115.奪取
体が回復したところで、ヤツの防御力を突破できる術がない。騎士団を呼んで対抗したところで、火力が足りないだろう。かなり厳しい状況、いや絶望的な状況とも言えるだろう。
ヤツに視線を向けると、オレを殴った拳が黒く染まっている事に気付く。コートの袖を確認すると、アダマンタイトのコーティングが剥がれ落ち、ヤツに奪われていた。
持久戦に持ち込まれたらマスクやコート、それ以外の衣類にもコーティングされているアダマンタイトが全て奪われてしまうだろう。かといって早期に決着をつける方法なんて思いつかない。
いっその事、アダマンタイトを吸収できなくなるぐらい身に纏わせてから剣で対処してみるのも有りかもしれない。いや、どちらにせよアダマンタイトの鎧を貫通できる攻撃手段なんてないか。
「なあ、アイツ段違いの強さなんだけど」
『先程の攻撃と防御を計測したが、ゴライアス以上の腕力にベヒーモス以上の防御力だ。そして格闘技を身に付けていると考えられる。先程のストレートはただ腕を突き出した程度で出る威力ではない』
そりゃそうだ。前にヴォーティガンの尻尾を食らった時よりもダメージを受けている。もし連打や蹴りまであの威力なら、バラバラにされてしまう事だろう。
「絶対に皆を転送させるなよ。オレ以外だと一撃で即死するぞ」
『・・・了解だ。勝てる見込みはありそうか?』
いや、全くなさそうだけどさ・・・。ま、でも――
「なんとかしてみせるさ」
楽観的だが、それでもやり遂げねばならない。こんなヤツを野放しにしていたら、惑星マザーがメチャクチャにされてしまう。
正直ここまで戦力差というか、手も足も出ないオメガは初めてだけど、ビビっている場合じゃない。自身を奮い立たせ、オメガ因子を活性化させる。
脚力強化、疾風のごとく、ヤツに接近。腕力強化、そしてヤツの腹部目掛けて拳を突き出す。超集中、当たり前の様に躱され、反撃を受けそうになるもそれを回避。念動力、右足にサイコキネシスの衝撃波を纏わせ、腹部目掛けて蹴りと同時にそれを放つ。
ドゴッ――
ゼロ距離から放たれたそれは確かにヤツの腹部を捉え、その巨躯をノックバックさせる。ホントは顔に蹴りを入れたいところだが、頭部が高すぎる。無暗に跳べば隙を晒してしまうだろう。それに少量のダメージしか与えられていないが、無傷ではないだろう。
しかし、オレのズボンと靴のアダマンタイトコーティングはやはり奪われ、今度はヤツの腹部も黒く染まっていく。そのせいで今後は腹部への攻撃は無効化されてしまうだろう。
攻撃する為に触れれば、防御力が上がってしまう。全身が黒く染まったら、一体どれだけの戦闘力になるのかは想像もしたくない。だが、攻撃の手を緩める訳にはいかない。
再び詰め寄り、なるべくコーティングが剥がれた両腕と右足で怒涛の連撃を叩き込もうとするが、その一連の動作をするよりも一瞬早く、ヤツの右足が迫りくる。後ろに仰け反ってそれを回避し、軸足に右のローキックをかますが、その巨躯を支える足が頑丈じゃない訳がない。
オレの蹴りを物ともせず、ヤツは一回転して今後は右足を軸に、左足で後ろ回し蹴りを放ってきた。
後ろに下がってそれを躱そうとするも、あまりのリーチの差に間合いの外に出るのが間に合わない。仕方なく左足を上げて左腕と同時にそれを受けるが、再び数百メートル吹き飛ぶ羽目になった。
本日二度目の地面の味。そして二度目の骨折。左腕と左足の砕けた骨が再生するも、先程よりも再生の速度が遅い。ここまでの重傷を短時間にした事がなかったから知らなかったが、どうやら無限に再生できる訳ではない様だ。体感的に、後1回か2回が限度だろうか。
左足のコーティングも奪われてしまった。ヤツの左足が黒く染まっている。残るは左腕と右足と頭部。一方でこちらのコーティングは残り胴体とマスク。そしてしまい込んだ剣。
「クソ、マズいな・・・」
順調にアダマンタイトを奪われている事実に焦りを覚える。弱点でもあればいいんだが・・・。
『厳しい状況だ。もう少しだけ時間を稼いでくれ』
「簡単に言ってくれるな・・・」
アダマンタイトを用いたソルジャーを出してもすぐにお陀仏になるだろう。下手な戦力はかえって足手まといになりかねない。普通のソルジャーでは手も足も出ないだろうし・・・。
だから一人で何とかするしかない。コマンダーが対策を練ってくれるその時まで。
「死んだらゴメン」
通信を聞いているであろう皆に告げる。オレがこんな状態になってもみんなが飛んでこないのは、多分コマンダーが転送装置を止めているからだろう。もしかしたら今頃クーナさんやイザベラがコマンダーに殴り掛かっているかもしれない。
コマンダーの体がゴルフボールみたいになる前に、出来る限りの事はしておこう。
オレは覚悟を決めて、三度目の接近戦を挑む為に走った。
みんなには死んだらゴメンと言ったものの、死なない自信はあった。オレが瀕死に陥る度に手を差し伸べる存在がいるからだ。そいつのおかげで自分よりも強いオメガに毎回勝利する事が出来た。だからこそ、今回も力を貸してくれると信じている。
「頼りにしてるぜ・・・。ユグドラシル」
他力本願でカッコ悪いが、全宇宙に1本しか存在しないであろう、神にも等しきその存在に頼らざるを得ない状況になってしまうかもしれない。




