125.生放送
3か月後。約半年ぶりに地球にオメガが襲来した。その場所はシドニー。オーストラリアにオメガが来るのは、ファーストコンタクト以来だ。あれから既に4年近くの月日が流れていると思うと、随分長い事戦い続けていると感慨深くなってしまう。だが、今回の戦いはいつもとは異なる。
今回のこのオメガ迎撃作戦は、一部の動画サイトで生放送されるという事だ。コマンダーがカメラを内蔵した複数のステルスドローンを飛行させ、それで配信する。まるで何たらチューバ―みたいだが、今回の配信限っては平和とかけ離れた、血生臭い映像が流れるだろう。
まあ、人間のスプラッタ映像が配信されない様にコマンダーに協力してもらうのだが。ライブ映像が放送されるまでの遅延を利用し、R指定な映像が流れそうになったら瞬時に別のカメラに切り替わる様に対応する予定だ。
何故そこまでしてこんなにも面倒な事をしようとしているのかというと、未だにオメガが脅威だと思っていない民衆に理解してもらう為だ。オメガを信仰する狂った宗教のバカ共は置いておくとして、未だに襲われていない日本やその他の国に住まう人に、オメガという存在を知る機会を与える必要がある。
侵略者どれほど危険な物なのかを知ってもらいたい。ただただ、そう願っての行いだ。
某有名な動画サイトでの配信も行っているが、既に視聴者の数は1億人を突破している。コマンダーがその配信のみ自身の技術を使ってサーバーがパンクしない様にしている為、例え視聴者の数が10億人になろうが問題はない。
『こちら準備完了よ』
ミカエラから準備が整ったと連絡が届く。それに続いて騎士団全員から同じように返事があった。何の準備をしているのかというと、各隊が指定のポイントまで移動し、戦闘の準備をしていたのだ。
あれからオレは一人での出撃をもちろんやめた。そして今回の戦いに関しては、騎士団にも自粛してもらう事にした。
では誰が戦うのかというと、オレのせいで実践経験を積めなかった適合者達、つまり強化兵でも機械兵でもない軍人達に戦ってもらっているのだ。
みんなにはその軍人達の護衛。要は子守。危険だと判断した際に、彼らを助けるという役目を担っている。
『こっちも準備出来たぜ。団長さん』
そして機械兵のデウスエクス部隊、それを率いるマキナにも協力させている。オレ達騎士団だけで数百人を守りながら戦うのは大変だからだ。
「悪いな。今回は暴れられないから物足りなくなるかもしれない」
『まあ、その分団長さんが相手してくれりゃいいぜ』
不完全燃焼というか、暴れられなくて鬱憤が溜まるであろうマキナのガス抜きをする為、もしかしたら遊ぶ事になるかもしれない。オレが遊んでいるだけで、向こうは本気で殺しに掛かってくるかもしれないが。
「そのぐらいなら別にいいさ。何なら、イザベラを誘うか?」
『・・・気の強い女は嫌いじゃないけど、あれは勘弁してくれ』
過去にイザベラと戦った際、腕を引き千切られ、その腕で顔面を何度も殴られたのがトラウマになったらしく、マキナはイザベラに苦手意識を抱いている。なるべく接触しない様に立ち回る程に。
「そっか。オレからしたら最高の女性だけどな」
『団長さんの惚気話はうんざりだ』
繁華街にある大きなビル。サーキュラーキー駅と呼ばれる駅の近くにあるそのビルの屋上で、全体を見下ろしながら通信していると、ため息と一緒に通信を切られてしまった。
可愛くないヤツだ。イザベラがベッドの上だとキス魔の甘えん坊だという事を教えてやりたい気持ちもあるが、オレだけが知っているという優越感にも浸りたい。
そんな事を考えていると、空からいつもの卵が落下してくる。
街中にいる一般人は既に避難済み、のはず。バカな事をしようとしている若者や頭がいかれたオメガの宗教共の妨害も考えられる。が事前にみんなには注意喚起しておいたから大丈夫だろう。
卵型ポッドの着弾地点もコマンダーが計算している。今回の戦いは生放送するという事もあり、いつもより準備を万端にした態勢で作戦に臨んでいる。
シドニーを代表していると言っても過言ではない、あのギザギザした白い建物の上を、卵が通過してオレのすぐ目の前にあるフェリーターミナルにいくつか着弾する。外れて海に落ちたものもいくつかあるが、想定の範囲内だ。
ちなみにあの白い建物がオペラハウスだというのを、オレはつい先程アンジェに教えてもらって初めて知った。野球が出来るドームだと思っていたのは恥ずかしくて言えない。
下らない事を考えていると、卵が割れて、中からオメガの大群が湯水のごとくあふれ出す。今回のオメガの数は多くない。オレ達からしてみれば普通、並み、そこそこと言ったところだが、一般兵からしたら多いかもしれない。
だが、今回の舞台であるフェリーターミナルはコの字になっており、囲う様に兵を配備しているから苦戦する事はないだろう。それに万が一に備えて、機械兵にはスナイパーライフルを持たせて待機させている。少し離れた位置にある大きな橋、ハーバーブリッジから200人の機械兵が銃を持って待ち構えているのだ。もしオメガが逃げてもハチの巣にされる運命を辿るだろう。
今回配備した一般兵の数は500人。50人一組の小隊で編成し、全部で10組。正面の小隊には、騎士団でも主力のミカエラ、クーナさん、イザベラ、メイシャに、側面に展開している小隊にはすぐに駆け寄れる機動力を持ったルカ、アンジェ、メイシャに任せている。
クララはもしもの時の為に付近を巡回している輸送船内で待機させている。もし異常があれば千里眼で敵を仕留めてもらう為だ。
今回の作戦、死者は出ないだろう。その為に念には念を入れて準備をした。民衆に危機感を持って欲しくて行う生放送だが、十二分に用意したせいで防衛軍の圧勝で終わってしまうのではという懸念もあるが、そうなったらそうなったで信頼が得られる。そのおかげで志願者が増えるかもしれない。
どっちに転んだにしろ、今回の件でマイナスに働く事はないだろう。だからこそ、ガブリエル大統領も今回の件に賛成してくれたのだ。だが、無暗に兵士を死なせる様な真似はしない。その為に、オープンチャンネルで通信回線を繋げ、作戦に参加している全員に命令を下す。
「総員、指示通りに動いてくれ。これが初の実戦になる者もいるかもしれないが、我々騎士団が付いている。恐れる事はない」
作戦、と言っても正面と側面からひたすら射撃するだけのものだが。
「持っている全ての弾をオメガにお見舞いしてやれ。では総員、作戦開始ッ!」
合図と共に、津波の様に押し寄せてくるオメガに銃弾の雨が降り注いだ。




