132.女子会
戦乙女部隊。騎士団の中でトウテツの因子を結合し、足が速くなった者がいる遊撃部隊の名前。
最初の頃はランアンドガン、走り回りながら敵を翻弄するのが主な役割だった。ただ、最近は重装兵のバトルライフルの強化、射撃能力が非常に高い機械兵の登場によって、その立場が奪われつつある。
「うぅ・・・。最近影が薄くなってきた気がするであります・・・」
私は同じ戦乙女部隊のアニー、ケイシー、メアリーと夜中に集まってパジャマパーティーをしていたけど、ふと活躍できない毎日の事をぼやいてしまった。
「確かにね~。私達最近なぁんにもしてないからね~」
桃色の髪をしたアニーがのびのびとした口調で肯定する。確かにそれは事実だが、肯定して欲しかったわけではない。
――そこは否定して欲しいところであります。
と言いたかったが、事実なのだから仕方がない。
「でも最近の団長さんって何か良いッスよね! みんなで戦ってるって感じがしてウチは好きッス!」
短い銀髪が特徴のケイシーが元気良く言う。彼女が言う通り、最近の騎士団長殿は変わった。一人で無茶をしなくなり、騎士団だけではなく機械兵や一般兵の人達の経験を積ませる為に上手く指示を出している。
一度マスクをしていない状態で指示を出している時の横顔を見た事がある。そのカリスマというか凛々しさというか、どう言葉にしていいか分からないけど、そのカッコ良さに胸がときめいたのだけは確かだ。
「・・・分かる。騎士様こそ至高」
ほのぼのと、薄紫色の長い髪をしたメアリーがポツリと言う。彼女は騎士団長殿を昔から崇拝している一人だ。きっかけはアールヴヘイムでアンラ・マンユに襲われていた私達を助けてくれた時。絶望の中、颯爽と現れて助けてくれた騎士団長殿に惚れ、崇めているのは彼女だけではない。
――確かにあの時の騎士団長殿はカッコ良かったであります。
けど、私が騎士団長殿に心を奪われたのはもっと前。ベルリンで命懸けで子供を助けながらアンラ・マンユを打ち取った騎士団長殿の姿を見た時だ。この人は見ず知らずの子供の為に命を賭けて戦えるヒーローだと思った時には、私の視線は四六時中その背中を追っていた。
でも、彼の心は既にミカエラ殿とクーナ殿に向けられている。それにイザベラ殿とメイ殿にも。
――よ、4人はさすがに多過ぎであります!
魅力的なのは理解できる。けど両手はおろか両足も埋まってしまっては、自分が入る隙間なんてどこにもない。
「メアリーは相変わらず団長ちゃんの事好きだね~」
「・・・好きなんて言葉で言い表せない。騎士様こそ頂点」
アニーがメアリーの脇腹を肘でつついて言う。対してメアリーは祈る様に両手の指を絡めて上を見ている。まるで神様に祈りを捧げる信者だ。
「団長さんも人気者ッス。アンジーもモタモタしてるとメアリーに先を越されるッスよ」
「うぅ・・・」
騎士団長殿であれば、きっと受け入れてくれるだろう。だけど、既に心を決めた4人が拒絶するはずだ。ただでさえ4人もいたら構ってもらえる時間が少ないのだから。これ以上彼のパートナーを増やす事は嫌だろう。
そう思って私は諦めていた。けど、その翌日。私達4人はミカエラ殿に呼ばれて彼の部屋に足を運ぶ事となった。
時刻は午後9時。こんな夜に一体何の用だろうか? それも戦乙女全員を呼び出すなんて。
そんな疑問を抱きながら彼の部屋にノックしてから入ると、ミカエラ殿が笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃい」
既に寝る準備を済ませていたらしく、透けているネグリジェを着ている彼女。
――凄く・・・凄くエッチであります!
赤ちゃんみたいにスベスベでモチモチの肌が露わになっている。それは女の私から見ても非常に魅力的だった。そんな彼女に見とれていると、アニーが口を開く。
「あのぉミカエラちゃん? 今日はどぉして私達を呼んだの~?」
「そうッス。もしかして緊急事態ッスか!?」
母艦内にオメガが侵入したのかと辺りを見回すケイシー。けど、そんな緊急を要している雰囲気には見えない。焦るケイシーを見てクスクス笑う彼女。
「違うわ。今日は貴方達に彼の相手をしてほしくて」
そう言ってソファーでうたた寝している彼に視線を向ける。彼の相手をしてほしい、その意味はおそらく私達が考えているものと相違ないだろう。
「え? 今日誰もいないと思ったらアンジェ達の相手させようとしてるの?」
逆に何も聞かされていなかった彼が驚いてこちらに視線を向けてくる。ミカエラ殿の独断、というより誰もいないという事はクーナ殿達も同意しているという事だろう。
ただ、彼女達の邪魔にならないだろうかと疑問を抱く私だが、その話を聞いて興奮を隠せないメアリーを見て全てがどうでもよくなる。
「き、騎士様とそんな・・・」
鼻血を流しながら体をクネクネと動かすメアリー。満更でも事を隠すつもりなんて一切ない様に見える。
「無理強いはしないわ。間違っていたらごめんなさい。私の目には貴方達全員ケイジに想いを寄せている様に見えたから」
ドキッ、と心臓が跳ねる。ミカエラ殿には気付かれていたのだ。私達が彼に気付かれない様に、隠し続けていたこの想いを。
当の本人は全く気付いていなかったらしく、口をあんぐりと開けて目を丸くしている。
「私はいなくなるから、彼の事よろしくね」
私達の返事を待つ事なく、彼女は彼に投げキッスをして退室してしまった。
残された私達の間に気まずい沈黙が流れる。が、最初に動いたのはメアリーだった。
「メアリー21歳。経験人数はゼロ。対戦よろしくお願いします!」
「え? あー、うん。よろしく」
服を脱ぎ捨て、意味不明な発言と共に彼の前でお辞儀するメアリーに、騎士団長殿が戸惑う。
――こ、こんなムードのない初めては嫌であります!
それも4人同時でだなんて、そう思う私とは裏腹にアニーとケイシーが服を脱いでメアリーに続いて彼の前で頭を下げる。
「私もよろしくお願いします~」
「ウチも初めてッス! オナシャス!」
「お、おう」
この流れに私も乗らないといけないのだろうか・・・。とは言え、乗り遅れたら私だけ取り残されてしまう。そうなれば、絶対に公開する。
――それは嫌であります!
彼女達に続き、私も服を脱いで頭を下げる。
「騎士団長殿・・・。女として見られていないのは自覚しているであります。でも、こんな私でも・・・抱いてくれますか?」
女性としての魅力が騎士団の中で最も無いのは自覚している。それでも、騎士団長殿を想う気持ちは嘘ではない。不安で震える私の肩を、ゴツゴツとした固い手が触れる。
「ホントに、オレでいいのか?」
顔を上げると、恥ずかしそうに言う彼。それだけで彼が私を、私達を一人の女性として見ている事が分かる。
「騎士団長殿がいいであります」
「女の子にそこまで言われたからには本気を出さないとな。分かった、一生忘れられない素敵な夜に出来る様、頑張るよ」
初めて会った時から好きだった。一目惚れではなかったけど、この3年間、ずっと想っていた。想い続けていた。それが今日、報われる・・・。
彼に触れる度、触れられる度、彼を想う気持ちが増していく。胸がフワフワになり、今まで感じた事のない幸せが溢れてくる。
そして、その日、私は女になった。




