150.戦乙女作戦2
ケイシーとメアリーの足止めのおかげで、無事に私とアニーは敵陣の後方、防壁へと向かっている戦車型の群れの元に辿り着いた。
群れが森を抜け、ちょうど平原に差し迫った瞬間だった為、タイミングは最高だった。だが、森の奥から、木々をなぎ倒して迫る巨大な土煙。
アレが、今回の新型オメガだろう。おそらく災害級オメガ、怪獣ガイアの四足歩行バージョンのサイズ感かもしれない。戦車型を上回る巨大さなのは明らかだ。
その正体を確かめたい思いもあるが、今はアレが戦場に訪れるよりも前に戦車型の群れを誘導し、精霊魔法で仕留めなければならない。
――いや、あの巨大な新型に精霊魔法を使うべきだろう。
となると、戦車型の群れは私達で倒してしまった方が、作戦の成功率は格段に上がるはずだ。
――リスクを冒してでも作戦の成功率を上げるべきか、安全策を取るべきか・・・。
彼ならば前者を選ぶ。今まで一人で無茶をし続けた彼をみんなが責めたが、実際に指揮を執る立場になると分かる。少しでも作戦の成功率を高くする為に最善の選択をしなければと焦燥してしまう気持ちが。
そして例え自分が危険な目に遭う事になっても、後ろで戦っている人達のリスクを抑えられる事に安心感を抱いてしまうという矛盾。自分は危険な状況に陥る可能性があるが、安心してしまう。
――彼は一人で、ずっとこの矛盾と戦ってきていたのだ。
それを知らずに彼に従っていただけの自分が恥ずかしくなる。同時に彼を知れたという嬉しさが込み上げ、今後は真の意味で彼を支えられる様に自分のすべき事が分かった気がした。
「アニー。これから無茶をする事になるけど、一緒に来るでありますか?」
「ん~、どうしようかな~?」
「えぇ!?」
きっとアニーなら付いてきてくれると思っていたのに、まさかの返しに驚いてしまう。
「冗談冗談、いいよ~。・・・こんな時ぐらい本気出さないと、ね」
鋭い眼光で前方に視線を向けるアニーの迫力に、固唾を飲みこんでしまう。今まで怠け、サボる事ばかり考えていた彼女が、本気で戦おうとしている。その強さは未知数だが、こんなにも頼りになる親友だとは思ってもみなかった。
「あ、でも~。私そんな強くないからちゃんと守ってね~」
「さっきの迫力はどこに行ってしまったでありますか!?」
一瞬でいつものアニーに戻ってしまう。それにあまりにも頼りない発言。最後までアニーを残してしまったのは失敗だったかもしれない。
でも彼女が今まで怪我する所を見た事がないのを思い出す。多分、危険を察知する能力が高いのだろう。今はその才能を信じるしかない。
2人で戦車型の群れを仕留める。合計200体。残弾数は2千以上ある。アニーも同じくらいの弾が残っている為、うまく立ち回ればやり切れない数ではない。
ただ、戦車型をあまり相手にしてこなかった私達には経験値が少ない。ケイジ殿が気を遣って、戦車型の相手は自分か重装兵にさせていたからだ。私達の火力では、戦車型を倒すには密着する必要がある。つまりかなりのリスクを覚悟しなければならない。
適材適所。そう言えば聞こえはいいが、苦手分野からただ逃げていただけに過ぎない。ケイジ殿に進言し、何度か戦わせてもらえば良かったのだ。そうすれば、きっと危なくなったら助けるという条件付きで了承してくれただろう。
それすらもせずに、ただ考える事も行動する事も放棄していたのは、他でもない私自身だ。だからこそ、経験不足だからという理由で逃げ出す訳にはいかない。
だからこそ――
「――戦車型を殲滅するであります!」
自分に言い聞かせる様に叫ぶ――
過去の過ちを払拭する為に走る――
彼に認められたいが故に戦う――
「最大の敵に挑むヴァルキリー。その4人の英雄を、アールヴは永遠に忘れないだろう~」
「変なナレーションするなであります! それだと生還出来ずに散ってしまったみたいであります!」
――アニーのせいで締まらない感じになってしまったであります!
まあ、これがヴァルキリー部隊って言ったらその通りなのだが。先程から覚悟を決める度に圧し折ってくる彼女に文句を言いたい気持ちを堪えて、近くにいるベヒーモスに視線を向ける。
倒し方なら知っている。何度も見てきたから。その動きを再現する為、ベヒーモスの側頭部に飛びつく。そして首に銃口を向け、骨格の隙間を縫う様に射撃し、脳を直接破壊する。彼がいつもしていた様に。
倒れるベヒーモスの下敷きにならない様に後退すると、ベヒーモスの上に乗り、同じ様にアニーがベヒーモスを仕留めているのが見えた。彼女はそのまま絶命したベヒーモスの上を駆け、跳び、他のベヒーモスの上に乗っては仕留めていく。
あまりの手際の良さに感嘆してしまう。やはり、彼女は強い。その喋り方や仕草、やる気の無さから普段は頼りないが、本気を出した彼女がここまで頼りになるとは思ってもみなかった。
――私も負けていられない。
こちらの存在に気付いたゴライアスが、その剛腕を振り下ろしてくるのを避け、その太い腕を伝って巨大な体を駆け上がる。高さ20メートルに位置するその顔面まで登り、岩の肌みたいなその眉間に銃口を押し付ける。
バララララララッ!――
十数発の弾丸でそのゴリラの様な顔をハチの巣にすると、あっさりと絶命して後ろに倒れ、ベヒーモスを下敷きにする。その巨躯から飛び降りると、足に衝撃が走りジンジンと熱を帯びるのを感じるが、痛みはない。
普段なら怖くてあの高さから飛び降りる様な真似はしないが、全く問題がない事が分かり、ふと疑問を抱いた。
適合者としての手術。オメガ因子の結合。それらは、私が思っているよりもこの肉体を強靭にしていた。つまり、私は私が思っているよりも強いのかもしれない。
自信と一緒に全能感が湧く。油断したり調子に乗ったりする訳ではないが、今まで脅威に見えていた戦車型の群れ。それが今では、ただ大きいだけの的にしか見えなくなっていた。
「ふへっ」
変な笑いが漏れてしまった。が、気が付けば私は次の敵に向かって走り出していた。
鎧袖一触、次々と敵を倒す。その過程で、私は何も考えていなかった。無意識の内に、敵を殲滅しようと体が動く。
人はそれをゾーンと呼ぶ事を、後で知った。




