149.戦乙女作戦
主力部隊は飽くまでアールヴの前衛部隊と射撃部隊。私達の部隊は遊撃に徹し、時間を稼ぐのが役割。そしてクーナ殿率いる後衛部隊が詠唱している精霊魔法が鍵となる。
役割を果たす為、誤射されない様に防壁沿いを駆けて敵陣の側面へ移動。中心部から離れ、トウテツとバステトが少なくなった位置で防壁から飛び降りる。
幾度となく改良され続けた私達用に造られたサブマシンガン型の銃。片手で撃てるように軽量化され、反動も少なく、装填出来る弾薬も200発と多い。原型はサブマシンガンみたいだが、火薬ではなく電気エネルギーを使って細長い針状の弾丸を射出する。
弾丸が細い分、射程距離が短いが、逆を言えば貫通力が凄まじい。密着すれば戦車型さえ葬れるポテンシャルがある。今回の戦場で多くを占める斥候型が相手なら、弱点を狙えば簡単に倒せる。それにバエルも頭部と胸部、腹部を撃てば倒すのは難しくない。
マガジンだっていつもの数倍、20本持っている。脚部と腰のホルダーに入れられるだけ入れた。合計で3千発以上の弾丸掛ける4人。1万発以上の弾丸がある訳だ。メアリーだけはそれに加えて細剣を持っているが。
フルオートで撃ってしまえば、秒間40発なので5秒で無くなってしまう。無駄撃ちすればあっという間に弾切れになる為、セミオートにして確実に弱点を狙う。
「まずは周囲の安全の確保っ!」
周囲のトウテツとバステトの眉間を撃ち抜き、安全を確保。そのまま敵陣の側面を走り抜ける。道中、鼻の利くトウテツが群れを成して私達を追いかけてくるのに気付いた。
「アンジー達は先に行くッス! ここはウチが食い止めるッス!」
ケイシーが足を止め、トウテツの群れに立ち向かうが、ぱっと見ただけでもトウテツの数は数百体はいる。戦闘が始まれば、音を聞きつけた他のトウテツとバステトが寄ってくるだろう。走り続けながらなら処理できない数ではないが、私達の元に来させない為、彼女はその場で食い止めようとしていた。
「ケイシーッ! 一人じゃ危険であります!」
「いいから行くッス! 大丈夫ッスよ。こんな雑魚にやられる様じゃ、騎士団失格ッスから!」
そう言って、ケイシーは群れを引き付ける為に銃を撃ちながら走り出した。
「ウチが死ぬ前に戻ってきてくれるとありがたいッス!」
ふざけているのか、本気で言っているのかは分からなかったが、彼女の覚悟を無駄にする訳にはいかない。
「・・・作戦継続であります!」
ケイシーを残すのは不安だが、ここで立ち止まる訳にはいかない。そんな私の不安を悟ったのか、アニーが私の肩に手を置く。
「心配しなくても大丈夫よ~。ケイシーは私達の中で一番逃げ足が速いんだから~」
「・・・そうでありますな」
ケイシー逃げ足はピカイチだ。そう簡単にトウテツに追い付かれる訳がない。
『聞こえてるッスよ! 通信が繋がったままなの忘れたんッスか!?』
「わざとよ~」
『余計にひどいッス!?』
軽口を叩くぐらいの余裕はある様だ。つまり、ケイシーもここでくたばるつもりはないという事。彼女なりの算段があると理解する。
「派手に散っても大丈夫。骨は拾う」
『メアリーもひどいッス!?』
私と同じで、ここが墓場だと考えている訳ではない事に安心する。であれば、ここは彼女に任せて私達は当初の役割に専念すべきだ。
「みんな、行くであります。ケイシーの犠牲を無駄にしない為にも」
『それだともう死んでるッス!? アンジーまでひどいッス・・・』
落ち込んだフリをする彼女に、最期に一言だけ伝える。
「ケイシー。背中は任せたであります」
『・・・お任せ下さいッス!』
背後から聞こえる銃声に心強さを感じつつ、私達は進む。ここで止まるのは彼女の善意に背く事になってしまうから。今はただ、進み続けるのだ。
再度行進を始めたところ、斥候型の群れが途切れ、その後方に戦車型の群れを発見。だが、群れ同士の間に不自然な途切れ目がある。それはつまり――
「バエルの群れ」
メアリーが呟く。そう、それはバエルの群れがいる証拠。オメガ同士交信でもしているのか、戦車型が踏み潰してしまう事はない様だ。500体のバエルの群れ。それを相手にするべきか、無視するべきか悩む。
無視した場合、挟み撃ちにされる危険がある。それに相手にした場合は、安全の為に2人で対処すべきだ。ここで戦力を裂くべきかと考えるが、答えが出ずに悩んでしまう。
「ここは私が」
だが、メアリーが立ち上がった。たった一人であの群れに立ち向かおうというのか。あまりにも無謀だと止めようとするも、彼女は鼻で笑った。
「ケイシーが言っていた。こんな雑魚にやられる様では、騎士団失格だと」
ケイジ殿を真似て、いつも腰に剣を刺していたメアリー。それを抜いたのは一度も見た事がなかった。だが今、それを鞘から引き抜く。黒い刀身がその姿を現す。
――アダマンタイトの剣・・・?
普通の剣だと思っていたが、まさかアダマンタイト製だとは思わなかった。一体いつの間にそんなものを用意したのだろうか。
「私は、騎士様の為に己が価値を示す」
右手に剣を、左手に銃を持った彼女は、透明なバエルの群れに向かって突っ込む。バイザーにはソナー機能が備わっている。バエルを相手取るには問題ないが、問題はその数。たった一人で500体を相手に出来るとは思えない。
心配する私とは反対に、アニーが戦車型に向かって走り出す。
「早く行くよ~」
「でもメアリーが――」
「大丈夫。憧れの団長ちゃんに死に物狂いで特訓してもらったんだから。メアリーならやれる」
いつも語尾を伸ばして気怠そうに喋るアニーが、真面目な声で喋るのを初めて聞いた。彼女はメアリーを信頼しているのか、全く心配する様子を見せない。ならば、私も信じてあげるべきだ。
「それにすぐケイシーが手伝いに来てくれるから~」
「・・・そうでありますな」
心配するのではなく、信頼しよう。私達は数年間、戦場を駆け回ってきたのだ。今回は少しばかり敵の数多いだけで、いつもと変わらない。引き際だって理解している。
――背中は任せたであります。
ただ、前を向いて進もう。それが私に出来る唯一の信頼の証明だ。




