160.メテオ
惑星マザーの空を見て思い付いた切り札。今まで使う機会がなかったが、もし使うならここしかないだろう。
「みんな、頭上に注意して」
私は警告しつつ、上空に移動する。途中、メジェドに噛みつかれそうになるも、機械兵による射撃によって難を逃れる。やはり彼らの射撃能力は群を抜いて高いと改めて感嘆する。
そして惑星マザーを囲む様に存在している多くの小惑星にサイコキネシスが届くところまで着いた私は、その小惑星を重力圏まで落とす。重力に従って落下するそれは、私がサイコキネシスで岩を投げるのとは比べ物にならない威力となるだろう。超重量の物質が加速し、そして地表に着弾すると――
ドゴォオオオオオオオンッ――
凄い量の爆弾が同時に起爆した様な音が轟き、鼓膜が振動する。数多くある小惑星を一つ、たった一つ落としただけで、惑星マザーの地表に小さなクレーターが出来上がる。そしてその周囲にいたトウテツは衝撃でバラバラになって吹き飛ぶ。
「私が道を作るから、3人は進んで」
ルカ君とメイシャ、そしてマキナの3人の為に道を切り開く。直接クトゥルフやアイテールを狙いたいところだが、もしアイテールの視界に入ってしまえば狙撃されてしまう。つまり互いに視界に入る前に位置情報を掴んだ方が有利になる。つまりこの戦いは情報戦でもあるのだ。
その為、これ以上高度を上げるの非常にリスクが伴う。私はその場から動かずに小惑星を降らせる事に専念する。ただ、それだけでも絶大な効果があった。
『うわぁ・・・マジパネェな・・・。怒らせんとこ・・・』
マキナの呟きが通信機を通じて聞こえる。相手が怖いからという理由だけで怒らせない様に気を付けるなんて、モテない男の言い分だ。ケイジなら相手が怒らないからと言って絶対に酷い事なんてしないだろう。
――はぁ・・・。早く終わらせてケイジに会いたい・・・。
ホームシックならぬケイジシックになりつつ、地表を見ると私が落とした小惑星で出来た隙間を3人が縫う様に駆けていた。そのままトウテツの群れを突破しそうになったところで、私も低空飛行で追従する。
『怪我するんじゃないよ』
「ええ。イザベラも気を付けて」
機動力の無いイザベラ達重装兵はその場に残ってトウテツの相手をせざるを得ない。本当は彼女達も付いてきたいはずだが、こればかりは仕方がない。彼女自身、私達の身を案じながら自分の仕事を全うするのが最善と判断したのだろう。
そして私達も自分の仕事をしようと、トウテツの群れを抜けて後方に控える異能型のクトゥルフと特殊型のアイテールの駆除に赴く。
黒い荒野の奥、宙を漂っている脳みそと目玉の群れが見える。醜悪な見た目に鳥肌が立つのを感じるが、視線を外す訳にはいかない。コチラに気が付けばすぐ様攻撃を仕掛けてくるはずだから、気を抜けば死が訪れる。
100のクトゥルフと30のアイテール。対クトゥルフ兵器の光学銃、レーザーガンは全員持っている。私もサイコキネシスだけでクトゥルフとアイテールを全て倒せるとは思っていない。まあ、逆にそれ以外に持っている武器といえばパルスグレネードぐらいだが。
対アイテールに関してもレーザーガンは有効だ。普通の銃も通用するが、生憎今回は誰も持っていない。それどころかクトゥルフとアイテールと相性の悪い近接武器を4人中3人が持っているという異常事態だけど、レーザーガンを持っている事だけが救いか。
――騎士団、というかオメガ因子を結合させた人の戦い方がピーキーなだけなのだけれど・・・。
ないものねだりをしていても仕方がない。今はこの武装でどうにかするしかない。
移動しながらクトゥルフのサイコキネシスを避け、アイテールを先に駆除する。目からビーム、光の速度で射出される攻撃を避けるのはまず不可能。ケイジですら掠る攻撃を避けられるはずがない。
「クララちゃん。もしもの時は援護をお願いね」
『ん。了解』
もしもの時の為に後方で待機してもらっていたクララちゃん。彼女の援護があるのかないのかでは安心感が違う。
「じゃあ、まずはアイテールから。サイコキネシスは自力で避けて」
『了解です』
『分かりました。ミカエラも気を付けて下さい』
『簡単に言ってくれるな。俺は因子持ちじゃないんだぜ?』
「だから?」
『・・・何でもねぇよ』
生意気なのを黙らせ、作戦を実行する。私は少しでもアイテールの視界を遮る為に、手ごろな岩をいくつか浮かせてアイテールに向かって山なりに飛ばす。視線を少しでも上に向けさせる為だ。物陰に隠れて再度同じ様に投石していると、3人が高速で進行しているのが目に入る。
陽動のおかげでアイテールの視線は上を向いており、目から凝縮した光線を放ち、岩を迎撃している。その隙をついて3人が1体、また1体をアイテールを駆除する。
アダマンタイト製の武器を持つルカ君とメイシャが静かに敵を倒しているというのに、突如あのバカは一人で大声をあげながらハルバードを振り回す。
「オラオラオラァッ!」
その声に反応し、折角上を向けさせるのに成功した全てのアイテールが視線を落としてバカを一瞥する。
――あのバカは本当に!
手の掛かる出来の悪い弟がいたらこんな感じなのかもしれないと不満を抱きつつ、岩を円錐状に削って回転させながら高速で射出する。バカが視線を集めたおかげで、ドリル状の岩がアイテールの側面に直撃し、貫通する。
だが、全ての視線を集めてしまったせいで、やや離れた位置にいたアイテールの目玉がマキナを捉え、光を宿すのが見えた。刹那、閃光が放たれ、機械で出来た体を包む。
光が晴れ、左腕と脇腹が溶けた彼が立ち尽くしていた。微動だにする事なく。
「・・・死んだ?」
『生きてるってのッ!』
アイテールの会心の一撃は、あのバカを死に至らしめるのに失敗した様だ。システムを再起動した彼が2,3秒後に再度動き始める。
「ッチ」
『あ、今舌打ちしただろ!?』
思わず舌打ちが出てしまった。こんなところケイジに見られたら幻滅されてしまう。
慌てて口元を抑え、淑女としての振る舞いを心掛けなければと気を引き締めたところで、最後のアイテールをメイシャが討伐した。
残りは100体のクトゥルフ――




