143.ジャガーノート
堪えてきたこの4年間の事を、全部吐き出したかった。
――全部、全部全部全部っ!
日本に帰って和食が食べたい。顔を忘れてしまった家族に会いたい。母さんの手料理が食べたい。中学の時の友達と遊びたい。映画を見たい。ゲームもしたい。休みの日に昼まで寝てたい。バラエティ番組を見て笑いたい。ダラダラと動画を見たり、ネットサーフィンだってしたい。高校生として普通を過ごしたかった。何も考えずに、何の責任も負わずに過ごしたい。
やりたい事、やりたかった事なんていくらでもある。
でもそんな風に逃げ出してしまえば、きっと家族に顔向けできない。帰ったところで中学の友達だって、みんな遠い大学に通ったり就職しているから会えないだろう。今活躍してい芸能人も知らない。最近の歌なんて一つも知らない。高校生になんて戻れやしない。
分かってる。今ここで全てを投げ出して逃げても、オメガに全て滅ぼされて終わりを迎えるだけだろう。
日本も滅びて、家族も死んで、友達とも遊べなくて。
そして愛しているミカエラとも、クーナさんとも、イザベラとも、メイシャとも、クララとも、ルカとも、アンジェとも、アニーとも、ケイシーとも、メアリーとも会えなくなってしまう。
コマンダーとマキナともだ。
――そんなのもっと嫌だ。
やりたい事はある。痛いのも怖いのも嫌だから逃げたい。
でも、戦わないといけない理由の方が、もっと大きい。
「バカが・・・。なら、やる事は一つしかないだろうが」
ダモクレスの剣を使うか悩んでいるコマンダー。オレを慰めていたみんなも、モニターに映る水害の映像を見て意気消沈している。何としてでも、この絶望的な状況を打破しなければならない。
――また、みんなに怒られるだろうなぁ・・・。
オレはこっそりと部屋を抜け出し、ある場所に向かった。
ベリアルを倒して手に入れた能力。アダマンタイトを自由自在に操る力。それを手にした時、ある考えが浮かんだ。大量のアダマンタイトをその身に纏い、最強の鎧を造り出せないかと。
その計画はものの数秒考えただけでも、頓挫する事が目に見えていた。余っているアダマンタイトはそんなに多くないからだ。だが、この前完全体ベリアルを葬り、アダマンタイトに少しだけ余裕が出来た。
まだ渡していないが、ルカに刀を、マキナにはハルバードを造ってあげが、それでもまだまだ余っている。そしてその保管場所も、オレは知っている。
母艦内のかなり奥にある一室。『貴重資源保管庫』。過去に一度だけコマンダーと入った事がある。そこにはオートマタが今まで集めた希少価値の高い資源が眠っている。さすがにオリハルコンはないが、宇宙からかき集めたアダマンタイト、そして完全体ベリアルの死骸もそこにある。
本来であれば、そこはコマンダーにしか開けられない。オレですら好き勝手入る事すら許されない場所。だが、コマンダーよりも上位の権限を有している存在が一つだけある。それは――
「見てるんだろ、マザー。開けてくれ」
マザーだ。彼女(?)は母艦内の全てを把握している。コマンダー以上に。そんな彼女なら、今のこの状況も理解しているはずだ。ダモクレスの剣を使わなければいけない、この状況を。そして彼女自身もその事態を避けたいはず。
「アダマンタイトが必要なんだ」
オレの意図を理解してくれたのか、マザーが保管庫に通ずる扉を開けてくれた。
「ありがとう――」
そうして、大量のアダマンタイトをオレは手にする。その特性利用し、収縮させ、小さくした上でをポケットに入れる。
その後、すぐに転送室から水没してしまった戦地に舞い戻った。マザーに協力してもらい、空中に座標設定してもらったおかげでマンタオメガのはるか上空に転送される。
重力に従って落下しながら、小さくしていたアダマンタイトをポケットから取り出し、小型化を解除して元のサイズと重さに戻す。重量はおよそ5トン。それを溶かした金属の様に全身に流し込む。
ただ体に纏うのではなく、形状を変化させて巨大な鎧にする。アダマンタイト特有のその色を変えず、漆黒の鎧と化す。全身を鎧に身を包んだ巨人となり、黒い巨大なアダマントソードを手に持てば、黒騎士の出来上がりだ。
名づけるならブラックナイト、アダマントナイトと言った所か? いや、単純すぎるか。そうだな――
「ジャガーノート、とでも名付けようか」
意味は確か『巨大な力』だったはず。今のオレは、5メートル程の大きさをしている。名前負けしていないだろう。それと見た目にこだわってマントも用意した。騎士と言えばマントだろう。
漆黒のマントを靡かせながら、落下し、マンタオメガまで残り100メートルといったところで、向こうがオレに気付く。
先程も見た山をも包み込むサイズの水の玉を浮かべ、その一部を高速で射出してオレを迎え撃とうとする。ただの水と恐れることなかれ。バトルライフルの弾丸すら弾く威力だ。もしかしたらアダマンタイトの鎧すら貫いてくる可能性もある。
飛んできた水の弾を、空中で身を翻して避ける。アダマンタイトのマントを操作して、空気抵抗の向きをいじれば簡単に空中で姿勢制御できる。
一度目の攻撃でオレを仕留め切れなかったマンタオメガが、危機感を抱いたのか無数の弾を発射する。全てを避けようともがくが、下から昇り注いでくる雨みたいな弾幕を避け切れずに当たってしまうが、アダマンタイトの分厚い鎧を貫く事は出来ない。
このままヤツの攻撃を全て無力化しながら倒せないだろうかと楽観視するも、水の弾が効かないのも分かると、攻撃手段そのものを変えてきた。
それは水の弾、ではなく水の槍というべきだろうか。水を細く射出し、一点を貫く攻撃。腹部にそれを受けてしまい貫かれるが、細い分ダメージは少ない。すぐに再生したところで、マンタオメガの背中に着地する。
「悪いな。さっきは逃げたけど、こっから先は一方試合だ」
第2ラウンドのゴングが、今鳴らされた。




