154.プライドオブヴァルキリー
極限の集中状態。迫りくるベヒーモス、そしてゴライアスの群れを次々と葬る。飛び掛かっては急所を撃つだけだが、簡単に倒せると分かると、戦車型がただの大きい的に見えて楽しくなってしまった。
「ウヒッ」
また変な笑いが漏れる。
――こんなのケイジ殿に見られたらドン引きされるであります・・・。
ランナーズハイ、ではないけど、今まで強いと思っていた相手を容易く葬れるのは、自分が強くなった気がして楽しい。アニーも同じなのか、ベヒーモスを次々と倒すその姿はいつもより活き活きしている気がする。
それに、ベヒーモスの相手はアニーの方が向いている様だ。であれば私はゴライアスの相手を中心にしよう。
一番近くにいた個体に接近し、振り回される剛腕に気を付けながら、その醜悪な顔面に弾丸をプレゼントする。岩の様な肌を貫くには密着する必要があるが、鈍重なゴライアスに捕まる程私は鈍くはない。意外だと思われるかもしれないが、運動神経は良い方だ。
1体を倒すのに要する時間は30秒。100体を倒すともなると、およそ1時間も掛からずに殲滅できるだろう。順調にいけば、だけど。
それに森の奥から迫る巨大な新型オメガにも注意しておかなければならない。新型がいる時は順調に事が進んだ試しがないからだ。
今の内に、出来るだけ多く倒しておかないと――
ペースを上げようと、トウテツの因子を更に活性化させる。
「まだまだ、速くなれるはず――」
彼はもっと速かった。私では再現できない程に。だとしても、努力をしてこなかった訳ではない。追い付きたい、その一心を胸に秘めて。
増幅された力が、脚の筋肉を膨張させる。凝縮された力を解放する様に大地を蹴ると、一瞬で凄まじい速度に達し、離れていたゴライアスの顔面に到着した。
空かさず顔面に十数発の弾丸をお見舞いし、そのままアニーがやっていた様に、ゴライアスの顔面を足場に他の個体に向かって飛び掛かる。それらの一連の動作をひたすらに繰り返し、私はあっという間にゴライアスの群れの駆除した。
「――これがヴァルキリーの力であります!」
その締めの言葉と同時に最後の個体を倒す。アニーも既にベヒーモスを一掃しているのを見るに、私達二人で戦車型の殲滅に成功したのだ。
「い、生きてる~」
アニーが大の字に地面に倒れながら言う。正直、今にも倒れてしまいそうな程、私も疲労を感じている。すぐにでもベッドで横になりたい気持ちを抑え、通信を接続してケイシーとメアリーの安否を確認する。
「2人共大丈夫でありますか!?」
『問題ないッス。今メアリーとそっちに向かっている最中ッス!』
『欲求不満。斬る相手欲しい』
「あ、えとぉ・・・こっちも殲滅しちゃったであります・・・」
『・・・欲求不満』
と、とりあえず二人も大丈夫そうなのは良かった。若干メアリーが変な意味で心配だけど。
ただ、精霊魔法を温存出来たのは非常に良い状況と言えるだろう。これから対処しなければならない新型がどんな力を有しているのか分からない以上、こちらの手札は1枚でも多い方が良い。
「お~い!」
森の奥からゆっくりと迫っているその正体に視線を向けていると、背後からケイシーの声が。振り返ると、二人がこっちに向かって走っていた。
「ケイシー! メアリー!」
二人の様子を見ると、特に怪我をしている様には見えない。ただ、二人も私達と同じ様に疲労しているのが見て取れる。私達にはまだ精霊魔法が有効に使える様、新型を誘導する役目がある。直接戦う訳ではないが、もし新型と戦ってしまえば、きっとあっさりとやられてしまうだろう。やはり精霊魔法を頼りにする他ない。
お互いに無事を確認して抱き合っていると、背後から気配がした。
――バキバキッ
すぐ背後にある木が倒れる音。遂に新型とご対面かと、その姿を捉えると、身の毛がよだつ思いをする羽目になった。
私はヘビやカエルといった生物が非常に苦手だ。木々をなぎ倒して露わになったその姿は、まさにヘビそのものだった。ただ、普通のヘビと違うのは、その圧倒的なサイズ。私を軽く丸呑み出来るだけの頭部。
そしてその数が一つだけではないのが問題だ。一つ、二つ――四つ。四つの黒いヘビの頭に、八つの眼光がこちらを見据えていた。
フシュルルルルル――
長い舌を出し威嚇するその姿、ではなく嫌悪感のせいで私が全身に鳥肌が立つのを感じると同時に、ヘビのその大きな口が開く。
グアルルルルルッ――
咆哮。そしてその口から紫色のガスが噴射される。見た目からして毒ガスだが、そんな優しいものではなかった。ガスに触れた草木が朽ちて溶けていく。
「毒、じゃなくて酸のガスでありますか!?」
毒で苦しむのも、酸で溶かされるのも絶対に嫌だ。
「に、逃げるッス~!」
先程みんなに言われたのを忘れたのか、ケイシーが真っ先に逃げ出す。その速さはピカイチだ。さすがケイシー。
「に、逃げるであります!」
折角前線まで駆け付けてくれたケイシーとメアリーには申し訳ないけど、アールヴが控えている拠点付近まで走って戻る必要がある。そうしなければ、無残な死を遂げてしまう。
私達は全力で後方に向かって走る。敵に背を向けるのも、尻尾を巻いて逃げるのも、カッコ悪いけど慣れっこだ。逃げるのは恥だけど、役に立つ。それにこれは飽くまで敵を誘導する為の行動。ただ逃げているだけではない。
「敵前逃亡。世が世なら打ち首」
「ならメアリーは戦ってもいいよ~」
「一人一つの首を切り落とせば倒せるッス!」
「みんな状況分かってるでありますか!?」
背後から迫る4つの首それぞれが私達に噛みつこうとその長い首を必死に伸ばしている。全力で走っているにも関わらず、距離を離す事が出来ない。
そんな状況なのにふざけられるみんなの余裕っぷりに、私は驚愕し、安堵もするが、正直――
――もっと危機感を持って欲しいであります!




