147.不純な動機
今回の作戦では防衛軍の全部隊が出撃する。一般兵2千人の内の3割、600人をアールヴヘイムへ、残りの1400人が惑星マザーへ向かう事になった。
アールヴヘイムには200人程のアールヴがいる。それに調和魔法を最も効果的に使える環境だ。いざとなればユグドラシルもいる事から、少数で対応可能と考えた。騎士団の中で向かうのは私とヴァルキリー部隊のアンジェ達。
惑星マザーにはミカエラとイザベラにメイシャ、ルカにクララ。そしてマキナ率いる機械兵部隊5百人が。
戦力の配分としては問題ないだろう。ただ、コマンダーから告げられた新型オメガがいるという情報が気がかりだ。つい昨日にも新型が現れたというのに。いや、おそらく今回の新型は前々から生み出されていたのだろう。この日の為に――
輸送船に乗り、アールヴヘイムに着いた時には既に戦闘が始まっていた。機体の両脇から開いたハッチから戦況を眺めるが、オメガの動き出しが早い。出撃するまでに少し遅れたとはいえ、いつもに比べて早いと感じる。いや、早過ぎる。
ユグドラシルへと続く平原がオメガの大群で染まっていた。アールヴの前衛部隊が調和魔法で対抗し、後衛部隊が精霊魔法を放つ。その連携で何とか抑えているが、圧倒的な数の敵を前に天秤はやや敗北に傾いている様に見える。
「うぅ。もの凄い数であります・・・」
「ああ・・・」
アンジェが不安の声を漏らす。それも仕方がない。今まで戦った数の数倍の戦力。それがアールヴヘイムだけではなく、惑星マザーにも襲い掛かっているのだ。
その数はおよそ10万。斥候型はトウテツ、バステトが4万ずつにバジリスクが1万。特攻型のバエルが500。戦車型はベヒーモスとゴライアスが100ずつ。そして新型が1体。
厄介な事に戦車型とバエルの数が多い。ベリアルがいないのだけは幸いか。あれがいたらオリハルコンの武器が必要になってしまう。ケイジかガーディアンがいなければ倒せないが、今回はその心配はない。
「もし死ぬなら都会よりも自然に満ち溢れたこの場所の方が良いッス・・・」
「ちょっとケイシ~。本当にそうなったらどうするの~?」
「ご、ごめんッス」
ケイシーの不穏な発言にアニーが釘を刺す。地球ではコトダマというものがある。口にすると実現してしまうというものだ。
「死ぬには絶好の場所。世界樹ユグドラシル・・・絶景なり」
「メアリーもやめるであります!」
緊張感のないヴァルキリー達のおかげで、私の緊張も和らぐ。そうだ、ガチガチに緊張したところで、動きが悪くなるだけだ。
――いつも通りが一番。ケイジならそう言うだろう。
「もし死ぬなら、私はケイジの腕の中がいい」
「クーナ殿までぇ・・・。でも、その通りであります! ケイジ殿が目覚めた時に私達が死んでいたら悲しむであります。だから――」
先程までの情けない顔が嘘の様に晴れ、アンジェの目に覚悟の炎が宿る。
「こんな所で絶対に死ねないであります!」
その意志に、ケイシーとメアリーも感化される。
「そうッスね! それにウチ、まだまだケイジさんに抱かれたいッス!」
「全く、欲望に忠実ね~。でも、その点に関しては私も同じかな~」
「騎士様の完璧な肉体美。また味わいたい」
――・・・動機は不純だが、それでもまあ良しとしよう。
「うちの部隊が申し訳ないであります・・・」
便乗しなかったアンジェが恥ずかしそうに謝罪する。生きる気概があるなら構わないさ。
ユグドラシルの麓に着陸した私達の元に、アールヴの一人が駆け寄ってくる。
「クーナ様! お待ちしておりました」
「すまない、待たせてしまったな。よく持ちこたえてくれた」
戦況はやや劣勢だ。だが、ここから巻き返してみせる。その為に600人以上も仲間を連れてやってきたのだ。
「アンジェ。私は精霊魔法の準備に取り掛かる。前線に参加して指揮を執ってくれ」
「わ、私がっ!?」
「そうだ。重役だが、アンジェならやり遂げられるさ」
「せ、責任重大であります・・・」
今まで一度も指揮を執った事がないから無理もない。だが、そうも言っていられない状況だ。無論、私が前線に赴いて指揮を執るという選択肢もあるが、戦車型と新型に対抗する為に、精霊魔法が必要になるだろう。
そしてもし精霊魔法が通用しなかった時に備えて、いつでもユグドラシルの力を使う準備をしておく必要がある。そう考えたら、アンジェに任せるのが一番だ。
「大丈夫だ。ケイジと同じ様にやってみるんだ」
「ケイジ殿と同じ様に・・・。分かったであります! 不肖アンジェ、指揮を執るであります! ここで退いては、私を受け入れてくれたケイジ殿に顔向け出来ないであります!」
もっとごねるかと思ったが、アンジェはすぐにやる気を出してくれた。彼女とも3年程の付き合いになるが、出会った頃に比べればかなり成長している。
――これが短命種の成長速度か。
ケイジも出会った時は私よりも小さかったのに、気付けば見上げないといけない程大きくなった事を思い出すと、少しだけ寂しい気持ちになってしまう。子供が大人になってしまう様な感覚に近いのだろうか? いや、自分が歳をとったと実感してしまうのが嫌なのかもしれない。
良い事のはずが、何となく嫌な気持ちになってしまう矛盾でモヤモヤしてしまうが、それは今は置いておこう。
「では頼んだぞ」
「はい!」
元気よく返事したアンジェが600人の兵士を連れて前線に向かう。彼女が自分の成すべき事を成しに行ったのだ。
「アンジェ。お前はお前が思うよりずっと強い」
彼女の背中を見ながら呟く。自身を過小評価している彼女だが、その能力は決して低くはない。ただ、彼女自身がそのポテンシャルを理解していないだけだ。これを機に、殻を破ってくれればいいが。
彼女に期待を寄せつつ、自分のやるべき事を思い返す。私も自分の仕事を全うしよう。私達がケイジに頼ってばかりの弱い女だと思うなよ。最愛の人を苦しめるオメガという存在に、全ての怒りをぶつけるとしよう。
――これから貴様らにするのは全部、ただの八つ当たりだ。




