151.ケイシー・ケリー
アイルランドのしがない酪農家の娘。それがウチだった。小さい頃から農業に携わっていた為、同世代と遊ぶ機会もほとんどなく、友達と呼べる友達は牛とヤギと牧羊犬ぐらいだった。
そんな私が防衛軍に召集されたのは17歳の誕生日を迎えた数日後。3度目の強制召集が大々的に発表され、アンドロイドに誘拐された日の事は今でも覚えている。
突然の家族との別れは悲しかったが、そこで出会った同期達のおかげで寂しくはなかった。今では心を許せる、初めて出来た親友と呼べる存在。
アンジー、アニー、メアリー――
彼女達と過ごした軍での生活は掛け替えのないものになった。もちろん辛い事も、怖い事も、痛い事も経験したけど、それでも充実した毎日だった。
楽しい日々が続いていたが、問題が発生した。当時活躍していた英雄と称されていた騎士の死亡、アンラ・マンユの出現。そのせいで当時の作戦における死者数は急激に増え、非常に厳しい状況が1か月も続く。
そしてアールヴヘイムへの出撃命令が下される。みんながいればいつも通り切り抜けられると信じていたけど、その戦場は地獄の様な光景になった。10体のアンラ・マンユによる襲撃。いつもとは違い、大群ではなく数だけでいえば最少での襲撃だったにも関わらず、苦戦を強いられた。
いつもアンラ・マンユが現れた時は大人数で集中砲火を浴びせる事で撃破していたが、複数のアンラ・マンユのせいで前線は混乱してしまい、接近を許す事となる。その時、死が目の前に迫っている事を理解し、体が竦んで何も出来なかった。
だが、その時に颯爽と現れたのが、騎士と呼ばれていた彼。ケイジさんだ。アンラ・マンユを瞬殺し、私達を救ってくれた瞬間、不覚にも惚れてしまった。初恋だった。単純とバカにされてしまうかもしれないが、命の危機に救ってくれた彼に心を奪われたのだ。
それは私だけではなかった。メアリーは彼を崇拝し、アニーの視線も彼を追い掛ける様になっていた。アンジーは表には出さなかったけど、前から彼に行為を抱いていたのはみんな知っている。親友が先に好きになった相手を好きになるのはダメだと頭では理解していた。
でも、ダメだダメだと思えば思う程、どんどん彼を好きになってしまっていた。そんな自分に嫌悪感を抱き、ずっと彼への想いを隠していた。
そんな私にチャンスが巡ってきた。ミカエラさんからの呼び出し。その理由が分からないまま部屋に訪れると、彼との夜伽を許可される。夢かと思ったが、突如舞い降りたこの機会を逃す訳にはいかないと、メアリーに続いてアニーと彼に懇願していた。
遅れてアンジーが続き、全員を受け入れられた事に安堵した。それが普通ではないのは分かっている。元々彼には想い人が複数いる事も分かっていた。不純と思われるかもしれない。
それでも、親友と一緒にいられる事、喧嘩せずに済んだ事、自分の初恋が叶った事、それらに比べれば世間一般の常識なんてどうでもよかった。
私の、私達の幸せの為なら、この結果が最善だったと思うから。ミカエラさんとクーナさん、イザベラさんとメイシャさんには申し訳ないけど、お裾分けしてもらったのが本当に嬉しかった。
そして彼の体温を感じられる喜び。その為なら、私は死地に飛び込むのだって怖くはない。
友の為に眼前に迫るトウテツの群れを処理しなければならない。右手に持った銃を強く握り、足を動かす。
「ウチの親友に手を出すのも! ウチの彼氏を悲しませるのも! 絶対に! 絶対に許さないッス!」
トウテツの隙間を縫う様に走り抜け、群れの中心で回転しながら銃を乱射して一気に数を削る。私はヴァルキリー部隊の中で一番走るのが器用だ。これぐらい御茶の子さいさい。
それに弾丸が勿体ないが気もするが、今回はたくさん持って来たおかげで余裕がある。こちらに気付いた敵をさっさと殲滅し、1秒でも早く救援に行くのを優先する為に無茶な戦い方を選択する。
数十、数百のトウテツを駆除したところで、防壁を目指している斥候型の群れの中にいたバステトに気付かれ、また数百を超える数がこちらに向かってくるの目視する。
残段数も残り3分の2。その群れを駆除するのは問題ないが、これ以上他の個体に気付かれれば、アンジー達の救援に駆け付ける前に弾が切れてしまう可能性がある。
そうならない様、一度戦線を離脱し、距離を取る。こちらに向かってきた少数のみを駆除する事にした。
迫るバステトの群れ正面に捉え、バック走で後退。そのまま射撃を行う。時折背後を確認しながら、射撃を続けるだけで、あっという間に群れの駆除に成功する。
――やっぱり、広いところを走るのは気持ち良いッス。下が土なのも最高ッス。
故郷のアイルランドを思い出しつつ、残弾数を確認。約千発。針状で弾丸が軽く、強化された体のおかげで重さを感じないからもっと少ないと思ったけど、意外と残す事が出来た。これならそのまま救援に向かうべきだろう。
輸送船に戻って弾丸を補充するのも考えたが、そのまま進む事にした。
「こちらケイシーッス! 群れを処理したからそっちに向かうッス!」
『ケイシー。なるはやで来て』
通信で先に進んだアンジー達に告げると、メアリーからの救援要請が。
「メアリー! 大丈夫ッスか!? メアリー? メアリー!?」
だが、それ以降返事がなかった。もしかしたら急を要する非常事態に陥っているのかもしれない。
「待ってるッス! すぐに行くッス!」
――どうか、どうか無事でいてくれッス!




