129.漆葉家
オメガとの戦いが配信されるのはニュースでも大々的に取り上げられた。お兄が出るかもしれない、そう思ってパパとママと3人で見る事にしたのだが、内心悲惨な目に遭わないかヒヤヒヤしていたのは私だけではないはず。
だけど結果的に言えば、お兄が出たのは一瞬だった。大きな刀で巨人とも言える人型のオメガを斬った最後の最後の一瞬だけ。美奈に教えてもらったおかげで、あれがお兄だというのを知る事ができた。本当に同一人物かは怪しいけど。背も高く、スタイルもモデルなんか比較にならないぐらい綺麗だ。
あれが血の繋がった実の兄だというのが今でも信じられずにいる。が、あの配信から3日経った今、一輝から送られてきた動画をパパとママと見て、その考えを改める事になった。
それは記者会見の動画で、前に家に訪ねてきたガブリエル大統領の姿がある。その隣には黒い仮面?マスク?を付けているお兄の姿も。更にその後ろには雰囲気からでも美人だと分かる女性が4人おり、お兄と似たような仮面を付けている。
大統領が英語でのスピーチを終えたと思ったら、お兄に質問をする記者。英語のテストであまりいい点数を取っていなかったお兄が英語を話せるはずがない、そう思っていたのに対して、流暢な英語で返答するお兄。
何を喋っているのか全く分からないけど、お兄が突然仮面を外した。
「啓司・・・か?」
その素顔を見てみるが、パパが本当にそれがお兄なのか確信を持てない。それは私もママも一緒だ。お兄、にしてはイケメン過ぎる。お兄の顔はもっとマヌケのはず。だが、次の発言のおかげで確信する事になった。
『My name is Keiji Urushiha.I am Japanese.』
今、確かにケイジ ウルシハって言った。動画を巻き戻してもう一度再生して確かめてみるが、聞き間違いではない。それにジャパニーズとも言っていた。
「あぁ・・・ケイ君・・・」
お兄の顔を見て、ママが口元を押さえて涙を流す。釣られて私も涙が溢れてきた。もらい泣きしてしまい、ママと二人で泣いていたらパパが優しく抱きしめてくれた。
あれは本当にお兄なんだ。4年振りに見たその姿は、以前とは大きく違うけど、そこにいるのは確かにお兄だった。
お兄が生きている確信を持てて、その顔を見れて、私達家族の心が安らぎ、平穏が訪れる。
そう思っていたけど、実際には違った。犯罪者でもないのに、ネットにお兄の個人情報は出回り、私達の家に記者が押し掛けてきたのだ。
プライバシーなんて気にする素振りも見せずに、ただひたすらにマイクを突き出して怒鳴る様に話し掛けてくる心無い行為。まるで自然公園にいる、エサを求めて群がっては口を開けている鯉だ。
だが、そんな連中が数日でパタリと消えた。一体何が起きたのか分からないが、ネットに出回っていたお兄の情報が全て消え、好き勝手に誹謗中傷しているものも一切なくなっていたのだ。不安要素が消えるのは嬉しいけど、何が起きているのか分からないのも怖い。
が、想像はつく。ガブリエル大統領かお兄が手を打ったのだろう。日本のマスコミをも黙らせる力を持っている存在。そんな大物は大統領ぐらいだ。同級生からも好奇心であれこれ聞かれるが、無視していればすぐに興味を失うだろう。
そうして、数日で元の生活が戻ってきた。毎月美奈も帰ってきて、軍での生活をよく話してくれる。お兄の話は、残念ながら一切ないけど。それもそのはずだ。お兄は最前線で戦っており、美奈は後方でサポートしているだけだから、接点がない事ぐらい容易に想像できる。
ただ、一つだけ心配している事があるとすれば、それはお兄の女性問題。美奈が言うにはお兄のいる部隊は絶世の美女ばかりで、お兄がハーレムを築いているなんて噂を聞いたらしい。もちろん、奥手のお兄にそんな甲斐性がない事ぐらい分かっている。
けど、映像で見たお兄の顔は、妹である私から見てもカッコいいと思えるぐらいイケメンだった。その甘いマスクで女性を引っ掛けている、という路線も考えられる。
「うーん・・・。変な女の人に引っ掛からないといいけど・・・」
お兄は優しいけど、それ以上にアホなところもあるから心配だ。心配する事以外出来ないのがもどかしいが、戦うのに忙しいと思うからきっと大丈夫だろう。
早く戦争が終わって家に帰ってくる事をひたすら祈るばかりだ。




