136.ビーチ
マキナとの朝食を終えて超回復しながら部屋に戻ると、みんなが起きてシャワーを浴びたり着替えたり、シーツを洗濯したりしていた。その中でイザベラが寝起きだというのにビールを飲もうとしていたのを阻止する。頼むから朝から酒はやめてくれ。
最後の相手をしていたクーナさんの姿がないのに気付き、探してみるとソファの上でタオルケットに包まってまだ寝ていた。昨日というか、つい1時間前まで起きていたから仕方がない。それにとんでもないぐらい朝弱いからな、あの人。
オレも自分の体液が付着している寝具をさっさと綺麗にする。この後片づけ程虚しいものはない。
一通り綺麗にしたところで、みんなでコの字に置かれたソファで休憩する。
「やっと終わったであります・・・」
「お疲れさん」
あれだけの作業でうるさかった中、一切起きる気配を見せないクーナさんを膝枕しながら一服していると、ミカエラがみんなの為に作ったサンドイッチを持ってきてくれた。ホントに良く出来た子だ。オレなんかには勿体ないぐらい。
「そう言えばケイジ。クララちゃんとはどうだったの? ちゃんと出来た?」
オレの隣に座りながら、ミカエラが昨日の出来事について問う。みんなもやはり興味があるのか、聞き耳を立てている。相変わらずイザベラは興味なさそうだけど。
「それは問題なかったんだけど・・・」
「それは? 他に何かあったの?」
「実は・・・ルカともヤッた・・・」
「・・・え?」
衝撃の告白に、興味を示さなかったイザベラすら固まる。そりゃそうだ。恋人が同性と浮気したなんて言えば、誰だって驚く。
そのはずなのに、ミカエラだけは目をキラキラと輝かせていた。
「ケイジ。今から大事な質問をするわ」
「え、あ、うん・・・」
真剣な表情で問うミカエラ。彼女が発した言葉とは――
「どっちが『ウケ』だったの?」
真面目な顔でされた質問はクッソしょうもない内容だった。せめてどっちが『セメ』だったのか聞いて欲しかった。
オレは恥ずかしくなり、両手で顔を隠す。その仕草でミカエラが察した様だ。
「え? もしかしてケイジが?」
コクリ、と何も言わずに頷く。刹那――
「キャアアアアア!」
まるで推しのアイドルにでも会ったかの様な黄色い声をあげ、嬉しそうにオレを抱き締めて頭を撫でてくる。
「よくやったわケイジ!」
何がよくやったのか分からない。ただ一つだけ言える事は、オレが望んでそっちになった訳ではないという事だ。ルカが望んだからこそ、オレは応えただけなのだから。
今までこんなにも嬉しそうにはしゃぐミカエラを見た事があっただろうか? 記憶を辿らずとも分かる。一度たりともない。一体何が彼女をそんなにも喜ばせているのかは分からないが、ただイザベラから向けられてくる視線だけが痛かった。
「ミカエラの嬢ちゃんも変態だけど、坊やも相当だね。それも『ウケ』なんて」
「さすがです~」
「はぁ、騎士様・・・尊い・・・」
頼むからそれ以上何も言わないでほしい。オレの尊厳が無くなっていく。アンジェとケイシーは何の話をしているのか分からずポカンとしているが、アニーはミカエラと同じ様に楽しそうだった。お前もイケるクチなのか・・・。メアリーに関しては、おそらくオレが男すら受け入れる寛大な器を持っていると言いたげな目をしていた。
「アンジー、ウケとかセメって何の話ッスか?」
「私にも分からないであります・・・」
気にするな、お前達が正常なだけだ。オレ達の心が不純なだけさ・・・。
なんて平穏な一幕を破る様に、耳をつんざく『あの音』が鳴り響いた。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!――
今まで眠っていたはずのクーナさんが、けたたましい警報音を聞いて跳び起きる。
「オメガか!?」
それ以外に考えられないが、すぐにコマンダーに確認する。
『新型のオメガを確認した。場所はマイアミだ』
マイアミって聞いた事があるな。アメリカのビーチリゾートがあるところだっけ? 結構大きい街だったはず。ミカエラが前に行った事があるって言っていた気がする。
「久々の新型だな」
ベリアル以来だ。一体どんなオメガなんだろうか・・・。
オレ達は先程までのまったりとした雰囲気が嘘と思える程、真剣な表情で装備を身に付けている。新型オメガに痛い目を見せられるのは一度や二度じゃないから、自然と身が引き締まってしまうのも無理もない。
「よし、行こう!」
そうしてオレ達は完全武装した上で、輸送船に乗ってマイアミへと向かうのだった。
そこは10キロメートル以上も砂浜が続くリゾート地。いつか、みんなでこういった場所で遊んでみたいものだ。・・・いや、他の男にみんなの水着姿は見せたくないからプライベートビーチの方がいいか。
なんて妄想をしながら、いくつも並んでいるホテルの前の道路で海を眺める。サボっている訳ではない。今回は新型オメガという事もあり、作戦に参加しているのは騎士団、機械兵、ソルジャーだけだ。オレ達はもちろん、手慣れているマキナ達の準備なんてすぐに終わる。つまりもう迎撃準備万端って訳だ。
ルカと戦乙女部隊はホテルに民間人が残っていないか確認するのに走り回っているが。
「で、今回はなんで新型オメガって分かったんだ?」
『反応が一つしかなかった』
「ベリアルって可能性は?」
『いや、もっと大きい。オケアノスよりも。それと既に海の中にいる』
クラゲオメガのオケアノスよりも? あいつだって成長したら高層ビル並みの大きさになるというのに。一体どれだけ大きなオメガなんだと不安になりつつも海を眺めていると、海面が盛り上がっているのは見えた。
まるで巨大な何かが泳いでいるかの様に。
「総員、備えろ。でかいのが来たぞ」
通信で全員に伝えると、緊迫した空気が走る。まるで津波が迫っていると思ってしまう程海面が上がったかと思えば、割れて中から巨大な影が姿を見せた。
海を割って現れたその体は亜麻色だ。表面は恐竜というか爬虫類に似ている。長い角。ヤギの様に巻いた角が左右に2本ずつ。それはヴォーティガンとは違い、歴戦のドラゴンみたいだ。
肉食獣の牙を彷彿とさせる長い牙。光を放っている青い眼球。二足歩行で、前足。だが、鋭い鉤爪が4本見える。後ろ足はオレの後ろにあるホテル並みに太い。長くて太いワニみたいな尻尾も確認できる。
そしてそのデカさ、というか高さは、およそ200メートルといったところだろうか。
何よりもその見た目は――
「か、怪獣だ」
日本人にはお馴染みの巨大生物『怪獣』だったのだ。




