕留めていた。
『おいおい、全然当たってねぇじゃねぇか。目ぇ瞑って撃ってんのか?』
ピュンッ――
『あっぶね!? ぜってぇわざとだろ!』
つい手が滑って違う的に向かって撃ってしまった。可愛いルカ君やメイシャに当てない様に気を付けないと。
クトゥルフを淡々と始末していると、ふと数が少ない事に気が付く。嫌な予感がし、ふと視線をクトゥルフの群れの奥に向けると、輪になっている10体の姿が。儀式をしている様に見えるが、そんな生易しいものではないのはかつてケイジに聞かされたおかげで知っている。
かつて一度だけ、初めてクトゥルフが現れたアールヴヘイムで許してしまった『それ』を、易々と見逃す訳にはいかない。
「奥でブラックホールの準備をしているわ! すぐに阻止して!」
この戦場には多くの一般兵と機械兵がいる。機械兵は対処出来るかもしれないが、一般兵はまず犠牲になってしまうだろう。何としてでも、ブラックホールの生成は阻止しなければ。
私の声を聞いて3人も輪になっているクトゥルフに向けて銃口を向けるも、他の個体が道を阻む。どうやらあれを本気で完成させる様だ。
曲がった銃を使うのをやめ、素直にサイコキネシスで彼らの前に立ちはだかるクトゥルフを捻じ伏せる。本来であればサイコキネシスの防御で抵抗され、実弾すら防がれるが、私の方がクトゥルフよりも出力があるおかげで防御の上から叩き潰せる。
私だって着実と強くなっているのだ――
とは言え、正面から突破は出来ない。3人が光線を放って進行しようとするも、数十体のクトゥルフを突破するには時間が足りない。
「クソッ! 間に合わねぇ!」
悪態を付きながらも突破しようと試みるマキナだが、そう簡単にいくはずもない。そして、輪の中心に黒い渦が生まれるのが見える。
「ダメッ!」
このままでは多くの犠牲が出てしまう。そう思った瞬間――
パァンッ――
生まれようとしているブラックホールが『弾け飛んだ』。何かが搔き消したのだ。それが何か分からずにいると、通信機が起動する。
『ん。黒いの消した』
クララちゃんの声。そしてブラックホールを消したという発言。
「え? 消した・・・?」
ただ朝にパンを食べたと言う様に、あまりにも何事もなかった様に言う彼女に驚かされる。そもそもクララちゃんは空間を捻じ曲げるサイコキネシスを得意としているから、『相殺』したとしても不思議ではない。
『でも疲れた・・・』
だが、たったの一度でガス欠になった様だ。元々持久力のない為、仕方がないが。でもそのおかげで時間を稼ぐ事が出来た。
「助かったわクララちゃん。ありがとう、しばらく休んでて」
『ん』
彼女には再び後方で待機してもらいつつ、もう一度力を使える様に休んでもらう。まあ、それ以外の選択肢なんてないのだけれど。
ブラックホールが相殺された事に戸惑っているのか、クトゥルフが攻撃もせずに呆然としている隙に残りを殲滅してしまう。
クララちゃんのおかげで犠牲者を出さずに済んだ。トウテツとメジェドも間も無く全て倒しきるだろう。とりあえず死者はおろか、怪我人も出さずに終わりそうだ。
これで新型に専念できそうだ。ミスターコマンダーも無事だろうか? ガーディアンで出撃しているとはいえ、決して無敵という訳ではないはず。このまま彼の元に向かおう。
ダンッ――
ふと背後から音がした。何かが着地した音だと思うけど、その正体は分からない。確認の為に視線を向けると、初めて見る白い人型のオメガがそこにいた。
二足歩行。真っ白の体に、白いロングコート。フード付きのそれを目深に被った様な外観。そして右手には白く、長い剣。
その容姿から、すぐにそれが何を模しているのか理解する。
――彼だ。このオメガはケイジを模している。




