131.ライバル
ナノマシンの修復が終わったのか、およそ2秒程でマキナが動き出す。
「ったく、団長さんよぉ。随分行儀の悪い戦い方だな」
「逆にお前が行儀良すぎるんだよ。コマンダーに言って手足にも武器を内蔵したり、打撃の威力が上がる機構を入れてもらったらいいんじゃないか?」
「そうするかぁ。今のままじゃ団長さんに勝てる気がしないしな」
素直にオレのアドバイスを聞き入れるマキナ。意外と可愛いところもあるんだなと思っていると、険しい表情をしたルカが彼の背後に忍び寄る。
「不意打ちなんて、礼儀も知らなければ知能も低いみたいですね。いっその事脳も機械にした方がいいのでは?」
おう・・・。ルカが毒を吐くところ初めて見た。確かにマキナは不意打ちまがいの攻撃をしてきたが、それについては特に思うところはない。いつもの事だし、何よりそれぐらいの気概があるヤツじゃないとオメガと戦い続けるのなんて難しいからだ。
だが、ルカは気に食わなかった様だ。マキナを見下した表情で睨みつけている。
「はっ。大好きな団長さんを取られて寂しかったんでちゅか~?」
それに対して煽る返しをするマキナ。
「・・・殺されたい様ですね」
苛立っているのか、眉をピクピクと震わせるルカ。
「さっきは団長さんが止めたおかげ無事だって事忘れたのか? そんなに地面とキスしたいならさせてやるよ」
一触即発の雰囲気。二人は同い年だからか、仲が良いみたいだ。やっぱり、ライバルとも言える存在がいるとモチベーションが上がるのだろう。オレとコマンダーの関係に近いかもしれない。
「ハハッ。二人とも仲良しだな」
「どこがだよ!」
「どこがですか!?」
ほら、息もピッタリだ。それならやる事は一つだけだ。
「二人で協力してオレの事倒してみたらどうだ? もし勝てたら、そうだな・・・。アダマンタイト製の武器でも造ってやろうか?」
ルカは既にアダマンタイトの短刀を持っているが、マキナが使っている斧はコマンダー特製の合金だ。今まで地球上に存在していたものをはるかに凌ぐ硬度と靭性を誇るが、それでもアダマンタイトには劣る。一応アダマンタイトのコーティングはしているが。
褒美としては悪くないだろう。それに前回の戦闘でベリアルにアダマンタイトを増殖させた分の使い道をコマンダーと考えていたところだ。騎士団以外にもアダマンタイト製の武器を渡しても良い頃合いだと思う。マキナなら、今まで以上に活躍してくれる事だろう。
ルカも前に比べて背も伸び、体も仕上がってきている。そろそろ短刀を卒業して長剣か刀を持ってみるのもいいかもしれない。スピードを生かした二刀流も悪くはないが、今後は戦車型も任せたいと思っていたところだし。
騎士団の中で戦車型を相手できるのは、今のところミカエラ、クーナさん、クララ、イザベラ率いる重装兵ぐらいだ。そろそろ他にも対応できる人員を育成しなければ。
騎士団の増員が最も手っ取り早いが、魅力的な人員がいないんだよなぁ・・・。ビビッと来る人が全くいない。
志願兵も、配信のおかげで増えたが、そもそもあの映像を見て志願する様なヤツが活躍できる訳がない。マキナみたいな戦う覚悟があるヤツならまだしも、夢を見て軍人になるヤツが多過ぎる。実際はオメガが襲撃してくる間の数か月は朝から晩まで訓練をする毎日だ。いつも戦場で活躍している訳ではない。
その現実に耐えていけるかという懸念が拭えないのが現状だ。秩序が乱れなければいいが・・・。
オレが考え事している最中、ずっとマキナとルカの猛攻が続いていた。ルカが攻撃しているのを見るに、不意打ちではなく合図をしてくれたのだろうが、気が付かなかった。
