158.新武器
惑星マザーにおよそ千人以上の人間が足を踏み入れるのは随分と久し振りの事だろう。最近は一般兵を数百人出撃させ、経験を積ませる為に斥候型の相手をさせたりしていたが、それまでは彼が一人で対処する事が多かったから。
輸送船から降り、惑星マザーの地表に足を付ける。既にオメガの大群が前方から迫っている為、防衛網を築く時間はない。いつもの数倍は存在するその戦力に一般兵が物怖じするが、私達と機械兵が同じように怯えている暇はどこにもない。
「アールヴヘイムに行ったクーナ達は大丈夫かしら・・・?」
大津波の様に迫るオメガの群れを見つめながら、私はクーナとヴァルキリー部隊のみんなを心配する。向こうでも新型オメガが確認されている以上、決して楽な戦いにはならないのは容易に想像できるからだ。
「心配するならこっちの心配をしな。なんせ、こっちは新型が3種類もいるんだ」
隣にいたイザベラの言う通り、惑星マザーには3種類の新型が確認されていた。もしかしたら、死人が出る程の激戦になる事も考えられる。
――もし、彼が目覚めて私達の中から誰かが死んでいたら、きっと一生自分のせいだと引きずるはず。
それだけは許されない。彼の無邪気な笑顔が見れなくなるのは絶対にあってはならない事だから。
「・・・そうね。みんなも怪我しない様に気を付けて。自分の為にも、ケイジの為にも」
例え自分の命を投げ捨ててでも誰かを守ろうとする心意気は素敵だけど、残された側の胸に残る傷が果てしなく大きい。それはいつもの彼の行動のせいで、誰もが深く理解している。
だから私の言葉に、みんなが痛々しい顔で頷くのも仕方がない事だ。
「この体も、この心も、ケイジ様の為にある。だから、こんなところで死んでは家臣の名折れ。絶対にこの戦場、生き抜いてみせます!」
メイシャが剣を手に、覚悟を口にする。その勇ましい姿にみんなが鼓舞されるのはありがたいが、私の心にはある疑問が浮上していた。
――いつから家臣になったのかしら・・・?
「兄の帰る場所は私達のところ」
「クララの言う通り。僕達がお兄さんの居場所を守るんだ」
初めて会った時、この双子は頼りなく、護ってあげなければならない対象に見えた。でも今は、こんなに頼りがいのある大きな子に育ったのは嬉しいと思う反面、悲しい気持ちにもなってしまう。子供の成長というものは、気付けばあっという間にしているのだ。ずっと近くにいると思っていても。
ルカ君もクララちゃんも、自分のやるべき事をちゃんと理解している。それなら私から何か言う必要はないだろう。
「やる気だけでどうにか出来る程甘くねぇのは確かだけどな」
そして機械兵を率いているマキナの言葉に苛立ちを覚えるが、今回は真っ当な意見だ。緊張し過ぎたり、楽観視したりするよりは現実を直視する方が良い。
「ビビッてんのかい? 男なら良いトコ見せな」
バシンッと、音が響く。イザベラがマキナの尻を叩いた音だ。
「わ、分かってるって!」
過去に色々とあったせいで、マキナはイザベラに対して苦手意識を持っている。そのせいで彼女にだけ余所余所しい。まあ、ケイジに舐めた口を利いた過去がある為、私も彼に対してあまり良い印象はない。
ただ、彼自身その事に対して全く気にしていないどころか、友人というか悪友の様な立ち位置が定着してしまい、しょっちゅう一緒にいる。彼を独占したい私達からしたら、全身機械仕掛けのあの男は少々邪魔くさい。
――なんて、束縛する真似はしないけどね。
彼の少ない自由をこれ以上奪ってしまうのは可愛そうだ。ただでさえ、恋人が10人もいて自分の時間を取れないのだから。
まあ、そう仕向けたのは私だけど――
「怖じ気づいたなら後ろに居て下さい。迷惑です」
「おうおう! 団長さんがいないからって張り切ってんのか? お前じゃ役不足だぜ?」
「そんなの分かり切っています! それを言うならマキナが百人、いや千人いたとしてもお兄さん一人分にもならないでしょうが」
「あん? 言ってくれるじゃねぇか? 泣かすぞコラ?」
「返り討ちに遭いたくなければやめた方がいいですよ?」
そしてルカ君も何故かマキナと仲が良い。男からは好かれる性格なんだろうか・・・?
男の友情に対して全く理解がない私には、彼らのやり取りは喧嘩にしか見えない。もちろん、ケイジとルカ君が愛し合うのは理解出来るけど。それとはちょっとジャンルが違う。
「それに折角団長さんが用意してくれたってのに、試し切りしない訳にはいかねぇだろ?」
そう言っては肩に担いでいる長柄の斧を見せびらかす。斧じゃなくてハルバード、って言うんだっけ?
武器には詳しくないけど、長さ2メートル程のアダマンタイト製のその武器を、マキナはかなり気に入っている様だ。
「・・・そうですね。僕もお兄さんが用意してくれたこの刀で活躍しないと」
ルカ君も刀身がやや長めの刀、『太刀』をうっとりとした表情で見つめる。
ケイジは彼らの新しい武器として、ルカ君には刀を、マキナにはハルバードを用意していた。まだそれを扱う訓練をしていなかったので、前の作戦では渡していなかったが、ミスターコマンダーが持って来てくれたのだ。
初めて使う武器という不安はあるが、これが良い方向に傾く結果となればいいが。
『準備は出来ている様だな』
ミスターコマンダーの声。振り返ると、ガーディアンを操作している彼の姿があった。オリハルコンで出来た青く、彫刻の様な体。そして手には彼に与えたオリハルコン製の刀が握られていた。
「ミスターコマンダーも準備万端ね」
『肯定。今回は一切出し惜しみはしない』
前の作戦で痛い目を見たからか、彼は開幕からガーディアンを出撃させると同時に、上空を指さす。雲が存在しない真っ黒な星空に視線を向けると、そこには母艦が、『ノアの箱舟』があった。
あれを戦場に持ち出すのは、ファーストコンタクトの時とアメリカの大規模襲撃があった時の2回のみ。つまり余程の緊急事態でしか使わないという事だ。
ガーディアン、母艦の出撃。それらから、オートマタが今回の作戦における本気度の高さが伺える。
それもそのはずだ。もし負けてしまえば、母星が奪われるどころか、オリハルコンが爆発してしまえば何もかもが消えてなくなってしまうのだから。
一つの種族の存亡が懸かった戦い。誰もが負けられない戦いが今始まる。
「惑星マザー防衛作戦、始めましょうか」
惑星マザーでの大規模戦闘が今、幕を開けた。




