139.熱線
刀による斬撃。オリハルコン製のこの刀に斬れない物はない。怪物の目蓋ごと、その青い眼球を斬り裂く。
とは言え、怪物の巨体に比べてしまうと刀身が2メートルの刀では表面しか斬れない。ならば何度も斬るしかない。空中で身を翻し、三度に渡る斬撃を眼球にお見舞いする。これでは妖刀三閃か。
まあ、これで右目の視界を奪えただろうと期待していると、怪獣が痛みによってもがき、短い前足を振り回す。運が悪く、ちょうど落下しているオレに直撃する位置で。
――これは痛いだろうな・・・。
激痛を覚悟し、怪獣の前足を受け入れる。オレの全身をも超える太さの前足に薙ぎ払われ、まるで子供に投げられた人形の様に吹き飛ばされ、ホテルの外壁に激突。外壁が凹み、そこに体がめり込む。
激痛を覚悟していたはずなのに、不思議な事に痛みを感じない。遅れてくる痛みが襲ってくるのかと待ち受けるが、痛みどころか体の感覚すらない事に気付く。
「ヤバい、脊髄やったかも・・・。体の感覚がない」
再生するまでしばらく動けそうにない為、みんなに報告したものの、コマンダーお手製爆弾までおそらく後2分程。オレの再生には1分程掛かると思う。
怪獣がオレを見失って時間が過ぎてくれと期待するも、左の青い瞳が完全にオレを捉えていた。非常にマズい状況だ。
オレの危機を悟り、マキナ達機械兵が一斉射撃して怪獣の気を引こうと立ち回るが、ヘイトは完全にオレに向いてしまっている。
虫みたいに、先程のオレの腕みたいに、怪獣によって叩き潰されてしまう運命なのかと考えていると、怪獣はオレに近付かずにその場で口を大きく開けていた。
「・・・マジ?」
先程怪獣の背中に突起物が無い為、熱線を吐く事はないと考察していた。日本人なら誰でも知っている某黒い怪獣の様に、背中にギザギザした鱗みたいな突起物がないか確認するだろう。偏見かもしれないが、それがないのに熱線を吐くなんて邪道だ。
だというのに、現在怪獣の口内、その奥から赤い光が放たれている。ビームみたいな熱線なのか、炎を吐くだけなのかは分からない。だが確かな事は、絶対に何かを吐き出そうとしている。
予想が的中し、怪獣の口から赤い球体が喉の奥から射出される。熱線ではなかったが、明らかに凄まじい熱を帯びているそれは、小さな太陽を彷彿とさせた。
それが今、オレに向かって真っすぐ飛んできている。アダマンタイトをも溶かす血液を有しているのだ。あの炎の球体にもアダマンタイトを容易に溶かす程の温度なのは確かだろう。
――アダマンタイト対策し過ぎじゃない・・・?
大怪我では済まないのを覚悟する。が、オレが愛した人達は諦めていない。
「坊や!」
イザベラがバトルライフルをオレに向けて発砲するのが見えた。飛んできた弾丸を目で追うと、ややオレから外れているのに気付く。ではどこに向かっているのかと言えば、それはオレの脇に着弾した。そしてホテルの外壁を抉ったおかげで壁にめり込んでいたオレの体が爆風で吹き飛ぶが、おかげで怪獣のブレスからは逃れられた。
ただ、宙を舞うオレはそのまま地面に激突するだろう。そう思っていたが、全力疾走しているアンジェの姿が見えた。
「ケイジ殿ぉぉおおおおっ!」
そしてオレをキャッチしてお姫様抱っこする。
「捕まえたであります!」
「・・・ありがとう、アンジェ。ただ恥ずかしいから下ろしてくれるともっとありがたいんだけど」
「ダメであります! まだ体が動かないのにバカな事言うなであります」
確かにその通りなんだけどさ、なんか口悪くない? 心を許してくれた証拠なのかもしれないが、恥ずかしくて死にそうだ。が、オレの意思が無視され、そのままみんなが退避した後方まで運ばれる。
「坊や、借り一つな」
「今夜返すよ・・・」
動けないのを良い事に、イザベラに頬を突かれる。借りはベッドの上で返すとして、まだまだ弱弱しいが、体に力が入る様になってきた。
アンジェに下ろしてもらい、自分の足で立ったところで、待ち望んでいた言葉が通信に届く。
『待たせた』
「遅いぞ。オレの左腕が紙みたいに薄くなっただろ」
『後でアダマンタイトを抽出する為に拾っておく』
「アダマンタイトの心配かよ・・・」
なんてヤツだ。オレの腕よりアダマンタイトの方を気に掛けていやがった。合理主義のコマンダーらしいが、ちょっとだけやるせない気持ちになった。ほんのちょっとだけ。
コマンダーが造ったという爆弾がどう登場するのかと疑問を抱いていると、はるか上空に光と煙の筋が見える。どうやらミサイルを転送し、そのまま着火させた様だ。
核弾頭並みの威力があるのではと心配するが、逃げる様言わないのでおそらく大丈夫だろう。ただ、怪獣の血液が飛散する可能性がある。
「みんな、酸の血液に注意して。ミカエラ、サイコキネシスでバリア張れる?」
「任せて」
サイコキネシスによる透明なバリアが展開されつつ、ソルジャーを盾にしてオレ達は凄まじい衝撃を発するである爆発に備える。




