130.制裁
記者会見から数日が経過。オレの予想通り、家族に対してマスコミやら陰湿なネットの書き込みがあったらしいが、ガブリエル大統領とコマンダーが楽しそうに制裁を加えたらしい。それもかなりキツいものをだ。
マスコミに対しては手を引かなければ億単位の損害賠償を請求すると脅した模様。それも円ではなくドルで。オレが戦いに集中できないという理由プラス一国の法律よりも力を持つ連合軍の命令という形でだ。
陰湿なネットの書き込みに対してはコマンダーがハッキングし、書き込みをした人間のスマホやパソコンといった情報媒体にウイルスを送り込み、二度と使えない様にしたと上下にフワフワと浮かびながら言っていた。相当、いやかなり楽しかった様だ・・・。まあ、あいつの技術力からしたら、蟻を踏み潰す程度の事だろうけど。
ちなみに書き込むをした個人も特定し、例え買い換えてもウイルスを送り込み続ける徹底ぶり。つまりインターネットから遮断された人生を、今後コマンダーが飽きるまで送る事になる。恨むなら馬鹿な事をした自分を恨んでくれ・・・。まあ、そんな書き込みをする馬鹿が自責する訳ないだろうけど。
オレはコマンダーにそこまでやれとは言っていない。だがコマンダー自身、かなりノリノリでやっていた。楽しそうだし、止める理由もないから好きにさせたが。そいつらの個人情報を晒そうとした時はやりすぎだと思って止めた。初犯でそれはかわいそうだ。そこまでやるのは再犯者だけでいい。コマンダーもそれで納得していたが、ネットが使えないから再犯できないという矛盾が生まれている事は口にしなかった。
制裁の内容は炎上しそうなものだが、ネットに書き込む手段がないのだから炎上するはずもない。
そういう訳で家族の平穏な生活を取り戻すのに奔走していたが、それも落ち着いた。
漆葉家にそんな騒動があったにも関わらず、日本は動こうともしなかった事につくづく嫌気がさす。連合の会議にも一度も顔を出していないのは日本の総理だけだ。呆れて文句も言う気にならない。
オレに気を遣って、ガブリエル大統領がアメリカに国籍を移した方が幸せになれると提案してきたが、正直その通りだ。将来、ミカエラとの結婚も考えると、そうした方がいいだろう。
本来なら自国の兵士とも呼べる存在が他国に移籍するという話が浮上すれば、阻止すると思うが、案の定日本からのアクションは一切ない。滞る事なく、数日でオレはアメリカ人になった。とは言っても今までの生活と特段何か変わる訳でもない。問題が発生する事はない。
まあ、問題と言ってもいいのかは分からないが、オレがアメリカ国籍になった事でミカエラとイザベラが大喜びして昨日は一睡もできなかった。今は二人共ベッドでスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。
「ふぁ~」
眠たくて欠伸が出るが、超回復を使えば睡眠不足も解消できる。二人のおかげで心が癒され、精神的な疲れは一切ない。
さてと、今日は何しようか・・・。ここ数日は訓練も出来ていなかったし、久し振りに体を動かすとするか。ルカの面倒を見ないといけないし、マキナと遊んでやる約束もしている。
そういう訳で訓練場に移動すると、既にルカとマキナが手合わせしていた。ランニング等の通常のトレーニングをするよりも、実戦を通して経験値を積む方が団員達は強くなれるだろう。今となってはただランニングしてもあまり意味を成さない。
機械兵に関してはトレーニングしてもあまり意味がない。マキナの様な全身機械兵の連中に関しては一切意味がない。育つ筋肉がないからな。体を動かすなら、やはり実践が効果的だ。
「朝早くから精が出るな」
とりあえず二人に声を掛ける。オレの声で二人が手を止め、こちらに視線を向けると、それぞれジャンルの違う笑みを浮かべた。ルカは飼い主を見付けたゴールデンレトリバーみたいな笑みを、マキナは新しいおもちゃを見付けた悪ガキみたいな笑みを浮かべていた。
「お兄さん! 訓練しに来たんですか?」
「ああ。もしよかったらオレが相手しようか?」
「本当ですか!? ぜひお願いします!」
素直に喜ぶルカに対して、マキナは自前の斧を肩に乗せてニヤニヤしている。
「随分気前がいいじゃねぇか、団長さん」
「前の戦場で約束しただろ」
「そういえばそうだったな。なら遠慮はいらない、よなぁ!」
まだ準備していないというのに、いきなり攻撃を仕掛けてくるマキナ。その速さは常人とは比べ物にならない速度だ。だが、トウテツの因子を結合しているルカやアンジェ、バステトの因子を結合している団員には劣る。
斧の重さを利用した攻撃。斧といっても長くて大きいものではなく、ハンドアックスと呼ばれる片手で振れるタイプより刃がやや大きく、柄は短いタイプだ。アイスピッケルのデカいバージョン、と言ったら分かりやすいかもしれない。
オレは咄嗟に剣を出して軽くガードする。マキナのパワーはイザベラに劣るレベルだ。つまり、マキナはかなりオールラウンダーというか器用貧乏と呼べる。パワーもスピードもそこそこ。射撃の能力は高いので、中遠距離に強くて、近距離も実践レベルと言ったところ。
一方でオレはガチガチの近距離特化型。中距離もサイコキネシスで戦えない事もないが、あまり強い訳ではない。銃を持ったマキナと戦えば、負ける事はないが、接近するまでに時間を要するだろう。
マキナ自身もそれは理解している。が、男子たるもの、ガチンコ勝負に銃を持ち出すなんて言語道断。昭和のヤンキーみたいなマインドをしているマキナがダサい真似をするはずがない。
そのまま距離を取る事なく、オレに斬りかかってくる。
「オラオラオラァッ!」
片手で斧を振り回しながら、一切退く事なく連撃を繰り出してくる。まあ、その心は嫌いじゃないが、もっと工夫を施してほしいものだ。
パワー、スピード、そしてテクニック。近接戦闘においては全てオレが上回っている。それを正面から、それも真っ向勝負で挑んでくるのは無謀とも言える。
「随分綺麗な戦い方だな。もっと足癖を悪くした方がいいんじゃないか?」
そう言ってマキナの斧を剣で弾くと同時に、その腹に前蹴りをお見舞いする。
「ぐっ!」
機械で出来た体が5メートル程後方に吹き飛ぶ。身長170センチ程のマキナだが、機械で出来たその体は200キロはある。そんな重量の体が浮くぐらいの蹴りを食らえば、普通の人間であれば相当苦しいはず。
だが、マキナは痛がる素振りを見せない。まあ、痛みを感じていないだけだけど。とは言えダメージはゼロではない。今は損傷を修復する為に体内部に存在するナノマシンが奔走している事だろう。




