140.寄生生物
黒いミサイルが怪獣の頭上から落ちてくるのが見えた。それは真っすぐ怪獣の頭部目掛けて飛来し、着弾すると同時に光を放つ。そして訪れるであろう衝撃に備えるも、一向にその気配はない。
「・・・あれ?」
視線を怪獣に向けると、コマンダーが急ピッチで造ったミサイルの爆発は、あらゆるものを吹き飛ばす、という訳ではないらしい。爆心地から黒い球体を現れ、全てを吸い込む様に爆発したのだ。
かつてクトゥルフが生み出したブラックホールに似ている気がする。半径20メートル程の爆発。それ以上大きくなる事無く、そのまま黒い球体は一瞬で小さくなって消滅する。
「なんだ今の・・・?」
『爆縮式ミサイル。簡単に言うとマイクロブラックホールを生成した』
「ばく、何だって?」
『瞬間的に空間内の物質を圧縮して破壊する爆発を起こしたのだ。小さなブラックホールを人工的に作りだした、と言えば分かりやすいだろう』
何言っているのか全然分からないが、機械のくせに人工的って言葉使うなよ。
ただ、その吸い込む爆発のおかげで、怪獣の血液が飛び散る事がなかったのは助かった。先に教えろよと、思わなくもないけど。
そして怪獣がどうなったのかと思い、視線を向けると、想像以上の成果を上げている事に気付く。胸から上、長い首と禍々しい見た目の頭部が綺麗さっぱり消えてなくなっていた。まるで、元々そこには何もなかったかの様に。
さすがにそこまでの損傷を与えれば、生物として生きる事は不可能だろう。予想通り、怪獣はそのまま絶命し、倒れる。その際に凄まじい衝撃と突風が発生し、砂浜にあった砂を大量に巻き上げて、辺り一帯が砂嵐が起きたのかと錯覚してしまう。
咄嗟に両腕のアダマンタイトを薄い膜状に展開し、みんなを砂から守る。このままでは砂まみれになってしまう。数秒で砂嵐は消え、腕を戻して辺りを確認すると、ビーチリゾートは元の姿を取り戻していた。怪獣の死骸がある事を除けば、だが。
結局、オレの攻撃でまともなダメージを与えられなかった怪獣の死骸を眺めつつ、最近の新型オメガについて考える。前回はベリアル。そして今回は巨大怪獣。この2体には共通点がある。それはオレの武器を完全に対策しているという事。
ベリアルはアダマントソードを無効化していた一方、今回の怪獣はオリハルコンの刀の対策をしていた。絶対的な攻撃力を誇るオリハルコンの刀。その切れ味を防ぐ事は出来ない。ならば体を大きくしてしまえばかすり傷で済むという単純かつ逆転の発想だ。
防がずに、ダメージを最小限にするという機転を利かせての対策。明らかに今日のオメガは賢くなっていると実感すると同時に、コマンダーがかなり昔に言っていた言葉を思い出した。
クトゥルフの登場から、オメガは複雑な命令をこなせる様に知能が上がっている。ただ、そのおかげで最終的にオメガのボスを見付ける手がかりを得られるかもしれないと。
だからオメガが賢くなる分には構わない。だが、こうも頻繁に対策を講じられてばかりいては、その内無敵のオメガが誕生してしまう恐れがあるのでは、と心配してしまう。
今後、こんな怪獣が再び現れた時、オレ達に出来る事はあるのだろうか? 今回はコマンダーの技術力でなんとかなったが、あの爆なんちゃらミサイルを毎回用意できる余裕があるのだろうか? あのサイズのオメガが標準となってしまえば、ちっぽけな人間に出来る事は少ない。
そういった方面で対策されてしまえば、はっきり言って詰むだろう。
――まあ、あんなオメガを毎度毎度造る余裕が、オメガのボスにあるとも考えづらい。
こちらが資源不足に苦しんでいるのだ。主にコマンダーが。きっと、オメガ側も同じ苦しみを味わっているはず。そう思わないとやってられない。
「後片付け頑張ってくれ」
オートマタに造られたアンドロイド達が時間を掛けて掃除するはずだ。怪獣の血液に溶かされ様に気を付けてくれと心の中で応援しつつ、帰還の為に停泊させていた輸送船に足を向けたその瞬間。
――ゴソッ
死んだはずの怪獣が動いた。気のせいかと思いたいが、五感が鋭くなったこの体が感知したのだ。気のせいである訳がない。
「総員、警戒態勢」
通信でみんなに警告すると、全員武器を構えて怪獣に視線を向ける。頭部を失ってもまだ死に絶えないのかと疑問を抱くが、すぐにそれは解消された。怪獣が動いたのではない。怪獣の背中に張り付いていた白い膜の様なものが体から剥がれたのだ。
先程背中を斬った際に、外皮が白くなっているところの血液が『青』ではなく、『緑』だったのを思い出す。あれは組織が異なったからそうなっていたのではない。そもそも違う生物だったのだ。
それが寄生生物なのか共生生物なのかは分からないが、怪獣が死んで初めて分離するという動きを見せた。もしかしてそれが本体で、怪獣の体を操っていただけなのかもしれないが、真相は分からない。ただ、戦いがまだ終わっていない事だけは確かだ。
白い膜状のオメガはエイ、というよりマンタに似ており、体は薄い。全身は白く、腹部からヒレの先端まで青いラインが入っており、マンタとは違った模様をしている。また長い尻尾が生えているが、揺れているだけで特に攻撃手段を持っている様には見えない。その外見から、一体どんな攻撃を仕掛けてくるのか全く想像できないのが厄介だ。
怪獣の体から離れたマンタオメガは空中を浮かんでおり、海の上まで移動すると腹部の青いラインが光を発する。
それと同時に海水がいくつもの球状になり、重力に逆らって空中を舞う。無重力空間では、液体が表面張力で球状になってしまうとテレビで見た事があるが、まさしくその光景と一致する。
「水を操るオメガ・・・」
ふと呟く。今までのオメガにその能力を持っているものはいなかった。クトゥルフのサイコキネシスなら似たような事は出来るかもしれないが、問題はその量。山の様なサイズの水の球体が、いくつもある。砂浜を見ると、引き潮みたいに水位が下がっているのが目に見える程だ。
それを陸地に落とすだけでも、相当な威力になるのは想像に難くない。そう考えるとその水量、質量を活かした攻撃。つまり高速での射出や津波といった攻撃をしてくるに違いない。指向性を持たせるだけでも、圧倒的な攻撃力になる。
――あんなのどうやって戦えばいいんだ・・・。
自然災害の塊とも言えるオメガを前に、オレは立ち尽くすしかなかった。




