128.質疑応答
その時間が始まっても、基本的にはガブリエル大統領に向けられたものが多かった。今回の配信に伴い、連合および防衛軍の存在意義を改めて認識した人達に対して、増税等の金銭の徴収を行う予定なのかといった質問。それとも兵隊の召集を再度行う予定があるのか等。
自分たちは戦いたくもなければ、金も払いたくないと間接的に言っている内容だというのに気付いていないのだろうか?
そんな記者に呆れていると、不意にオレに対して質問が飛んできた。
「今回参加されている特殊部隊の方にお聞きします。オメガとの戦いにおいて、最も死者が出てしまうのはどのような時なのでしょうか?」
流れ的にオレに質問が来るとは思っていなくて油断していた。とはいえ、別に失礼な内容ではないので、普通に応えてあげる。こういう時って名乗った方がいいのかな?
「特殊部隊、騎士団の団長、漆葉です。オメガとの戦闘において多くの死傷者を出してしまうのは新型種が現れた時です。新型種はどんな力があるのか、どんな能力を持っているのか分からない為、対応が後手に回ってしまうというのが主な原因です」
完璧な回応だろう、と思ってガブリエル大統領に視線を向けると、テーブルの下でサムズアップしていた。特に問題はなさそうだ。
「新型種、ですか。我々にはオメガの情報が伝えられておらず、どれが新型種なのか判断できません。その事についてはどうお考えですか?」
いや、知らねぇよ。喉のすぐそこまで出掛かった言葉を引っ込める。炎上させる訳にはいかない。
オレ個人で返応していい内容ではないと判断して、ガブリエル大統領に助けを求める。が、返ってきた言葉は予想外なものだった。
「応えてくれ、ウルシハ騎士団長」
一瞬、怒りのボルテージがマックスまで上がりそうになり、机の下で握り拳を作るが、逆に言えばその対応をオレに任せるという事だろう。おそらく、情報を公開してもいいと意味だと悟る。
確かに、今このタイミングで情報を公開すれば、どのマスコミもオメガの情報で持ち切りになる。それが狙いだと意図を汲み取り、オレは記者の質問に応えた。
「・・・分かりました。我々が今まで遭遇したオメガの情報を公開します。詳細については別途協議した上でご報告します」
ザワザワと会場が騒がしくなる。今まで情報規制していた内容を、たった一度の質問で公開するというのだから無理はない。これを機に、他の事も聞いてやろうと躍起になった記者がみんな手を上げる。
「今回の配信で映っていた内容についての質問です。空想上であるドラゴンの見た目をしたオメガの存在が確認されましたが、空想上の生物が現れた原因分かっているのでしょうか?」
知らんがな。オレに聞くなよ。オメガ博士はコマンダーなんだから。
憶測でしかない回答しかできないが、ガブリエル大統領が頷いているのを見るに、今回もオレが対応していい様だ。
「オメガが人間を捕食する理由の一つに、情報収集があります。捕食した人間の記憶をオメガ全体で共有する能力があると考えられており、その為空想上の生物であるドラゴンを模倣したと推測しています」
再びのザワザワ。まあ、模倣しただけではなく、実践で通用するレベルの状態で戦場に送られてくるのが非常に厄介な点でもあるのだけれど。
「では、今後も空想上の生物が出る可能性があるという事でしょうか? 例えばペガサスやビッグフットの様な」
さすがにそんなファンタジーのオメガは見た事ないな・・・。いや、ドラゴンも存在しているし、いても不思議じゃないけど。
「可能性としてはゼロではないと思います。ただ、もっと攻撃的な生物が選ばれる可能性の方が高いと考えられます」
空を飛ぶだけの馬なんて脅威になりえないし、デカいだけのゴリラならゴライアスがいる。それらが今後現れる可能性はほぼないだろう。
ザワザワ・・・。何回ザワザワすんねん。まあ、空想上の生物が実在するかもしれないという話で興奮してしまうのも分かるが、オメガなので有害だという事を忘れないで欲しい。
「一つお伺いしたのですが、映像の中でそのドラゴンが不自然に、何かに持ち上げられている様なシーンがありましたが、それについてお聞かせください」
ミカエラのサイコキネシスによるものだが、オメガ因子の事をまだ伝える訳にはいかないだろう。ガブリエル大統領も机の下で手の平を下に向けている。まだ言うな、という意味だ。
「それについては御答え出来ません」
キッパリそう言うと、記者はすんなりと引き下がった。オメガ因子を持つ人間を標的にされる危険がある為、開示するには騎士団の知名度を上げてからする必要がある。
何でも応えてくれそうな雰囲気の中、バッサリと回答を拒否した事で、会場が一瞬静まり返る。が、別の女性の記者が質問を投げかける。
「ウルシハーさんのお顔を拝見する事はできますでしょうか? 騎士団、と名乗っていましたが、顔を隠す理由はありますか?」
「プライバシーの問題です。が、見たいのであればお見せしましょう」
別にオレの顔を見られるぐらいなら問題ない。マスクを外し、オメガ因子の影響で青くなってしまった瞳で記者を見据える。
緊張しているのか、固唾を飲みこんでいるのが窺える。それと誰がウルシハーだ。
「あ、ありがとうございます・・・。あの、ウルシハーさんはどちらの国の方なのでしょうか? 非常に整った顔立ちをしているのでどちらの国の方か分からないのですが・・・」
オメガ因子を結合してから顔立ちが少し変わったのは認めるが、皮肉で言っているのだろうか? もしかしたらサイボーグと思われているのかもしれない。それはそれで何か嫌だな。マキナならそう思われても仕方ないと思うが、オレを機械兵と勘違いするとは納得できない。
「私の名前は啓司 漆葉。日本人です」
漆葉家の血統書付きだ。効果音付きでそう言ってやりたいが、ふざけたら後で怒られるから言わない。そもそも人に血統書なんてない。犬じゃあるまいし。
オレが日本人だと言った瞬間、過去一大きなザワザワが会場を支配する。さすがに騒がしくなりすぎだと思ったが、ガブリエル大統領が軽く手を上げるだけで再び静寂が訪れる。半端ないな、あの人。
静寂を破ったのは先程オレに質問をしてきた記者だ。
「その、オメガと戦うのは怖くないのでしょうか? 映像の中では、ウルシハさんが剣で戦っている様子が窺えましたが」
何故みんなオレに戦うのが怖くないのかと聞いてくるのだろうか? 戦う力がないまま、オメガに襲われる方がよっぽど怖いと思うけど。軍人でもない人間が目の前にトウテツが現れたら失禁するだろう。逆に守られる立場ではなく、戦う立場であれば、ただ敵を葬ればいいだけの話だというのに。
「恐怖はありません。軍人として戦地に立ったのであれば、ただ勝つ事のみを考え、行動する。それだけです」
オレの回答に満足したのか、それとも雰囲気に圧倒されたのかは分からないが、それ以上質問される事はなかった。そうして質疑応答の時間も終わり、記者会見は終了となった。
「ふぅ。疲れた」
その後は自室に戻り、休む事にした。精神的な疲労は超回復でも癒せないから。改めて、オレは戦う事以外はてんでダメだと認識する。記者会見をするぐらいなら、毎日戦っている方が楽だ。