「避けてばかりかよ!」
「悪い、考え事してた」
マキナの悪態に返し、オレは反撃を開始する。ほぼ無意識の内に避けていた二人の攻撃を防ぎ、強めに押し返すと、呆気なく体勢を崩してしまう。
「相変わらずの馬鹿力だな」
「さすがお兄さんです」
ルカにゴライアスの適性があれば話は違ったかもしれないが、スピードがあるからと言って正面から斬りかかっては簡単に反撃されてしまう事を理解してほしい。マキナとタイミングを合わせたとはいえ、二人の力でもオレには敵わない。
そのスピードを活かしてオレの体勢を崩すか、隙を生み出し、マキナに止めを刺させるといった協力ぐらいして欲しいが、即興で出来るだろうか? まあ、仲良しだし出来るか。
期待しつつ、マキナに斬りかかる。因子を活性化しない程度に本気を出して。
「くっ! マジで理不尽なぐらい強ぇな!」
悪態を付きつつもオレの攻撃を何とか防ぐマキナ。何だかんだ言って反応速度や判断力はかなり優れている。もしマキナが適合者で、オメガ因子にも適性があれば、きっとオレに匹敵する強さになっていた事だろう。
マキナが押されているのを察し、すぐにルカがオレの背後から奇襲を仕掛ける。過去のルカであれば遠慮して背後から攻撃なんてしなかったが、勝つ為に下らないプライドを捨てろと言ったら、すぐに一皮剥けた。
だが、リーチの短いルカでは攻撃が届くまで一瞬遅れてしまう。その一瞬があれば十分。その容赦のない攻撃を、マキナを力尽くで押し飛ばしつつ回転して剣で受け止める。
「止められた!?」
「おもちゃの剣じゃオレには届かないぞ」
ルカが愛用している短刀。おもちゃの剣と呼ぶにはあまりにも物騒だが、ルカがいくら強くなろうとその短い刃では戦車型といった大型のオメガを仕留める事は出来ないだろう。ルカがもっと上を目指すのであれば、それを卒業する必要がある。オレが初めてあげた武器だからと、執着するのはよろしくない。
「背中がガラ空きだぜ!」
ルカの攻撃を受け止めていると、背後からマキナが迫りくる。咄嗟にルカの短刀を受け止めている剣を引き、そして真上に投げる。
「っ!?」
その行為にルカが戸惑い、体が硬直した。隙を晒したその胸部に左手で掌底を叩き込むと、軽いルカの体は簡単に数メートルは吹き飛ぶ。そして振り返り、頭上に振り下ろされたマキナの斧の刃を右手で掴んで止める。
「おいおい・・・嘘だろ・・・」
アダマンタイトの義手である右腕であれば、無傷でそれを実現できる。その事を知らないマキナが驚愕するが、まだ手合わせは終わっていない。真上に投げていた剣を左手でキャッチし、マキナの首に添える。
「オレの勝ちだな」
二人で同時に攻撃する事がなかった為、簡単に制圧する事が出来てしまった。二人が連携を取れるようになるまで、もう少し時間が掛かりそうだ。
「だぁ! マジで化け物だな。勝てる気がしねぇ・・・」
「2対1でも1回も攻撃が当たらないなんて・・・」
ショックを受けている二人。だが、ほぼ同じ実力を備えている二人だからこそ、誰よりも実力を伸ばせる機会があるはずだ。競い合ったり、協力し合ったり。形なんてどうだっていい。オレはただ、きっかけを与えてあげるだけだ。
「時間はまだまだあるんだ。何としてでもオレに一回でも攻撃を当ててみてくれ」
オレの挑発でやる気を出した二人の相手を、半日以上する事になったのは想定外だった。だが、今日だけで二人はかなり強くなった。これだけ頑張ったのであれば約束とは違うけど、武器はプレゼントしよう。
今後人類の未来を担っていくのは、若い二人なんだから。・・・いや、二人とは歳一つ二つしか変わらないんだけどさ。




